92 シャドーゴーレムから逃げろっ
「R、いっぺん抜けてから入り直すかー?」
カルが走りながら後方を振り返って確認すると、Rの方を見て言った。
2人ともヒューマン[男]、ゲームの中で目立たないように街に居るNPCと同じ姿で、中年のロン毛のオッサン姿、側から見れば兄弟にも見える。ノーマルのステータスでは、大した体力も無いと来ている。
「ムムッ、ムムムッ、カル、どうすりゃいいんだ? ログアウトも出て来ねえし、そもそもここから出る為に、何て思えばコマンドが出てくる? ちょっとわかんねぇぞ」
かなり引き離したのでトボトボと歩きになったRが、立ち止まって言った。
「んんんっ? クエストのクリア条件を満たしていないから、抜ける事は出来ませんだと……なんじゃこの設定」
「クリア条件? っていうか俺たちクエストしてるって事になってるのか?」
「……ここから出るには、クエストをクリアするか死ぬかとどちらかだって書いてある。R、死んでくれ」
「アホっ、で、なんのクエストだっけ?」
「あの屋敷に監禁されてる血塗れの女の子を助けるっていうクエストよ。モフモフうさぎとラヴィちゃんが向かって来てるだろ。今のところ順調にな」
「うさぎ、死にかけて無かったか?」
「あいつ良いもん持ってるから死なねえよ。どなたかをナイフで仕留めたせいで超レアなユニーク武器を持ってるじゃねぇか……」
「……そうなのか?」
「Rがまさかあいつを使って死ぬなんて思わんかったわ。カニバリズマーだろ、あいつレアボスキャラだぞ」
「カルだって変なの使ってたじゃねぇか、気持ち悪いオネエ言葉で喋ってラヴィかっ」
「俺が使ったのは "紫紺の美姫 イザヤ" こいつもレアボスキャラだったけど、俺は死んでねぇからなー」
「うっせぇ、あいつのせいで俺は高い所が駄目になったんだ。昨日からエレベーターにも乗れないんだぞっ、シクシク」
「へへへへへへへへっ、可哀想〜。今度飛行機乗って沖縄行こうぜっ」
「行かねえよ、ボケッ」
「ぶへへへへへ」
「俺は死なねえぞっ。はっきり言って死ぬのって怖かったからな」
「じゃあどうする? 設定いじれねぇぞこれっ」
「あいつらを消せないのか? あの黒い軍団」
「もうちょっと離してから設定いじってみる。もうちょい海側に行こう。公園があるはずだっ」
「本来の俺ならあいつらなんてチョロいもんなんだがな、まぁ走ろうか」
「あの黒い軍団って、シャドーゴーレムだぞ。物理攻撃が当たらない結構ヤバイ奴だ。魔法か武器次第でしか倒せないぞ。ちなみにHP高めだし」
カルが走りながらデータを見ている。スーイサイドアベニューも海側の終わりに近づき、シーフードレストランがチラホラ増えてきている。ウォーターフロントパークはこの先の海に面した場所にあり、観光名所として有名な場所だ。
「よしっ分かった! これでモンスターの出現はカットだー、ポチッとな」