第三話 リンコママと眷属上限
更新遅くなり申し訳ございませーん!!
ダンジョンから出てきたミツハは、探索者ギルド二階の飲食スペースに来ていた。
隅の方の目立たない席へと座り、背負っていたバッグから家で握ってきたおにぎりを出す。
「いただきます」
小さく呟いてから、ぱくりとかぶりついた。
「……ん。」
塩気の効いた米の味が、妙に美味しく感じる。
ダンジョンモスを探すために方々を歩き回り、蟻達に攻撃させるために熊手で押さえ続けていたため、思っていた以上に体力を消耗していた。
「……疲れたぁ。」
おにぎりを頬張りながら、背もたれに身体を預ける。
一人でのダンジョンはもっと緊張するかと思っていたミツハだったが、楽しいと思うほうが勝り、普段の虫取りの時のようにわくわくと感情が高ぶっていた。
蟻達の戦闘能力があれば、今後も探索者としてやっていけるかもしれないと思うと、自然と頬が緩んでくる。
「そういえば…。」
ミツハはおにぎりを片手に、もう一方の手を前へ伸ばす。
「ステータス。」
目の前に、半透明の画面が浮かび上がった。
ミツハはまず、自分のステータスを確認する。
◇
名前:胡蝶 ミツハ
年齢:18
種族:人間
レベル:2
ジョブ:テイマー
HP:80 → 85 / 85
MP:110 → 115 / 115
SP:90
STR:5 → 6
VIT:5 → 6
AGI:9 → 10
DEX:6 → 7
INT:7 → 8
MND:4 → 5
LUK:15
【スキル】
・テイム(I)
契約数:1 / 1
【契約虫】
・オオクロアリ(女王)
◇
レベルは上がりそれに伴って、いくつかの数値も変化していた。
「……上がってる。SPとLUKはそのままなのね。」
自分の身体能力が、ほんの少しだけ高くなっている。
試しに手を握ったり、腕を動かしたりしてみる。
「…うーん?変わってるっぽい?」
劇的に変わったわけではないが、それでもダンジョンに入る前より身体が軽いような気がしていた。
「もっと劇的に変わると思ったけど、そうでもないんだね。HPとMP以外の上昇値も1だし。」
ステータス値の上昇値は、1レベル毎に多くて『5』、少なくて『0』の上昇が見込める。
ちなみに一般成人のステータス値は、HPが100、MPが100。各平均10で、ミツハはMPとLUK以外は下回っていた。
そして、次に視線を動かす。
「じゃあ……蟻さんたちは?」
テイムしているオオクロアリのステータスを表示する。
そこにも、変化があった。
◇
・オオクロアリ(女王)
【詳細】
名前:なし
種族:魔昆虫
レベル:2
階級:女王
眷属:68匹
眷属上限:68 → 78匹 NEW
状態:やや空腹
HP 30 → 33 + 6.8
MP 50 → 53+ 6.8
STR 6 → 7 + 6.8
VIT 4 → 5 + 6.8
AGI 6 → 7 + 6.8
INT 2 → 3 + 6.8
DEX 6 → 7 + 6.8
MND 6 → 7+ 6.8
・固有スキル
【眷属生成】【フェロモン支配】【眷属還元】
◇
「…こっちもちゃんと上がってる。」
自分だけではなく、テイムした蟻のステータスも、しっかりと上昇していた。こちらも上昇値は低いが、さらに画面を確認していると別の変化に気が付いた。
「…あれ?」
ミツハの指が止まる。
表示されている【眷属】の項目。
そこに記された数字を、もう一度確認する。
「え、…増えてる?」
眷属上限:68 → 78匹 NEW
「眷属上限が10匹分増えている。すごいっ!」
昨日調べた範囲では、眷属を増やす方法を見つけられなかった。しかし、女王アリがレベルアップしたことで、ステータス値以外の上昇も見込めたことをミツハは喜んだ。
「食べ終わったらさっそくダンジョンに戻って実験してみよっと!」
ミツハは急いで残りのおにぎりにかぶりつき、しっかりと「ご馳走様でした」と手を合わせてから、再びダンジョンに繰り出した。
◇
ミツハは、人目につかない場所を探し、アクリルケースを鞄から取り出す。
側面から巣を覗き込み、巣の深部にいる女王アリへと視線を向ける。
「女王アリさん、女王アリさん。」
