兆し
「お帰り先生。」
玄関にはちょうど、荷物をどさりと置いている先生の姿があった。先生はこちらを見ると、豪快に笑う。
「ただいま、バル。相変わらず早起きだな。」
口調やら声は、そんなに緊迫した様子はない。ただ単に早く帰れただけだろうか?
そう思っていたが、急に先生の顔つきが変わった。着替えて武装したスクリトフが、二階から降りてきたからだ。
何やら、空気がはりつめる。
「悪いな、バル。ちょっとスクリトフと話があるんだ。」
席をはずしてくれ、と言わなくても伝わった。子供には聞かせたくない内容なのだということはわかる。
先生は笑っているが、決して心穏やかという訳でもなさそうだ。
「わかった。朝飯、冷蔵庫にあるから。」
俺は控えめに笑い、先生に心配をかけないよう、自分の部屋に戻る。
去り際に、スクリトフと目をあわせる。後で内容教えてくれと言うアイコンタクトなのだが、伝わるかは微妙。
伝わらないならそれで直接聞くまで。
今は話の邪魔をしないよう、俺は静かに部屋の扉を閉めた。
聞き耳をたてるが俺の部屋は玄関から一番遠いため、ほとんど声が聞こえない。
待つこと、10分。部屋にノック音が響く。俺が返事をする前に、すでに先生が扉を開けてしまっていた。
「悪いな、バル。待たせちまって。もう終わったぞ。」
にやりと笑う先生は、ベッドに座っていた俺の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「あれ、先生。スクリトフは?」
見たところ、先生の姿しか見えず、首をかしげる。
他に人の気配もなさそうだが...まさか…。
「ん?あぁ、スクならもう出掛けちまったよ。ちょっと早く出ていかないといけない用事があったらしいぞ。」
やっぱりか。先に出ていかれては、今日の話の内容は聞けそうにない。
気になるところだが、後日聞くとしよう。先に出ていったのも、恐らく先生の話が原因だろうし...。
「そっか。ならいい。皆起こしてくる」
俺はベッドから跳ねるように起き上がると、元気よく廊下へと駆け出した。
スクリトフがいなくなった途端に元気がなくなれば、怪しまれそうだからな。
元気よく駆け出したついでに、俺はそのままの勢いでクリスの部屋を直撃するのであった。
※※※※※※※※※
「ん?今日の買い出し?なにも買ってきてないぞ?」
朝14時。子供たちと朝食を囲いながら俺は先生に訊ねていた。
俺の隣では早食いして喉をつまらせて暴れているクリスがいるが、水を差し出すだけ差し出して後はスルーだ。
クリスは多分、食い物で死なないような気がするので、これくらいの対応で大丈夫だろう。
「もうパンがないんだ。それに、パン以外の食料も。」
俺の言葉に、げっ、と言いたげな顔になった先生。
すぐさま冷蔵庫やらを確認。俺の言葉に嘘がないことを確認して、肩を落とした。
「しまった。確認し損ねてたな...これじゃ、明日なんとか持つくらいか。」
うーんとしばらく考え込む先生。明日のご飯がないかもしれない、という事を悟った子供達の目が、一瞬にして輝いた。
理由は、ただ一つ。
「なら街に買いにいかないと!」
シェーナの言葉にここにいた俺以外の子供たちが頷く。つまり皆街に行きたいのだ。
気分的には遊園地にいきたがってるみたいな感じ。あまり家の外にでない分、余計だろう。
思った通りの反応で、先生は苦笑いを浮かべている。
正直あまり連れ出したくはないのだろう。子供五人を連れてゾンビ地帯の横を通るのだ。
守る大人の立場からすればとんでもないリスクだ。子供達を外に連れていってあげたいという親心と、危険にさらすわけにはいけないという警戒心が、入り交じった顔をしていた。
しかし現状、食料がなければ困る。
ましてや子供達をおいて街に行くなんて論外だ。先生は諦めたように頭をかいた。
「仕方ない、街に買いに行くか。」
「「やったぁぁ!」」
シェーナ、クリスがガッツポーズを浮かべている。なんだろう、すごく都合がよすぎるよな...。
ちょうど先生が在庫確認を怠り、俺も直前まで気づかず、買いにいかないといけない状況になってるって。
まさか、な。うん。ただの偶然、だよな...?
そんな俺の考えなど知りもせず、クリスたちは食事を続けていた。
ただし、クリスだけなんだか食欲がなさげだ。もう腹がいっぱいなのかな?
不思議に思うも、俺も食事を続ける。先生の準備もあり、俺たちは昼頃出発することとなった。
昼より夕方の方が危ないと思われるが、実は日が落ちてからの方が道の明かりがあって、森はとても明るくなる。
ゾンビ、もといパラウスも出にくいのだ。森の奥に入ったら襲われるけど。俺みたいにな。
そういうわけで、俺たちはさっさと飯を食って支度を始めるのだった。




