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家族1

 厳ついハゲ隊長...もとい、ラグリエードさんの自宅についたのは、もうすっかり日がくれた頃だった。


 なぜ名前を知っているかって?実は自宅に上がらせてもらうときに自己紹介をしたのだ。


 まぁ、正直説明するほどのことなかった。なぜか?


 皆怖がって俺以外まともに名前さえ言えない状況だったのだ。代わりに俺が皆の自己紹介をやるはめになったが、ニール先生いわく、ラグリエードさんにとってはいつものことらしい。


 面倒を見る、というから宿でも案内してくれたのかと思ったが、まさか自宅に泊めてくれるとは。


 何度も言うが、本当にイイ人なのだな。顔を見なければ。


 そびえ立つような煉瓦の家に案内されると、まず最初に俺たちは自己紹介を始めた。まぁ、いった通り俺が一人でしゃべる結果となったが仕方がないだろう。


 だって怖いし。本当に申し訳ないが、大抵の子供は怖がってしまう人相なのだ。


 ラグリエードさんの奥さんであるカルレラさんが夕食を作っている間に、シャワーを借りて子供達はすっかりお泊まり気分ではしゃいでいた。


 あんな出来事があった後だからか、ラグリエードさんはできるだけ俺たちに優しく接してくれたし、それを感じ取ってか、子供達もあからさまに怖がることもなくなっていた。


 和やかに夕食を済ますと、俺たちは男女に分けられて部屋を割り当てられた。いつも一人部屋の俺は今回クリスと相部屋、ラルクが一人部屋だ。


 大人達は大人達で話したいこともあるのだろう。邪魔な子供さっさと退散だ。


 ..俺は子供じゃないから、気になるところではあるが今はとりあえず、疲れた。ベッドに沈むように横になってうなだれる。


「疲れた...」


「確かにいろんなことあったもんな。お前よく泣かなかったな。俺でもあんなのに追いかけられたら怖いぞ。」


 クリスは突っ伏している俺の隣にどかりと座って笑っていた。笑っていたが、本気で笑っているようではない。


 内心では俺のことを心配してくれているのがよくわかる。いつものお調子者の姿はなく、俺が今ここにいることに安堵しているのか、ごろりと俺の隣に寝転んだ。


「怖かったさ。でも、一人じゃなかったからな。」


 もしも、あの森の出来事のようにひとりぼっちであんな状況になっていたら、きっと生きていても一生笑えなくなっていただろう。


 俺が涙を流さなかったのは、涙を押さえる余力があったからだ。その余力をくれたのは、紛れもなくクリス達だ。


 俺の身を案じて、真っ先に心配してくれた。自分以外の誰かがいると感じられただけで、とても救われたのだ。


 だからこそ、ここに導いてくれた先生や俺の事を本当の意味で理解してくれるクリストフにも、感謝しきれない。


「一人じゃないって、そんなにすごいことなのか?」


 不思議そうにされたことは、無理もないだろう。クリスはずっとシェーナと一緒にいるのだから。


 俺はむくりと起き上がり、窓の外...暗い夜空を見上げた。


「凄いことだよ。人は一人じゃ生きられない。だから俺が生きていられるのは皆のお陰だ」


 子供にいったところで理解はされないだろうけど、どうしても伝えたくて、俺はありのままの言葉を伝えた。


 クリスは意味を理解してはいなかっただろうが、気持ちを汲み取ったのかニヤリと笑った。


「はは、俺たちのお陰か。ならずーと、これからも一緒だぞ。俺もシェーナも、ルリもラルクも皆家族だもんな!」


 子供だからこそ言えるのか、クリスも本音をぶつけてくる。その気持ちが嬉しくて、感謝の気持ちに包まれた。


 同時に心の底から安心したからなのか一粒の涙がこぼれでる。


 …え、なんでだ!?


 自分でもなぜ涙がこぼれたのか解らず動揺したが、俺よりも目の前で突然泣かれたクリスの方が驚いていた。起き上がるとあたふたと慌てだしている。


「お、おい、何で泣いてるんだよっ!?俺なんか嫌なこと言っちまったのか!?」


 そのあわてふためく様子がなぜか面白く、俺は涙を流しながら笑った。


 きっと今は顔面崩壊レベルの笑みを浮かべているだろう。泣いたり笑ったりと忙しいが、回りを気にせずに気持ちを外に出したのはずいぶん久しぶりだ。


 思えばここに来てから、どうしても子供になりきれないことが多くあった。


 俺の中の常識がガチガチに固まっていて、人の顔色を伺いながらものを話す癖が抜けない。


 子供らしく無邪気に話すことが出来ずに、どちらかと言えば周囲に一枚、薄い板を張ったバリケードのなかにいたような感じだ。


 別の世界からきた、という記憶があるからか、何をするにも一歩引いたような態度の俺は、子供らしくもないだろう。


 だけど、クリスは違った。俺のバリケードなんて壊して、そこから引っ張り出してくれた。


 大人の俺だってそんなこと出来なかっただろうに、クリスは苦にもせず助けてくれたのだ。それがどれ程すごいことかなんて、本人は気づいてないだろうけれど。


 "何処か違う世界からきた俺"を"この世界にいる俺"に変えてくれたのは、ここにいる俺とかかわってくれた人たちのお陰だ。


 俺は掌で涙をぬぐい笑って見せる。何時までも泣いていては、クリスが落ち着かないだろうから。


「悪い、もう大丈夫だ。目にごみでも入ったみたいだ」


「っえ?あ、そうだったのか...?何だよ驚かせるなよっ!!」


 いくらなんでもこんな丸わかりな嘘で言い逃れできるわけ……あったな。冗談半分で言うとあっさり信じられてしまった。


 クリスはこう、バカなのか純粋なのかよくわからないところがある。


「ごめんごめん。かわりに紙笛の吹くコツ教えてやるから」


 ちょっとの詫びと、お礼をかねて。唯一紙笛を鳴らすことが出来なかった事は知っていたので提案すると、クリスの目が輝いた。


「本当か!?よし!ならやろうぜ!吹いて先生を驚かせてやるっ!」


 吹けないことをシェーナや先生にからかわれていたことを根に持っていたから、すぐに食いついてくれた。


 本当にわかりやすいやつだ。だからか、こっちも接しやすい。


 夜が更けるまで、俺たちはこっそり紙笛の練習をした。練習の成果もあってか、クリスもようやく音を出せるようになり、跳び跳ねるくらいに喜んでいた。


 そんなはしゃぐ声を遮るように、突然控えめにノック音が響く。


 …こんな時間に、一体だれだろう?


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