呼びかけると、暗い部屋の中で静止していた女王アリがむくりと立ち上がり、ミツハへと顔を向けた。
「君、レベルアップして眷属の数を増やせるようになったみたいだけど、どう?増やせそうかな?」
ミツハの言葉に女王アリは頷くことで答える。
「ほんと!?じゃあさっそく眷属を増やしてみよっか!!『眷属生成』を使ってみてくれる?」
女王アリは、アゴをカチッカチッとかみ合わせ、やる気を見せた。
すると、女王アリを中心に光が溢れ始める。その光は女王アリの足元から広がるように部屋全体へと行きわたり、光が収まるころには、部屋の中に薬のカプセルの形をした卵が5個現れた。
「卵?てっきり働きアリがバァーンって現れるかと思ったけど、違うんだね。」
ミツハは【眷属生成】のスキル詳細を開く。
◇
【眷属生成】
アリの卵を1個生成する。生成された卵は24時間後に孵化し、女王アリの眷属となる。卵1個を生成するごとにMPを10消費する。
生成された卵は、女王アリの種族・能力・巣の環境などによって変化する。
◇
「卵が5個。一個につきMPを10消費するから、今の女王アリさんだと、最大で5個までしか生成できないんだね。残りMPが3になっちゃってるし…。孵化まで丸一日かかるみたいだし、女王アリさんのMPがしっかり回復したらもう一回やってみようかな。」
女王アリは再びカチッカチッと顎を鳴らした。
「うん、お願いね。そうだ、いつまでも女王アリさんって呼ぶのはなんか味気ないし、名前を決めようか!!」
ミツハの言葉に、女王アリだけではなく、働きアリ達も反応した。
身体全体で喜びを表すように縦揺れしている。
「わわっ、そんなに嬉しいんだ。ふふっ。」
アリ達から喜びの感情のようなものが感じられたことで、ミツハは思わず笑顔になる。
「えーっとじゃあ、なににしようかなぁ…。」
ミツハは顎に指を当てながら、アクリルケースの中で佇む女王アリをじっと見つめた。
(女王アリだから、やっぱり女王様っぽい名前がいいのかな。でも、私が呼ぶんだから、あんまり堅苦しい名前じゃなくてもいいよね。)
「アリだから……アリちゃん?」
ミツハが思いついた名前を口にすると、女王アリは触角を左右に動かしたものの、先ほどまでのような大きな反応は見せなかった。
「うーん、なんか違うかぁ…。じゃあ、アリ子ちゃん?」
今度は女王アリが、カチッと一度だけ大顎を鳴らした。
「それも違うみたいだね。」
ミツハは苦笑しながら、ケースの中を見渡した。
働きアリたちは女王アリの周囲に集まってきている。こちらへ顔を向けており、まるで自分たちの女王の名前が決まる瞬間を待っているようにも見える。
(こうして見ると、本当にお母さんみたいなんだよね。)
女王アリは自分で戦うことよりも、眷属を生み出し、群れを増やしていくことを役割としている。
ミツハはそんな姿を眺めながら、ふと以前考えたことを思い出した。
「そうだ……アリンコのお母さんだから……」
ミツハは小さく呟きながら、頭の中で言葉を組み合わせていく。
「アリンコ、お母さん、アリンコママ…。」
女王アリが、ぴくりと触角を動かした。
「リンコママ…。」
その名前を口にした瞬間、女王アリがカチカチカチッと大顎を鳴らした。
「えっ?」
ミツハが驚いて女王アリを見ると、周囲にいた働きアリたちまで一斉に動きを止めている。
「もしかして……気に入った?」
女王アリは大顎を開閉させながら、何度も触角を動かしていた。
その様子を見たミツハは、思わず顔をほころばせる。
「じゃあ、決まりだね。今日から君はリンコママ!」
ミツハが嬉しそうに名前を告げると、女王アリは身体を大きく揺らしながら、何度も大顎をカチカチと鳴らした。
周囲の働きアリたちも一斉に動き始め、巣の中を忙しそうに駆け回っている。
「ふふっ、みんなも嬉しいんだ。」
ミツハには、アリたちが名前をもらったことを喜んでいるように感じられた。
こうして、これまでただの「女王アリ」と呼ばれていたオオクロアリの女王は、ミツハから正式に「リンコママ」という名前を与えられた。
「それじゃあリンコママ、これからよろしくね。」
リンコママは、まるで返事をするように頭を持ち上げ、大顎を大きく開いた。
カチィィンッ!
