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ズルズルと這い出て姿を現したのは、巨大な緑色の蛇だった。地球の大蛇やアナコンダなんかが可愛く思えるほどの巨体。その大きさは蜷局を巻いているのにイベントホールの天井にすら届く。そして、その頭が九個に枝分かれしているのだ。それぞれの頭が意思を持つように蠢いている。
「こりゃヤバそうだな」
イヴ・ジャバヴォックや骨の王と同等の絶対的な存在感。九個ある頭の18の全ての目が俺へと集中する。チロチロと口の隙間から出し入れしている舌の動きすらが、俺の恐怖心を湧きだたせた。掻きたくもない冷や汗が頬を伝う。
召喚した当本人であるラビッシュは泡吹いて気絶しやがった。この威圧感に耐えられなかったのだろう。それに召喚したのがこんな化物だとは思いもしてなかったのか。
「「「「「「「「キシャアアアアアア」」」」」」」」」
三つまで頭がある化物とは闘った経験はあるが、流石に九個の頭がある化物とどう戦ったらいいのか見当がつかない。兎にも角にも回避しなければ死ぬことだけは考えるまでもなく分かる。
大口を開け二本の鋭い牙が紫色の毒のような液体を垂らしながら俺を飲み込もうと襲ってくる。
跳躍して回避しようと身を屈めたその時
――邪魔が入った。
急に俺の目の前に現れた人影が、襲いかかってきた大蛇の頭の一つを踏みつけ、攻撃を止めたのだ。残りの八つの頭は、まるで重力に負けたように地面へ押さえつけられた。
どこかで見たことのあるシルエットは、国王コウリュウのものだった。黒髪黒目のまるで日本人。高い身長に良く似合っている和装。片足で踏みつけた大蛇の頭を気にもせずに俺へと顔を向ける。その瞳はまるで鷹のように鋭い。
俺は心の底から機嫌が悪くなった。正直今すぐにでも国王コウリュウに掴みかかって殴りたいほどに。闘いの邪魔をされるのが、こんなに腹が立つとは自分でも思いもしない感じだ。
「邪魔すんなよ国王」
「なかなか見込のある小僧とは思っていたが、この儂にそんな口をきくとはのぉ」
「どけよ爺! これは俺の決闘だ。傍観者は黙って見てろ」
「ほぅ 小僧はこの国を脅かす可能性のあるSランクの九頭毒大蛇を決闘の一部であると考えているということかのぉ? しかし国王として民を脅かす異分子は排除するのが儂の役目であるのだが、そこのところはどう考える」
「王なら。俺の決闘を酒の肴にでもしながら胡坐掻いてどしっと構えてればいいだろうが」
「小僧はこの蛇を倒せると?」
「元からそのつもりだ。俺の勝利はこの蛇ごときで揺らぎやしない!」
「く あっはっはっは! よくぞ言ったぞ小僧! そう言うことだ理事長に騎士団長よ! 手を出すでない。この蛇は小僧の決闘相手だそうだ」
国王コウリュウが見上げた先には、心配した様子でこっちを見ていた理事長エリス。その隣には騎士団長と呼ばれた黄金の甲冑を纏った女騎士だった。
決闘に集中しすぎて周りが見えてなかったが、阿鼻叫喚して逃げ惑う観客と恐怖で動けもしない生徒の姿があった。観客を守りながら避難誘導するリリネルなどの先生と生徒会の生徒たち。
「レッドくん!? 何言ってるの! 九頭毒大蛇よ九頭毒大蛇! Sランク冒険者がパーティーを組んでも勝てるかどうかわからない化物なの!」
エリスが半ば怒鳴るように言い聞かせてきたが、その言葉を国王コウリュウが手で遮るように制止させた。
「理事長よ。小僧の雄姿を見届けることを言明する」
「しかしっ!」
黄金甲冑に身を包む女騎士の騎士団長も抗議の声を上げたが、国王コウリュウは首を振るだけだった。その動作だけで騎士団長は諦めた肩を落とす。
「そこの小娘どもにも言い渡しておこうかの この小僧の邪魔をするでない」
俺は気づきもしなかったが、アルナ、ツキノワ、アリアたちが各々の装備を揃えて観客席から下のリングへと降りてきていたのだ。きっと俺に加勢しようとしてくれたのだろう。
「・・・レッド」
アルナが泣きそうになる。アリアはすでに嗚咽していて何を言っているのか分からない。ツキノワと目が合って頷くと。ツキノワは二人の首筋に徒手を当てて気絶させた。そのまま二人を抱えてツキノワは観客席へと戻っていく。
「さて小僧よ、舞台は整えた。 好きに暴れて良い、儂が許す」
「言われなくても暴れるつもりだ」
「そうだのぉ 小僧の名前を覚えとらんかったわい 名乗れ」
「レッド・ジャバヴォックだ。耄碌して忘れても二度と名乗らねえからな! 分かったらさっさとどけ!」
「紅の竜名持ちだったか。ならなおさら暴れて良いぞ。そうでなければこの蛇は倒せぬだろうしの」
そう言うとまだ50代くらいのくせに好々爺のように大笑いしながら、踏みつけていた蛇から足をどけた。九つの頭の持ちあがると憎悪に歪むその9対18個の瞳で国王コウリュウを睨む。
「紫電よ 至高の頂へ 輝雷!!!」
纏っていた紫色の雷が更なる上位変換を遂げて、神々しい銀色の雷へと昇華させた。
途端に分不相応の魔法を使った時の頭痛が俺を襲う。歯ぎしりをして堪え。思い切り地面を蹴って跳躍する。よそ見している蛇へ銀色の放電攻撃と横っ面をぶん殴ってやった。
殴った頭がのけぞりダメージを喰らってフラフラとすると、残りの八つの頭が一斉に俺へと矛先を変える。
「痛っ! あんまり長く持たなさそうだ・・・さっさとぶっ飛ばしてやるからかかってこいよ!」
「「「「「「「「「キシャアアアアアアアアア」」」」」」」」」




