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確かに大量の情報が頭に流れ込んできたとは思ったが、まさかいきなり【古代詠唱10】に【古代魔法陣10】【検索10】【魔導書10】おまけに称号【魔法の叡智を極めし者】と加護【骸帝の加護】が増えるだなんて予想だにもしてなかったんだ。
前にロルル姉様は、称号や加護は普通に努力しても手に入らない、よっぽどなことをしなければまず見る機会もないようなことを言っていた気がする。それが短期間に、イヴ・ジャバヴォックのものも含めて4つもある・・・ 骨の王に気に入られてたのか俺は!? 取り敢えず、称号と加護に関しては棚上げしておこう。そうしよう。
それよりも、魔水晶が砕け散ったのは何故だ。仮説としては魔水晶のありとあらゆるデータが俺の中にインプットされたってことだと思う。ただ俺自身に何か変化があると言われればNOだ。とくに知っている魔法知識に変化はないし、魔力の量も何ら変わりはない。これも推測でしかないが、【検索10】【魔導書10】がキーになっているんじゃないかと思う。たぶんだが、魔水晶の機能自体が俺のスキルになったんではないだろうか。
「歩く魔法辞書ってか?」
それなら称号の【魔法の叡智を極めし者】も説明が付く。検索すりゃ、なんでも魔法について知ってるってことだろう。
「ものは試だ」
知りたい魔法について思い浮かべてみる。知りたいのは、魔力の動きを阻害する魔法。
「おお! 3D技術は古代にもあったのか!」
半透明の鍵付の本がホログラムのように俺の目前に表示された。きっとこれが【魔導書10】なんだろう。手に取ろうとすると――
『所有者のサインをしてください』
というホログラムが表示されて、同時に羽ペンが俺の周りをフワフワと浮遊する
「そう言うことか」
レッド・ジャバヴォックと本の表紙に書くと、鍵がガチャリと音をたてて解錠された。そして本は自動的にペラペラと捲られたかと思うと、しばらくして動きが止まる。見開きのページには、さっき魔水晶で調べた時と全く同じ検索結果がヒットしていた。検証は出来たので読むのをやめると、ホログラムの魔導書は消えていった。
「便利なんだかどうなんだか、疑問だな」
思い浮かべたらパ!っと頭のなかで検索できるもんだと誤認していた。
骨の王に欲したのはあくまで本だったからかもしれない。あの魔水晶は元々この能力を覚えるためだけの用途で、俺が覚えたことで役目を終えて砕け散ったのだろう。
ちょっとは説明しろよ骨の王! 不親切すぎて混乱しただろーが!
あー タバコが吸いたい・・・どうせ胸ポケットには何も入ってないのさ・・・
建造物を出ると外はもう夜明けになっていた。遠くの地平線から日光が差し込んでくる。そのあまりの眩しさに目を細める。遺跡を囲む熱帯林からは動物たちの鳴き声が聞こえてきた。新鮮な森の空気をいっぱい吸い込んで深呼吸する。とても清々しい気分だ。
「なんか一人だけ清々しそうでなによりねぇ レッド?」
「ひぃ!?」
背後から鬼の囁きが聞こえてきた。おそるおそる振り返って視ると、あまりの恐怖に俺は悲鳴を上げたしまった。首輪を付けられて萎れたキングの上に脚を組んで、青筋を立てた鬼姫様がいらっしゃりました。どこで入手したのだろうか、ゴッツイ鞭を振り回してヒュンヒュン音を鳴らしておいでです。
「「ひぃ!?」じゃないわよぉおおおおお!」
数時間に及ぶお説教と体罰を受けた・・・内容はひかえさせてくれ。生涯不出だ。
そんなこんなでケツが赤く腫れあがった状態で再び王都への旅路へと戻ることとなった。結局、説教と体罰の所為で遺跡を出るのが翌日となった。
再びの空の旅は快適だ。暇つぶし代わりに、ホログラムの魔導書を読んであらゆる魔法の知識を覚えることに専念した。
魔力を阻害する魔法は高等技術で膨大な魔力を消費するので、今の俺には扱いきれない代物だった。その代りに詠唱をキャンセルしたり、魔法陣の展開を邪魔して不発させたりする古代魔法など、いくつか簡単な古代魔法は習得した。
そして、ずっと気になっていた【竜魔導】について検索してみる。いろいろと理解できたが、とんでもない馬鹿げた魔法である。
まず、【竜魔導】の前に魔導とはなんたるや。魔力を持つ者が努力すればだれでも習得できる詠唱や魔法陣と違い、そのスキルを持つ者しか扱えないものを魔導というようだ。この異世界において一つしかない魔法を魔導と称されている。
紀元人とよばれる者が火魔導を最初に会得した。そしてその紀元人が火魔導を万人にも使えるように簡略化したものが、火詠唱、火魔法陣だ。
・・・紀元人って何だろう。確かイブ・ジャバヴォックは俺の事を紀元人と呼んでいたけど。魔導書で検索してみたが、魔法関連以外の事はヒットしないみたいだ。
まあ今は棚上げしておこう。王都に着いてからいろいろ調べてみるか。それよりも【竜魔導】だ。
「【竜魔導】とは、魔力を消費して精神・肉体を竜化させる魔法!? ふっ あははは! よし! 早速試してみるか!」
【竜魔導】を発動したら、魔力が可視できるほど全身から噴き出した。イヴ・ジャバヴォックのような紅色の凶悪な魔力。
鎧のように変化して俺を包み込んだ。アルナ曰く、竜を模した鎧を着込んだ騎士そのものだったらしい。
有り余る力をどう使ったのかは、言わずもがな。ドラゴンといったら口から炎を吐くだろ。それを真似しただけだったんだ。
まさか見ている景色が・・・地形が・・・変わるとは思っていなかったんだよ。炎じゃなくて、レーザー光線みたいなのが口から飛び出るなんて予想だにしてなかったんだ。大地が抉れて、北に聳える連峰に綺麗な丸い穴が開いたりなんてしてないさ・・・
こってりとアルナに絞られて、【竜魔導】の使用を禁止されました。俺もそれには賛成だ。破壊兵器も真っ青な【竜魔導】を使う機会が無いことを願いたい。
いくら劇的な人生を願っていても、流石にコレは・・・な・・・
一章はこれにて終了です。
次回からは二章に入ります。 王都を中心に活動します。