それまでよりも大きく響いた音に、ミツハは少しだけ目を丸くした。
「ふふっ、よろしくってことかな。」
リンコママはもう一度、大顎を鳴らした。
カチッ、カチッ。
「うん。じゃあ、午後の狩りも頑張ろうね。」
ミツハはアクリルケースをバッグへ戻すと、再びダンジョンの探索を始めた。
午前中はダンジョンモスを探すことに集中していたため、午後は少し探索の範囲を広げることにした。
「せっかくだし、他の魔物も試してみようかな。」
今までのミツハは、できるだけ安全に戦える魔物を選んでいた。
ダンジョンモスなら動きも遅く、熊手で押さえてしまえば、あとはアリたちに任せるだけで倒すことができる。
しかし、これから先も探索者を続けていくのであれば、いつまでも同じ魔物だけを相手にしているわけにはいかない。
「ラージラットなら、どうかな。」
戦闘準備の為、10匹のアリに命令し肩で待機させる。
歩いていると、前方の草むらから大きなネズミが一匹出てきた。
「いた!」
ラージラットは、ネコほどの大きさでまるまると太ったネズミの魔物だ。
動きがとても遅いため、一方的に攻撃できる相手でもある。
「行くよ、みんな!!」
まずは、ミツハが先制してラージラットの注意を引く。
そして相手が気が付かないうちに、ミツハの肩から飛び降りた働きアリ達がラージラットにとりついた。
「ラージラットは動きは遅いけど、HPとパワーは高いから注意してね!!」
ラージラットの特徴を伝達し、ミツハは働きアリ達に注意が向かないようにちょっかいを出している。
最初こそ好戦的に動いていたラージラットだったが、すぐに息を乱して動きが鈍くなる。
そこでようやく背中に違和感を感じたのか、ラージラットが身体を大きく揺らし始めた。ミツハは働きアリ達を攻撃させないように熊手を使い、頭を押さえ込む。
徐々に抵抗が弱くなり、最後に力なく鳴いたラージラットの身体が光の粒へ変わり、その場に魔石が転がった。
「倒せた…!」
ミツハは魔石を拾い上げると、嬉しそうに眺めた。
「ダンジョンモスじゃなくても、ちゃんと倒せるんだ。」
それからミツハは、さらに一層の探索を続けた。
ラージラットだけではなく、見つけた魔物には可能な範囲で挑戦し、アリたちの戦い方を確認していく。
魔物によって動き方も攻撃方法も違うため、午前中よりも戦闘には時間が掛かったが、その分だけ得られる経験も多かった。
「次はあっちに行ってみよう。」
ミツハは疲れを感じながらも、楽しそうにダンジョンの奥へと歩いていく。
何度目かの戦闘を終えた頃、突然、目の前に半透明の画面が浮かび上がった。
「……あ。」
そこには、見慣れた文字が表示されていた。
【レベルが上がりました】
「やった……!」
ミツハは小さく拳を握った。
まずは自分のステータスを確認したミツハ。しかし特段変わった様子もなく、上昇値もあいかわらず低いままだった。
自分のレベルが上がったということは、もちろんリンコママにも変化があるはずだった。
表示された画面を確認すると、ミツハ自身のステータスだけではなく、契約虫の項目にも変化が現れていた。
◇
・オオクロアリ(女王)
名前:リンコママ
種族:魔昆虫
レベル:2
階級:女王
眷属:68匹
眷属上限:78 → 93匹 NEW
状態:空腹
◇
「……えっ?」
ミツハは一瞬、数字を見間違えた。
「93匹?」
昨日まで68匹だった眷属の上限が、レベル2になったことで78匹へ増え、さらにレベル3になったことで93匹まで増えている。
「レベルが上がるたびに、増える数も多くなってる……!」
レベル2では10匹。
そしてレベル3では15匹。
単純に10匹ずつ増えるわけではないようだ。
「これなら、もっとたくさんのアリさんを増やせるよね。」
まだ眷属は68匹しかいないが、リンコママのMPが回復すればどんどんと眷属を増やせるので今まで以上に強力な群れを作ることができる。
「明日はもっと卵を作ってもらおうっと。」
そう考えながら、ミツハは再び探索を続けた。
それからしばらくして、時計を確認する。
「そろそろ帰らないと。」
名残惜しそうに周囲を見渡した。
「今日はこれくらいにしておこうかな。」
午前からかなり歩き回っていたため、足にはしっかりと疲労が溜まっている。それでも、今日一日で得られたものは多かった。
自分のレベルが上がった。
リンコママもレベルアップした。
そして、眷属の上限も大きく増えた。
「とりあえずやれることはやったよね。」
ミツハはそう呟くと、ダンジョンの出口へ向かって歩き始めた。
◇
集めた魔石を買い取りカウンターに置き、査定機へ通す。
魔石だけの査定であれば、機械がやってくれるので、対人が苦手なミツハにとってとてもありがたいことだった。
査定が終わり、査定票と買取明細書を受け取ったミツハ。
この査定表と買取明細書は、仮登録のミツハでは換金することができない為、今は本登録後に換金してもらうために大切に保管しなくてはならない。
ステータス登録時の1個、二日目は魔石なし、そして今日一日探索して集めた魔石は、72個。
