97 俺の武器は
ロゼッタが言った瞬間に俺は落ちた。と言ってもダークエルフの俺の身体能力は、5mぐらいの高さから落ちても余裕だった。
落ちる前に2回前転をしてから着地する。マッテオはちょっと離れた所に地面に擦れるように着地していた。一応ヒューマンとエルフの区別をロゼッタもしてくれていたみたいだ。
フワリとスカートを膨らませて芝生の上に降り立ったロゼッタが、何か言いかけた時に地面が揺れた。
ロゼッタが見ているのは俺の背後。慌てて振り返ったら、そこには大量の黒い影が集まっていて芝生のエリアに侵入してきていた。
「この世界の敵ね、いや敵なのは私たちの方かしら」
そう言いながらロゼッタが右手をタクトの様に振った。
ズガンッ
土埃を立てて芝生がまくりあがった。ロゼッタが見えない糸で黒い影の物体を吊り上げて地面に叩きつけたのだ。
「不味かったかしら……」
叩きつけた場所から千切れた黒い影が復活、しかも千切れた数だけ分裂して……
「ヒューヒューヒューヒュー」
変な鳴き声? を出しながら影が形を作っていく。2本の足と2本の手、徐々に顔が作られていきドレスの様なシルエットになって
「あれってロゼッタ、だよなっ」
「そうみたいね。馬鹿みたいに増えて、なんだか不愉快だわ」
ロゼッタを写し取った黒い塊が、先程とは打って変わって動きに張りが出て来た。
「1.2.3.4.5.6.7.8、8匹もいるぜ」
「黙れうさぎ、次に匹で呼んだらお前から殺してやるから」
「すいません……」
「おーい、ロゼッタとうさぎっ。ここじゃねぇぞ、あっちの倉庫街だ。なんかそんな気がするぞー」
マッテオが指差している方向に街路樹の隙間から街の一角が見えている。……しかしそちらにも、黒い影が集まって来ている。
ビシュッ、ビシュッ
「どきなさいっ、うさぎ。邪魔」
ロゼッタが両手の指先を動かして糸を操っている。
ビシュッ
俺の肩に衝撃が走って、地面に弾かれた。
「ぐっ、左手に力が入らねぇ」
ゴロゴロ転がりながら、ロゼッタのコピーから距離を取る。
「チッ、あいつらわたしの糸まで真似してくるとはね」
よく見るとロゼッタの影達の指先から細い紐が、弾丸の様にこちらに向かって伸びて来るのが見えた。
素早く身を起こして、海側に飛んで躱した。ロゼッタは自分の見えない糸で、影が繰り出す糸の攻撃を撃ち落としている。その間にも俺達の周りに続々と黒い影の物体が集まって来て、囲まれていく。
(武器がねぇ。ダガーは寺の境内の戦いの時に全部無くしたし、相変わらずレベルってもんが上がって無いから撃てる魔法も2、3発……撃ってみるか?)
(所有者よ)
(げっ、その声は)
(所有者よ、久しぶりだな)
(何の用だよ? 金剛力士の時には出て来やしなかったくせに)
(戦う気を失っておった、むしろ戦う前から死んでおったお主に手を貸す筋合いは無い)
(そういやあの時は、リサを殺した自責の念で戦う気持ちが確かに無かったよ……やる気が無けりゃ俺が死んでも出て来ないって事か?)
(死ぬも生きるも舞台の上で。舞い踊り足掻くのがお主には似合っておるわ。どうせ踊るなら我を携えよ、狂い咲く剣舞で舞台に華を添えてみせようぞ)