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第52話 どうしてこうなった

(まったく! どうしてこうなるの!)


 スミレは学園の寮の一室であろう場所で、後ろ手に縛られた状態で、心の中で悪態をついた。

 部屋は十畳ほどの大きさ。左壁にベッド、右隅には机。中央にはダークブルーのラグ。スミレはそのラグの上に座らせられていた。


 やっとこちら側の世界に帰って来て。

 一晩ぐっすり休んだ後、“辺境の地”のメンバーと互いの状況を報告し合い。

 それから叔母の香蓮に強く請われ、まずは父親へと会いに行き、所在不明になったことへの謝罪をした。案の定、全くスミレへの心配はない。ただ東条院家に恥じる行いがないか確かめられただけであった。

二年という月日が流れても何も変わらない父親に、それを見てがっかりした自分に、スミレは自嘲してしまった。

 

 そんな家族との話し合いで、ただでさえストレスが溜まりに溜まっていたスミレは、その後、一週間叔母のマンションの自室で休養をとった。このまま学校に戻ったところで、倒れて寝込んでしまっただろうから。


 とはいっても、丸々休養に充てられた訳ではない。

 その休養期間中、スミレが帰って来てずっと不安を滲ませ、スミレから片時も目を離さない情緒不安定の片桐のケアも併せて行った。

 ケアといっても、片桐と知り合ってからそうだったように、美味しいものを食べさせ、できるだけ傍にいるようにしただけだ。加え、もう何も言わず、ふいにいなくなったりしないと何度も片桐に言い聞かせ続けただけ。

 それでも学園にも無事戻って来て、学園でのきつい授業、深遠館でのトレーニングと、忙しい日々が戻って来たのがよかったのだろう。

 やっと目から少し不安が薄まり、スミレの後をひよこのように付いて回っていた片桐も別行動できるようになった。


 ああ。よかった。

 と、ほっとした矢先。

 学園生活復帰一週間目にして。

 スミレは誘拐されてしまったのである。


 自分はいったい何回誘拐されるのか。

 確率の法則など、体験できなくても結構である。

 スミレは殴られた頭を軽く振った。

 今回は異世界などという遠いところではなく、学園内であるという超近場だというのが救いであろうか。

 それも犯人は今目の前にいるクラスメイト、学級委員長美作貢、その人と、これまた近場の人なのである。

 その人物と言えば、スミレの前に跪き、乱暴をした謝罪と、どうかずっと一緒にいてほしいとの懇願を繰り返すばかりである。


 なぜ自分を誘拐したのか。

 美作の目を見ると聞くのが怖い。

 態度からするとこれ以上危害を加える気はないらしいので、敢えて今は彼を追求しない。いやしたくない。


 学園内ならば、必ず助けは来る。

 凶悪な誘拐犯でもない。同級生だ。自分はただ救助を待つのが得策だろう。


 スミレは部屋の左側にある窓に目を向けた。

 外は真っ暗だ。放課後美作に声を掛けられたのだから、もう夜なのは間違いない。

 連れ込まれてどのくらいたっているのだろうか。

 先程目を覚ましたばかりで頭がはっきりしない。

  

(ああ、片桐くんが心配だわ)


 救援の心配はない。今スミレの心配は、片桐である。折角少し安定しかけた片桐が、また子鴨のごとく、スミレに後について来るようになるだろう事は、想像に難くない。


(全く余計な事をしてくれたわね)


 目の前の彼に聞くのは怖いが、なぜに自分が誘拐されたのか、誰か説明してもらいたい。

 それにしてもここは少し暑い。それとも熱があるのか。


「ふう。のどが渇いたわね」

「あ! すぐに飲み物を持ってきます!」


 意識せず、漏れたスミレの声を拾い上げ、誘拐犯こと美作は即座に立ち上がり、扉へと急ぐ。


(いえ、そうじゃないわ。ここから出してくれたらいいのよ)


 スミレが彼を目で追いながら、思った矢先。

 部屋のドアが吹っ飛んだ。

 同時に、美作も吹っ飛んで、壁にぶつかって、気絶した。

 そしてドアがあった場所に立っていたのは。


「スミレ」


 泣きそうな顔で駆け寄ってくる犬。

 いや、違った片桐だった。

 片桐はスミレを放さないとばかりにぎゅうぎゅうと締め付ける。


「ちょ、ちょっとくるしっ!」


 スミレの抗議も全く聞こえてないようだ。


「片桐くん! 放しなさい! 殺す気なの!」


 そこまで言ったからか、片桐の腕の力が少し緩まった。

 けれど、片桐はスミレを抱きしめたまま。


(やっぱり。またふりだしに戻ってしまったわね)


 いや、更にひどくなったか。


(はあ)

 

 スミレは大きくため息をついた。



長い間お読みいただき、ありがとうございました!

次回最終話です。最後までお付き合いいただければ、幸いです。

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