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「『雷よ 更なる高みへ 紫電』」
俺と【影真似悪魔】の詠唱が重なった。短剣を逆手に切り合い。鏡に映したような相手に俺は苦戦を強いられた。俺が使う体術、剣術、魔法。そして戦闘中の施行までもが、全く同じだった。
【影真似悪魔】が俺の姿に変化した途端に、先手必勝の【暗黒郷】の魔法陣を展開したが。同時に発動され紫に淡く光る魔法陣がぶつかり合って消滅した。
【身体雷化】を使うタイミングも寸分の狂いもなく同時だった。電撃を纏い高速の連続攻撃を行った。しかし、思考も戦術も全てが同じの【影真似悪魔】には通用しなかったのだ。
魔力操作で目を凝らし、【影真似悪魔】の魔力を見たらこうなることが理解できた。まったく同じ量の同じ質の魔力をしていたからだ。イヴ・ジャバヴォックに貰った魔水晶でスキルを覗き見て俺は驚愕した。【竜魔導】に【魔導書】までもがコピーされていたのだ。
「また同じタイミングかよ!」
『俺はレッド。 レッド・ジャバヴォックだ』
何度も同じ技をぶつけ合いながら。一対一では絶対に勝てないとラビッシュが叫んでいたのが脳裏に浮かぶ。良くて同士討ち。最悪は共死にだろう。何か手は無いのか!
『風よ 逆巻け 竜巻』
【影真似悪魔】がテリアから教わった風魔法を繰り出し。戦闘会場のイベントホールに強風が吹き荒れる。そして渦巻く風が俺を目掛けて進んでくる。
「氷よ 塊壁となりて我らを堅守せよ 凍壁」
氷詠唱で俺の持つ魔法の中で二番目に硬い防御魔法を発動して、竜巻を防いだ。凍壁は微動だにせず。防ぎ切った。
『風よ 更なる高みへ 嵐』
「——っ!? 氷よ 更なる高みへ 叫結」
竜巻の渦が大きくなり風の唸りが激しくなる。凍壁がパキパキと削られて罅が入る。咄嗟に俺も詠唱をして難を逃れる。叫結特有の赤ん坊が泣いたような音がイベントホールへ響き渡った。
【影真似悪魔】は魔法攻撃が防がれた場合における俺と同じ手段をとってきた。古代魔法による魔法の上位変換だ。これは魔法を発動していながら使うことのできる魔法で有用性がある。
嵐のような風が収まるのと同時に、凍壁が砕け散った。
氷が砕け破片が飛び散り視界が悪くなるのに乗じて。短剣を構えて奇襲を掛けようとするが、失敗に終わる。喉を狙った短剣は、【影真似悪魔】が繰り出してきた短剣とぶつかり合う。
だが、俺は短剣をいつものように逆手に構えなかった。流すように斬るのではなく、パワーで押しつぶすように。ぶつかり合った短剣の威力は俺の方が上回り。【影真似悪魔】の短剣を弾き飛ばして、体勢を崩させた。
そこへいつものような踊る様な蹴りを繰り出すのではなく、蛇のように絡みついて【影真似悪魔】の崩れた体勢を元へ戻そうとする軸をより傾けさせる。短剣を弾かれた腕にロルル姉様直伝飛びつき腕ひしぎだ。
「くらえや!」
【影真似悪魔】は飛びつき腕ひしぎから逃れようと暴れたので。サブミッションをやめつつも髪の毛をを掴み。膝を顔面にブチ込んだ。
『ギッ!?』
そのまま【影真似悪魔】は受け身も取れずに地面に大きな音を立てて背中から転倒した。顔面に膝を入れられた痛みと肺の空気が抜けた苦しみに耐えられず。地面を転がっている。
何となく俺の倒し方が掴めた。普段の俺が絶対にしない戦闘方法をとればいいだけだったんだ。
「こんなもんか・・・ 期待して損した」
そう思ってしまうほどに今日の調子がよすぎたんだ。いつもならしない戦闘手段でも簡単に作りあげられる。基本のベースがゴルペーザの体術。短剣捌きはテリアの仕込みだ。それを変えればいい。基本をロルル姉様に教わった絡みつく様な体術へ、短剣捌きはオルガに教わった鬼族流へ。
のた打ち回っている俺の姿をした【影真似悪魔】に問答無用で止めを刺した。顔を容赦なく踏みつぶして、鮮血が舞う。
・・・やっぱり俺は戦闘狂じゃなくて精神病質だったかもな。鮮血を見て心躍るなんてな。
「なにぃいいいい! 馬鹿な! ありえない! 一対一で【影真似悪魔】が負けるだなんて嘘だ!」
端っこに避難していやがったラビッシュが頭を抱えて大騒ぎし始めた。本当に救いようのない奴だと心底思う。戦うなら自力で戦えよ。
何となくだが、まだなにかありそうな気がした。もう少しだけラビッシュを煽ってみる。
「おい雑魚。 こんなもんで終わりか? あれだけ虚勢を吐いた癖に呆気ないな。もっと見せて見ろよ!」
「黙れぇええええええええええ!」
予想は的中した。狂ったラビッシュは10本ある指輪すべてに魔力を流して詠唱を始めたのだ。10の指輪が黄金に輝いてラビッシュの姿が光の中へと消える。一本だけでも【影真似悪魔】レベル魔物を召喚したんだ。期待せずにはいられない。
「支配者よ 僕の代償に応えその姿を現したまえ 【支配者顕現】」
【影真似悪魔】が現れた時の軽く数倍はあるゲートが開いた。