表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7



 

「マリーっ!?」

「あ、お姉ちゃん! この犬、お姉ちゃんの?」

「……は?」


 扉を開けて入ると、そこにはいつも通りの妹の姿があった。

 間の抜けた声を漏らしたまま目を丸くして固まったレイラに、マリーは「どうしたの?」とでも言うかのようにきょとんとした顔を向けた。


 ……え、っと? …あれか。私の早とちりってやつか。


 そう認識したら、顔が熱くなってきた。

 うっわ、恥ずかしい…。何が起こったかと思ったじゃないか。

 …自覚があるから余計に。


「いや、別に、私の所有物ではないけど……友達、かな」


 平然としている妹に拍子抜けした姉は、半ば呆けつつも素直にそう答えた。


 途端に、ぱぁっと笑顔になるマリー。

レイラはそれに首を傾げて、どうしたのかと問うた。


「…何か嬉しいことでもあった?」

「うん! 遂に、お姉ちゃんに友達が出来たこと!」

「………あぁ、そう」


 無邪気に笑みを浮かべるマリーに微苦笑を返すレイラ。


 何気に毒を吐いているように思えるが、彼女マリーに悪意はない。

 ただ純粋に、姉に友達が出来たことを喜んでいるのだ。それが分かっているから、レイラも怒る気にはなれない。

 …だからこその微苦笑だったのだが、それを、単純な──友が出来たことによる嬉しさによる──笑顔だと捉えたマリーは、さらに笑みを溢れさせた。


「……」



 ──レイラの名誉のために言っておくが、学園に通っていない貴族の子ども達にとって、友人がいないというのはそう珍しいことではない。


 その理由としては、普通の公子は、村の子ども達とは違って同年代の子たちと外で遊ぶ機会はない(身代金目的の誘拐事件に巻き込まれるのを防ぐため)からだ。

 それに、よほどの地位──それこそ王族の子どもでもなければ、幼い頃は社交界に出ることもないから、友人を作ろうにも作れないというのもある。


「(……ってか、イネとマリー付きの女性使用人から、生暖かい視線を送られてる気がする…)」


 彼女らの心の内を代弁するとしたら、恐らくこうだろう。

 『……子供って、時に残酷ですよね』と。



「(二人で和やかに意志疎通してないで助けてよ。…今のマリーは私一人の手に負えないんだから!)」


 …子供特有の純潔無垢さが逆に痛いんです。

 心の中でそうぼやく。

 レイラのそんな心の中を知らぬマリーは


「ねぇ、お姉ちゃん! この子触ってもいい?」

「いや、それは駄目」

「えー」

「…ていうか嫌だ」


 まだ私、もふもふ満喫してないんだよ。


「それに、マリー。本人の許可を得ないで勝手に決めるのはいけないことだよ?」

「……はぁい」


 しょぼんとしたマリーは、渋々だが諦めてくれた。よかった。


「(……ん?)」


 あれ? そういう私も、許可得ずに抱きついたような…。

 ……。すみません。人に偉そうに語れる立場じゃ無かったです。


「じゃあ聞く!」

「──ん? 何を?」


 考え事をしていたレイラは一拍遅れて聞き返した。すると、マリーは「名案を思いついた!」と誇らしげな表情で、


「だーかーら、本人に直接聞くの。それなら良いでしょ?」

「………それは、魔狼にってことかな?」

「まろー? この子、マロウって名前なの?」

「いや、魔狼は名前じゃなくて種族名。名前は…うーん、何なんだろうね?」


 そう言われて気付いた。

 この銀狼の名を知らないことに。


「(便宜上、名前を決めちゃって構わないのかな…? いや、でも、この子にも、親につけて貰った名前があるのかもしれないし…)」


 ぶっちゃけ、自分のネーミングセンスに自信がないんだよね。

 前世今世どちらも、動物を飼ったことないから、名前を付けるという行為自体したことないし。

 …いや、もう、なんかね…下手につけたら恨まれる気がするくらいに、センスに自信がないんだよねぇ。


 一人悶々とした感情と戦っているレイラを傍目に、マリーはきらきらとした瞳で魔狼を見上げた。

 対する魔狼は、興味なさげにマリーを一瞥した後、再び寝る体制に入った。

 といっても、元から寝そべったままで、騒動も後目にほとんど動いていなかったから、その変化は微々たるものだったが。


「──ってことで。まろーさん、触ってもいい?」

「いやいや、駄目ですよマリー様!?」

「何でー?」

「殺されますって! これ、先ほども説明いたしましたよね?」

「んー? …忘れた!」

「何堂々と言ってくれてんですか!?」

「だって、シュリの説明難しいんだもん」

「う……? ええっと、かみ砕くとですね…」


 絶対に分からせてやる、と、半ば意地になりながら二度目の説明を行うマリー付き使用人に苦笑したイネは、自らの主の元へと歩み寄った。

 深い思考の沼にハマっているのか、しゃがみ込んで、俯く彼女の顔をのぞき込んでも、全く反応しないレイラ。

 さすがに不安になってきたイネは話しかける。


「レイラ様?」

「…ん? どうしたの、イネ?」

「あ、無事なら良いんです」

「…?」


 意味が分からないとばかりに首を傾げてイネを見つめたら、彼女は微笑して、「何でもないですよ」と言った。


 …いや、それが気になるんですってば。

 視線で抗議するもことごとくかわされたレイラは、それでもどこか嬉しげなイネをみて、自然と頬をゆるめたのだった。




ここまで読んで下さってありがとうございます。

お気に入り登録、評価して下さった方々にも感謝申し上げます。嬉しかったです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