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装備なしで詰んでいる

 俺の頭上を激しい発砲音が降り注ぐ。


 子供たち全員、荷台に頭を擦り付けるくらい必死でしがみついてしゃがんでいた。これが銃声ならそのまま顔をあげたら撃たれそうだ。


 土煙があげるなか、時折犬達の最期の叫び声が聞こえる。


 しゃがんだまま、視線だけを後ろに向けると、そこには立派な塀が聳え立っていた。


 来るときから見えていたその錆び付いた赤黒い塀の上から、兵士たちが銃弾を浴びせていたのだ。


 先生が言うには、塀にパラウスが近づくと、発砲許可が降りるそうだ。


 だから先生は、運転しながら撃つよりも敵をここまでつれてくることを選んだのだ。


 俺たちの身の安全が、一番高い方法がこれだと判断したようだ。


「全員頭を伏せろ!顔はあげるなよ!」


 先生の声が聞こえて視線をそちらに向ける。どう頑張ったって、銃弾が飛び交うこんなところで頭なんてあげられない。


 見ると先生は助手席に置いていた散弾銃...ショットガンをしっかり手に持ち、運転席から荷台へと移動していた。


 子供たちが頭をあげていないことを確認し、肩に銃を固定してゾンビめがけて発砲する。


 土煙と視野の狭さで気づかなかったが、どうならゾンビ犬は10体ではないらしい。後ろから続々、10体単位の群れが追ってきていたのだ。


 なんでこんなに追いかけてくるんだよ...という答えは、恐らく俺たちだ。


 パラウスは本能的に若い細胞を摂取したがる。子供が五人も乗った車なんて、ごちそうなのだろう。


 おかげで、家を出て十分ほど車で走っていたらすぐに追いかけられる羽目となった。


 先生もこれを危惧してか装備やらライトやら持ってきていた。


 しかし、まさか光耐性の犬にこんなに追いかけられるとは思っていなかったため逃げに徹したのだ。


 一人で戦うには分が悪すぎる。それに今は、足手まといの俺たちがいるのだ。


 逃げに徹するのはむしろ安全策だ 。


 そしてその作戦が幸を然し、現在銃撃戦の真っ只中。


 銃弾飛び交う中、荷台の隙間からこっそり外を覗いてみる。もちろん、頭なんてあげない。あげる勇気もない。


 土煙のなか、次々と犬達が撃ち抜かれていく。時々銃弾を掻い潜り此方に突っ込んでくるやつがいるが、それは先生が狙撃してくれた。


 散弾銃の威力は凄まじく、犬が弾丸の威力にそのまま吹き飛ばされていた。ガチャン、と弾を装填する音が後を追う。


 ゲームや映画さながらの光景だが、嬉しくもなんともない。むしろ怖い。


 こっちは命の危機に瀕しているのだから当然と言えば当然か。


「全員塀に向かって走れ!!振り返らずに全速力でな」


 先生は焦りながらも、早くこの場を退こうと犬の群れが少し途切れた瞬間、俺たちに指示を出した。


 普通の子供なら怖がってその場を動けなくなるが、この世界の子供たちはこの状況に馴れていた。


 俺以外は即座に反応して走り出す。数秒遅れて、俺も走り出した。


 俺の脳内では5秒くらいフリーズしていたが、現実世界ではそこまで時間はたっていない。


 しかしその数秒が命取りとなった。俺は子供の群れのなかで一人だけ出遅れていたのだ。


 犬達がそれを見逃すわけがない。


 銃弾の嵐と、先生の狙撃を掻い潜り接近してくるゾンビ犬が一匹いた。


 そいつは、明らかに他の犬とは違う。


 体格は他のものより一回りも大きく、溢れ返った腸からは、血で赤黒く汚れた昆虫のような骨が飛びだして、ちょろちょろ動いている。


 本来柔らかいはずの皮膚は体液によって固められ、銃弾一発で貫通できないほどの強度を誇っていた。


 黒と赤で固められた犬は、もはやその原型をとどめていない。


 まさしく、群れのボスとも呼べるゾンビ犬。というかこれ、ゲームのなかではボスレベルだろ。ステージボスだろっ!?


 そしてそのボスゾンビ犬が逃げ遅れた俺に向かって走ってくる。数秒で、その差はないに等しくなった。


 その間にも銃弾を浴びているのに、決定打になっていないのかきいていない!


 回りの音が、なにも聞こえない。


 なにか先生が叫んでいるような声が遠くで聞こえる。


 俺の口から悲鳴が漏れだすころには、犬の狂暴な牙が頭を砕かんと目の前に迫ってきていた。


 大きく開かれたその口には喉がなく、本来喉の入り口となる穴には、白い脳みそのようなうごうごした塊が詰まっていた。


 そんな様子が見えるほど接近されているが、俺にできることはなにもなかった。


 ゲームや映画みたいに、都合よく武器なんて持ってない。ましてや扱えない。体術使えるほど体も鍛えてないし、力もない。


 とても回りの時間がゆっくりと感じる。


 迫り来る牙。


 振り返り、銃口を此方に向けようとする先生。


 何もかもがスロー再生されていく中、俺は悟った。


 あぁ...詰んだな。


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