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いざ街へ!と思いきや

 ルーデルク王国。それはこの世界の名前である。


 石垣が続く中世ヨーロッパを連想させそうな、優雅で気品のある建物で作られたこの王国以外に、国と呼べるものはなにもない。


 強いと言えば、街と呼ばれる地域が存在しているのみ。


 街の至るところには活気が溢れ、市場には人を呼び掛ける掛け声が、話し声が飛び交う。


 まさに平和を主張するような街には、似つかわしくない外観が存在する。


 それは、塀だ。厳重な鉄糸を張り巡らし、真っ黒な壁にも似た塀の上には、毎日かかさず明かりが集れ、塀が配置されている。


 そんなものをぐるりと囲って、街が作られている。


 このルルーシベリアという街も、その一つ。


 市場で賑わうこの街は、王国でも指折りの商人街なのだ。人の流動性が非常に高く、塀に備えられた街へと入る街門には多くの人の列が流れている。


 その様子を塀の上から見守る兵士たちは、皆王国から支給された国軍バッチを身に付け、常に機関銃を携帯している。


 パラウスや不法者、犯罪者をその場で射殺する権利を持つ彼らは、いわば警官と軍人の両方の権利を持つ役職。国軍隊の一員、エリート集団であった。


 しかし、本当のエリート...天才とも呼べるものたちは、大陸の中心に位置するルーデルク王国の警護をしている。


 つまりこの者たちは強者だが、その上が存在する。


「今日も暇だな。」


 いつもと同じように街と人を眺め、代わり映えのしない任務をこなしていた若い兵士が、あくび混じりで呟く。


 ここ最近はパラウスの出現はない。討伐隊によれば新しい報告があるようだが、塀の警護をしている彼らには、伝わるのはずいぶん先の話だ。


「おい、真面目に仕事をしろ。」


 そんな彼の様子を宥める先輩兵士も、どこかつまらなさそうに双眼鏡を覗いていた。


 緊急事態でも起こらないか、等と不謹慎な事を考えていると、その目に猛スピードでこちらに向かってくる車がうつった。


 軍人や反国軍もよく使用しているオフロード車だ。


 本来武器を詰んでいる荷台は大きく開けられ、しがみつく子供達の姿が晒し出されている。


 何事かと双眼鏡をそちらに向けると、運転している人物に見覚えがある。


 兵士は急いで、トランシーバーを取り出した。


「報告!!西街門にて此方に向かってくる車あり。運転手はニールさんだ。なにかに追われている。応援射撃の許可を、子供が乗っているんだ!!」


 先ほどまで暇な時間が流れていた塀最上部に、緊張が走った。


 ※※※※※※※※※


 なんじゃこりゃぁぁああ!!


 俺は猛スピードで爆走をしているオフロード車の荷台にしがみつきながら、その車を追いかけてくる何かから目を離せずにいた。


 時速120kmオーバーの速度を走る車に追い付かんばかりの速度を出しているそれは、犬だ。それも腐ってる。つまりゾンビ。


 腐ってるくせにものすごい速い。いったいどこにそんな筋力があるのやら。


 そんな突っ込みをしていても仕方ない。


 この状況をわかりやすく整理するとこうだ!


 まず俺たちは現在猛スピードで爆走中。荷台には子供5人、運転手が一人。


 運転中の先生はこの爆走モンスターを操縦しているため手が離せない。因みに俺たちも手が離せない。手を離した瞬間に車から投げ飛ばされるからだ。


 そしてそんな爆走モンスターを追いかける、本当のモンスター、パラウス(犬型)が10体が群れをなして後ろにぴったりくっついている。


 腐れただれた頬からは、鋭く濁った牙が涎と共に覗いており、ギラギラと輝いている眼球はまぶたに隠れておらず剥き出しの状態。


 腸ははみ出して腹から垂れていて、正直可愛いなんて言いようがない。


 そして犬種はドーベルマンと...これはゲームの定番だ。


 いやまぁ、例えこれがチワワだったとしても、怖いのは変わらないが。


 なんでこうなったって?パラウスは日の光に弱いため、朝に出てくることなんてない。...普通ならな。


「なんでよりによって、光耐性持ちの犬が出てくるんだよぉぉ!!」


 そう、こいつらはあのサントリーク事件で生まれた光耐性パラウスなのだ。


 サントリーク事件でパラウスになったのは50のおじさんだったが、どうやらそいつから感染したら、同じ光耐性持ちのパラウスになるらしい。


 サントリーク事件でゾンビおじさんは警官のつれていた犬を檻ごと噛みついたとかで、こうした犬のパラウスも多いそうだ。


 で、恐らくそのとき生まれた犬ゾンビの親戚かなにかにいま追われている。


「くそっ、よりにもよって犬の群れに出くわすとはな。皆踏ん張れ、もう少しで塀につくっ!!」


 先生はこれでもかとアクセル全開、フルスピードで車を走らせる。茶色い土煙が上がり、口に砂が入る。


「もう捕まってるってぇぇ!」


 クリスは情けなく叫びながら、シェーナとしっかり手を繋ぎ、荷台の柱にしがみついていた。お互いが離れないよう、しっかり体を寄せあっている。


 運転手側の柱につかまっているため、先生の声がよく聞こえるのだろうな。


 俺か?俺は一番後ろの柱に掴まっている。


 ゾンビ犬に追いかけられたときに、俺だけしがみつき損ねて後ろに飛ばされたからだ。


 お陰で、俺だけはしっこにいて、他の子供たちは運転手側にいる。


 咄嗟だったから仕方がないが、ゾンビ犬が飛びかかってきたら真っ先に食われるポジションにいる。


 正直誰かかわってほしい。切実に!!


 ゲームならこのスピードでも銃を向けられるだろう!でも無理だ!そんなことしたら飛ばされる!


 仮にできたとしても照準を合わしきれずにゾンビに食われるのがオチだ。ゲームみたいに揺れ補正ついてないんだよっ!?普通難しいものだ。あと俺は銃を持ってない。


 そんな都合よく銃なんて持ってないし、あっても先生の所だ。


 広大な高原をオフロード車で爆走。ゾンビがいなければなかなか良い絵になっていたかもな。


 ゾンビとの距離、凡そ8m。微妙な距離だが、これ以上近づかれると飛びかかりられそうだ。


「よしっ、ついたぞ。全員掴まれ!!」


 言った途端、全員柱にしがみつく。もちろん今回は俺もだ。先生がいきなりハンドルをめいいっぱい切ると車を横へとスピンさせる。


 一番端の俺は思いっきり重力がかかるが、頑張って耐える。落ちたら死ぬのだから、文字通り、死ぬ気で掴まっている。


 車が横を向いて止まる。その間に、ゾンビ犬が俺たちに飛びかかろうと距離を詰める。


 え、ちょ、なんで止まった!?これじゃ喰われるぞ!?


 猛スピードで突っ込んでくるゾンビ犬。怖くて頭が真っ白になっていたとき、俺の頭上を激しい音が降り注いだ...


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