第2話 連れ去ります
その日の放課後。
スミレは教室を出ていく片桐、黒いテルテル坊主の後を、少し遅れてそっとついていく。
すぐには声をかけない。親しい知り合いはいないが、クラスメイトなどに彼に話しかけるところを見られたくない。変に勘ぐられると面倒だからだ。
階段を降り、廊下を通って、校門を抜ける。片桐は学校近くにある駅には向かわず、商店街を抜け、歩いていく。男子にしては歩調が緩やかなため、見失う心配はない。それどころか別の心配が浮上する。生きる屍のごとき足並みで、強い風に吹かれれば、バランスを崩して転んでしまいそうである。これは早々に回収したほうがよさそうだった。
幸い学校から大分離れたので、スミレは周りを確認し、見知った顔がいないのを見てとると、素早く片桐に歩み寄り、小さき黒いモノたちの中に手を突っ込み、彼の腕を掴んだ。
「こんにちは。片桐くん」
普通いきなり腕を掴まれたら驚くものだが、片桐はぼんやりスミレを見つめるだけだ。
慌てているのは、腕にいた小さき黒いモノたちだけだ。
(これは、またひどいわね)
今はもはや、彼の目しか確認できない。そればかりか、小さき黒いモノたちの、何個かは彼を中心に浮遊している。
なぜこれほど特異な現象が、皆には視えないのか。不思議である。
(まあ、いつもの事ね。私以外これが視えないのは)
スミレは諦めたように一つ息をつくと、頭を切り替える。
「片桐くん、今日これから何か用事ある?」
念のため、これは聞いておかねばならない。
が、多少の用事なら、キャンセルしてもらい、こちらについて来てもらうつもりだ。
もはやこんな状態の彼を、このままにしておくわけにはいかない。
本当ならもっと早くに手を差し伸べるべきだった。
ただ、その決心がつかなかった。
今は躊躇いはない。このまま彼を死なせるわけには行かないからだ。
幸いにも、片桐は首を横に振った。
「そう。ならば、これから私について来てほしいの。悪いようにしないから」
言ってから、この台詞がどこかのあくどいキャッチセールスのようだと、顔をしかめた。
片桐は気にならなかったのか、ただ返事をするでもなく、ぼんやりとスミレを見つめている。
「行きましょう」
断らないのは了承と受け取り、スミレは彼の腕に手を伸ばす。すると小さき黒いモノたちは歓迎するかのように、今度は彼の腕からどいた。それを視て、スミレは自らの腕をからめると歩き出した。




