【レニー=ラインとグロリアは似た者同士】 3
前を見ながら、アイラ達に悟られないようにレニーが言う。
「私達二人だけにお使いをさせたのは、私達の様子を見る為でしょうね」
「そうでしょう。アイラ様のお考えになりそうなことです」
「私達の仲が本当は悪いのか、良いのか、どちらでもないのか、それを見極める為ですね」
「アイラ様自身は半ばくらい面白がっているかもしれませんが」
「かもしれませんね」
グロリアが話題を変えた。
「それはともかくとして。レニー、何故貴女は伊達眼鏡などを掛けているのですか。視力は悪くないはずでしょう」
「気付いていましたか」
「それくらい分かります。分からないのは理由です。ファッションというやつですか?」
「まさか。これは実用を兼ねています。ここまで言えば、貴女ならお分かりでしょう」
「……なるほど。防刃仕様ですか」
「ええ。万が一にも視覚を奪われないようにする為の。貴女もどうですか?」
「……遠慮しておきましょう。貴女と外見が被りそうですから」
「キャラ被りを心配するなんて、貴女らしくないですね」
「どこで覚えたのですか、そのような言葉」
「キャロル様が読んでいる漫画に描かれていました」
「なるほど」
グロリアとレニーがそんな会話をしている頃、二人を尾行していたキャロルとアイラも会話をしていた。
「流石お姉様ですね、こうやって二人の様子を観察するなんて」
「ま、もう気付かれちゃってるかもしれないけどね」
「へ?」
「それより見失わないようにね。あの二人だから、気を抜いたら撒かれるわよ」
「ですねっ。頑張りますっ」
キャロルが胸の前で両拳を握って頑張るポーズをする。
頭隠して尻隠さずかしら?
キャロルに対して、アイラはそんなことを思っていた。
そのとき、グロリアとレニーの歩く先から女性の悲鳴が響いた。
「ひったくりよ! 誰か!」
女性からバッグを盗った男はそばの馬車に乗り込んで、その馬車が走り出す。ひったくり犯の仲間の馬車だった。
「大変っ! お姉様!」
慌てるキャロルにアイラが落ち着いた声で言う。
「待ちなさい、キャロル。二人に任せなさい」
「え……?」
「見てなさい。うちの使用人が二人もいるのよ。それも私達の専属メイド達が」
「あ」
アイラに顔を向けていたキャロルが、再び道の先を見る。
ひったくり犯の乗った馬車は、グロリアとレニーのほうへと向かってきていた。二人がいる歩道の横を通り過ぎようとしていた。
「レニー」
「分かっています。私に命令して良いのはキャロル様とエインズ家のお方と上司だけです」
言って、レニーが馬車の前に躍り出る。
御者と実行犯が叫んだ。
「何だァッ⁉」
「いいから行けッ! 轢き殺せッ!」
馬の背後にいてはいけないといわれるほど、その脚力は凄まじい。一般人であれば、走る馬の前に飛び出るのは自殺行為だった。
一般人であれば。
レニーはエインズ家のキャロルの専属メイドだった。
彼女は馬の頭と胴体に手を当てると、数十センチ、砂埃を巻き上げながら後退したものの馬の動きを完全に引き止めた。
ヒヒーンッ⁉
「「ナッ⁉」」
ひったくり犯達が信じられないという顔をした。
そのひったくり犯達の横を、なにかが高速で通り過ぎていった。
両手にナイフを持ったグロリアだった。
太陽光を反射した幾筋もの煌めきが馬車に走っていき、その壁や天井や車輪などが微塵に切り刻まれていった。
「「うげッ⁉」」
ひったくり犯達が地面に落下して身体を強打する。
顔を上げる彼らを、冷たい顔をしたグロリアとレニーが見下ろしていた。
グロリアはナイフの切っ先を突きつけて。レニーは片手のひらにもう片手の拳を当ててボキボキと鳴らしながら。
「「ヒ、ヒイィィーッ⁉」」
ひったくり犯達が情けない悲鳴を上げた。
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「本当にありがとうございました!」
被害に遭った女性がグロリアとレニーに頭を下げていた。
ひったくり犯達は警察に連行されていった。
それらの様子を遠くから見て、アイラは背を向ける。
「帰るわよ、キャロル」
「へ?」
「あの二人なら、大丈夫よ」
「…………、そうですねっ」
アイラとキャロルは屋敷へと帰っていった。
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