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第49話 再会

「ではスミレ、しばしの別れだね」

「はい。色々ありがとうございました」


 できれば、ヴァン、二度と会いたくない。


「なんの。見返りを期待しているから気にしないでいいよ。またね」


 軽く手を振るヴァンに、スミレはにっこり笑う。最後にしたいという願いを込めて。


「お世話になりました! アゲハ行きましょう!」

「うん!」


 やっと帰れる。

 シリンの舞を背に、スミレは再び扉を開いた。



「さあアゲハ、先に出てちょうだい」


 全く、ヴァンはどこまで用意周到なのか。

 戻る際の荷物、ミルナーレの花のプランターと、言語の勉強をする書籍。

 確かにアゲハの手を借りたとしても持ちきれない。

 そのための台車まで用意しているとは。そのうえ、台車もプランターもすべて日本製だ。

 どこまでもあちらの世界のものは持ち込みさせないつもりだ。

 だが、書籍はいいのかと思ったが、これらの本はある一定の能力がないと読めないとの事。

 通常は本を開いても白紙に視えるという。全く用心深い。


(まあ、台車は助かったけど)


 スミレは台車を押しつつ、扉をくぐる。

 今回の帰還は早く帰ると伝えたきりで、知らせの鈴も鳴らしていない。

 貴船側の部屋には誰もいないだろう。


(わざわざ出迎えてもらうのも、気を遣うしね。静かに帰りたい)


 そんなことを考えつつ、ヴァンに言われた通り、扉をすぐ両手で閉めた。

 これであちら側から開かない限り、こちらから開くことはない。

 最初にこの部屋で見たのと同じように、ノブも瞬時に消えた。

 そして後ろを振り返れば、きっと塔が出現している筈だ。

 スミレが作った新たな鍵の塔が。

 スミレは大きく息をつくと振り返った。

 と、次の瞬間。

 強い衝撃がスミレを襲った。

 

「ぶ!」


 淑女らしからぬ、声が出る。

 もう二度と放すものかというように、強く雁字搦めにされる。

 顔が相手の胸に押し付けられて息苦しい。


 スミレより頭一つ分、背が高い。分厚い胸。

 

(会わない間にかなり身体を鍛えたのね)


 抱きしめられて、嫌悪感がないのは誰かわかったから。

 それでも少し力を緩めて欲しい。

 息ができない。

 その意味をこめて、背中をたたく。


「片桐くん、放して。息ができないわ」


 緩んだ先に見た、片桐の顔。


「スミレ」


 なぜか泣きそうに歪んでいて。


「スミレ、スミレ、スミレ」


 まるで見られるのを嫌うように、片桐は再度スミレを固く抱きしめた。


(私、縊り殺されるかも)


 そんな危機感を感じていたスミレの耳に、軽やかな笑い声が響いた。


「仕方がないわ。彼、とっても貴女のことを心配していたのよ。貴女が見つかったと知らせたら、すぐに飛んで来てね。前に話した通り、この島は貴船の者しか入れないのに、かなりな脅しをかけて、貴女が帰るのをずっとここで待っていたのよ」


 それは何とも申し訳ない。

 片桐にも貴船にも。

 それにしてもこの変わってしまったスミレの容貌を見ても、片桐は全く躊躇がなかった。

 予め楓に聞いていたからだろうか。


「さあ。まずは場所を移しましょうか。色々話し合わなきゃならないでしょう。スミレさんに起こった事、そしてこれからの事も」

「ええ」

「うちの家族も、貴女が出てくるのずっと待っていたのよ」


 どうやらゆっくり休めるのはまだ先のようである。


「その前に、これ」

 

 スミレは片桐の腕をタップしながら、楓に目で訴えた。


(このびくとも動かない片桐くんの腕をといてちょうだい、楓さん!)


 空気の違いからくる息苦しさとは別のそれを味わい、スミレは少し気が遠くなった。



2月12日と13日、旅行に行くため、更新お休みします。申し訳ありません。

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