ふれねさんは、フレネミー 1話
中学校の卒業式の事だった。
よく晴れた空で桜が舞い散る最後の校舎の裏で……俺こと小宅秀頼は気持ちを振り絞って、3年間密かに思いを寄せていた女の子への好意と、ここで言わなかったら一生後悔しそうな焦る気持ちでどうにかなりそうだった。
彼女とは……学校も別々になる。
ずっと優しかったクラスの中心だったマドンナの女の子は髪をなびかせて俺を見つめていた。
なんて可愛いのだろう、少し染めた焦げ茶色の髪と瞳の大きな目、ぷるんとした唇……すべてが愛おしく見えた
「小宅くん……どうしたの?」
「俺……ずっとあなたの事が好きでした!!入学式からずっと優しくしてくれて、たまに遊んだりして……すげー好きだったんです。だから……高校生になっても」
「ごめん……!」
俺は、全てを言い切る前に遮られて……視界が揺らぐ。
今まで優しいと思ってた彼女の表情は一変して……まるで氷のように冷ややかな表情になって、俺は恐怖感を感じた。
「……え?」
「小宅くんみたいな人、ぶっちゃけ苦手なんだよね。今まで孤立してたから仕方なく話してたけど……勘違いさせてごめんね。」
「え……ちょ、そんな……。」
その先は聞きたくなかった。
目尻に緊張と涙が溢れて、まるで突如友達から敵になったかのように見える彼女は少しずつ遠のいて行った。
「じゃあ……小宅くん!もう会うことは無いと思うけど……きっと小宅くんにはぴったりな人がいると思うから……ね?」
そう言って、彼女は桜と共に消えていった。
一世一代と決めた……俺の人生初の告白はこうして儚く散っていったのだ。
☆☆
「よっしゃー!じゃあ今日はカラオケ行く人ー!」
「えー!ウチも行く〜!」
クラスの男女が、そうやって放課後にガヤガヤと群がって騒いでいる。
……ふん、バカバカしい。
俺はそう思って、とにかく机の上に突っ伏した。
時は過ぎ、俺は高校生になった。
正確に言うと……彼女にフラれたショックがデカすぎて気がついたら高校生になって、しかも3週間が過ぎて4月も終わりを迎えていた。
地元から遠いところにしたので、また人間関係もゼロから始まると心機一転頑張ってみたものの……クラスメイトはアニメやゲームで盛り上がれそうな人はいない。
どっちかと言うと、スポーツとかヒップホップとか……陽キャの人が多くて俺はなんとなくだけど孤立していた。
でも……もうそれも悪くないのかもしれない。
また仲良くなって、勘違いして傷つくよりは何倍もマシだ。
人に壁を作って、もう傷つかないようにしようと思っていた。
俺は寝たフリをしても仕方が無いのでライトノベルを読む。
もう俺の人生は終わりだ、でもそんな俺を優しく包み込むように異世界転生ものの小説は俺に希望を見せてくれるかのようだった。
「オタクくん!何してるのー?」
だけど……たった一人、そんな俺の城壁にズケズケと入り込む存在がいた。
「……。」
「ちょ!?無視……!?なんで話しかけてあげたのに無視するかな!傷つくんだけど!」
この黒髪のギャルこと、振音美衣という女だった。
こいつだけは、何故か俺に話しかけてくる。
というか、話しかけて上げたとか上から目線もいい所である。
「俺はオタクじゃない!オヤケって言う立派な苗字があるんだ!」
「いや、オタクとも読めるじゃない……なんかオタクくんの方がいいやすくてさ。私も美衣って呼んでいいからさ!」
そう言って、彼女は八重歯を見せてにこやかに笑っていた。
なーにが、オタクくんだ!
友達のフリして俺のことをバカにしてるんだろ!
「あはは、美衣まーたオタクに話しかけてるー!」
「オタクくんのこと好きなんじゃね?」
クラスの奴らが俺を見てそうやってからかい始める。
ものすごく気持ち悪かった。やめろ……見ないでくれ。
「オタクくんのラノベ私もアニメ見てるから語りたいだけなんだけど!!ねー、オタクくんはどのキャラ好きなの?」
こうやって、距離を詰めながら俺を晒し者にする彼女は……間違いなく友達のフリをして傷つける……フレネミーに違いなかった。
「てか、オタク暗いしつまらなくね?もうぼっちはほっといてカラオケ行こーぜ!歌とか分からなそうだし、つまんなさそうな本持ってんじゃん!」
そう言って、クラスの男子が俺を小馬鹿にしてきた。
ほれ……みたことか。
俺は、少し目尻に涙が溢れてきた。
俺が何をしたって言うんだ。
ただ、普通に学生生活を送りたいだけなのに。
そんな時だった。
「……は?」
振音さんの笑顔が消えた。
さっきまでの明るいトーンから一変して聞いてる俺も少しだけ背筋が凍ってしまうようだ。
「山田。今の、ちょっと面白くないんだけど」
「は? 冗談じゃん」
「冗談なら何言ってもいいわけ? 謝りなよ」
いつもの明るい声とは違う、低い声だった。
俺は思わず息をのんだ。
……え、何?
こいつ、俺をかばっているのか?
「え、ちょ……振音さん?」
「ねえ……オタクくん、あいつらほっといてさ……ウチと転生もののラノベの話しようよ!うちも……それ好きだからさ!」
彼女は……どっちなのだろう。
フレンドだろうか、それともエネミー?
いや、待て。
俺をかばって、恩を売る作戦なのかもしれない。
……恐ろしい女だ。
これは、心に傷を負った小宅と、フレネミーっぽい振音の……ちょっとズレた青春の物語。