午前中のペースで魔石を集めればもっとあったのだが、戦闘方法の確立をしていたため後半になるにつれペースは落ちていた。
魔石72個。初日合わせて合計で73個。
一日歩き回って、730円の収入では今後探索者として活動していくことはまさに絶望的と言えるが、ミツハはそんなこと歯牙にもかけずに、明細書を見てほくそ笑んでいた。
「ふふーん♪」
そんなご機嫌なミツハは、帰りにスーパーに寄って行こうかなと思案しながらギルドを出ようとしたが、突然背後から声をかけられた。
「お疲れ様です、ミツハさん。」
「…え?」
突然声をかけられたミツハの肩がはねる。そして振り返った先に立っていたのは、見覚えのある女性だった。
「今日は随分遅くまで頑張りましたね。」
「深山サラサさん…。」
指導官の深山サラサが、穏やかな笑顔を浮かべて立っていた。
ミツハの身体が、ぴたりと固まる。
(まずい。)
頭の中に、その言葉だけが浮かんだ。
「調子はどうですか?」
「え、あ……はい。大丈夫です。」
「それならよかったです。ところで、今日は一日中ダンジョンに入っていたようですね。魔物はテイムされましたか?」
「……っ。」
ミツハの心臓が、大きく跳ねた。
その瞬間、ミツハの頭の中にアクリルケースが浮かんだ。
バッグの中には、リンコママと七十匹以上の働きアリがいる。
もちろん、そんなものをサラサに見せるわけにはいかない。
「テイムした場合は、テイムした魔物を管理登録しなければならないのですが今日は手続きされていませんよね?」
「…………。」
「ミツハさん?」
「ま、まだです!」
思わず声が裏返った。
「そうですか?」
「はい! まだ全然テイムできてません!」
「なるほど。それなら焦る必要はありませんよ。テイムは相手との相性もありますから、」
「そうですよね!じゃあ私、今日はもう帰ります!」
「え?」
「お疲れ様でした!」
ミツハはそれだけ言うと、サラサの返事を待たずに駆け出した。
「ちょ、ちょっとミツハさん?」
背後から呼び止める声が聞こえたが、ミツハは振り返らなかった。
(危なかった……! 危うくバレるところだった……!)
バッグの中には、ミツハが誰にも知られたくない秘密が詰まっている。
しかも、その秘密は普通の魔物一匹ではない。
女王アリと、その眷属たちだ。
(でも、どうしよう……。)
ミツハは走りながら考える。
(今後絶対に、どこでテイムしたのか聞かれるよね。)
昨日までは、まだ何も考えていなかった。
しかし、今日になってリンコママという名前まで付けてしまった以上、これからも隠し続けるなら、何かしらの説明を用意しておかなければならない。
「……うーん。」
考えているうちに、ミツハの腹が小さく鳴った。
「……お腹空いた。」
まずは夕食だった。
◇
帰宅途中、ミツハは近所のスーパーへ立ち寄った。
店内には夕方の買い物客が多く、入口付近ではタイムセールの案内が流れている。
「おっ、安くなってる。」
ミツハは割引シールの貼られた肉や野菜を眺めながら、今日の夕食と明日の食材を買い物かごへ入れていく。
「これも買っておこう。」
買い物を終えて帰宅すると、ミツハは荷物を冷蔵庫へ片付け、それから自分の部屋へ戻った。
「さて……。」
アクリルケースを鞄から取り出し、蟻達にエサを与える。今日は一日頑張ってくれたから、いつもより豪勢に、タンパク質豊富なミルワーム(冷凍)だ。
それから一階に戻り夕飯を作りながらスマートフォンで調べものをする。
今日、サラサに聞かれた言葉が頭に浮かぶ。
『もう魔物はテイムできましたか?』
「……どうしよう。」
ミツハはスマートフォンを眺めながら唸った。
「テイムしたこと自体を隠すのは、たぶん無理だよね。」
テイマーとして探索者を続ける以上、いずれバレることになるだろう。
そのときになったらどういいわけをするのか、ミツハは空腹であまり頭の回らない状態で考えた。
そして行き着いた答えは、
「だったら、最初からアリ型の魔物がテイムできそうな場所を調べておけばいいんじゃない?」
そう思いついたミツハは、検索画面を開いた。
「えっと…蟻型の魔物が出るダンジョン。」
検索欄へ文字を入力する。
すると、いくつもの検索結果が画面へ表示された。
「ある…。一番近いところは…。」
日本国内には、ダンジョン内で蟻型の魔物が確認されている場所がいくつも存在していた。
ミツハは表示された情報を、一つずつ確認していく。
「岐阜県側だけど、二つ隣の市にある原料山ダンジョン…ここなら……。」
自分がテイムしたことにしても、不自然ではないはずだ。
(よし…明日はここを調べてみよう。)
こうしてミツハは、リンコママたちの存在を隠すための、苦しい言い訳作りを始めることになった。
本作を読んでいただきありがとうございました。
よろしければ、ブックマーク、評価をよろしくお願いします。
ランクⅠ(いち)が、見えずらそうなので、1~10の数字のランクではなく、IからA、Sとアルファベットにしようと思っています。




