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お疲れ様たちの帰途

【前回までのあらすじ】


 【大怪蟹】との戦いの後、樹希は雷華と共に我捨の姿を求めて破壊されたビルを訪れるも、すでに彼はこの場を去った後であった。自分を助けるような我捨の行為、そして今回の事件そのものへの釈然としない思いを抱えつつも、樹希はそれを振り払い仲間たちの元へ……次の戦いへと続く日々へと戻るのだった。


 満身創痍の若き術者たちを迎える妖対策室のヘリコプター。長い苦難の一日を終え、一行がついに学園へと帰る時がきたのである――――。

 ――――こうしてぼく達は蒼衣お姉ちゃんと合流し、そのままヘリで学園へと帰還することになった。


 愛音ちゃんは「帰りの電車賃浮くぜラッキー!」とか言っていたけれど、正直ぼくにはもうそんな細かいことを気にしている程の余裕はなかった。

 単純な疲労だけにとどまらず、あまりにも……この一日にはあまりにも色々なことがありすぎた。起こった事を整理するだけで数日はかかりそうな怒涛の展開だったのだ。


 ……おかげで危うく、大切なことを忘れてしまうところだった。


「ヒドイよとーや! アタシを置き去りにしたあげく他のオンナとヨロシクやっているなんて……ムキー!」


 そう、眠っていたしるふを置いてきたままだった事をだ。幸い雷華さんが見つけて回収してくれたおかげで事なきを得たけれど、そうでなかったら完全に忘れたままだったろう……


「ごめんよしるふ……暁煌あかつきのことは後でちゃんと説明するから」


「アタシが寝てるのをイイコトに黙って契約サイゴまでしちゃうなんて、とーやのエッチ、スケベ、エロラノベ主人公!」


「え、エロラノベって……」


 あの時に本当にどうしようもなくて、必死に考えた結果ああなったというか……まあしるふに一言もなく大切な事を決めてしまったのは謝るしかない。


「……雷華、アレは拾って来ないで良かったのではなくて?」


「そう言われましても……」


「目が覚めたら勝手に戻って来たでしょうに。疲れた頭に響くのよ。あの声……」



◇◇◇



 ……天御神楽学園へ着くまでの間、ぼくは蒼衣お姉ちゃんにいくつか気になっていた事を訪ねてみた。


 一つ目は、今日池袋に来たS組のみんなの事だ。今このヘリに乗っているのは全員ではない……無事ではあるのだろうが、ぼくは六十階ビルで別れて以降のみんながどうなったのかを知りたかったのだ。 


「あの子たち……及川さんと恋寿ちゃんはあやかしに捕らわれていたから、大事をとって区外の病院に運ばれたわ。他の子たちはその付き添いね」


「二人は大丈夫なの?」


「救急車に乗せた時点で意識はハッキリしてたし、大丈夫でしょ。何もなければ明日にも学園に戻れるはずよ」


 良かった……状況的に仕方のない事とはいえ、彼女たちを直接助けられなかったのが心残りだったのだ。


「そうだ、あそこにはぼくの小学生の時の友達も来ていたんだ! その子たちも病院へ運ばれたの?」


「そのはずよ。あーしが聞いた限り重傷者はいないって話だったから、そっちも心配ないわね。気になるなら、明日にでも電話してみなさいな」


 ……どうやらみんな無事に済んだようで何よりだ。まあ、ひどいゴ-ルデンウィークにはなってしまったけれど。


「あとお姉ちゃん、結局今日のこれって……いったいどういう事件だったの?」


 二つ目は、今回の事件がそもそも何だったのかという事。池袋という大都会を妖が襲うなんて恐ろしい話だ。今日のところは何とか切り抜けられたけど、こんな事件が何の前触れもなく起こるとは思えない。

 ぼく自身何も知らされていなかったし、事態に気付いたのは巻き込まれた後だったのだ。


「あなた達が倒した妖達、あれが昨日の晩に渋谷で何やら儀式をやらかして大妖怪を召喚したらしいのよ。それが今日になって池袋で暴れ出した……ってのがざっくりとした流れね」


 なるほど、その儀式でび出された大妖怪が【竜種】――――暁煌だったということか。


「あーし達は朝からその妖達を追ってたんだけど、奴ら何か貴重品を持ち逃げしたとかで妖の方からも追われていたらしいの。その追手の方にミイナが手を出したみたいで……そこから何やら面倒くさいことになったのよね」


 あの時ぼくは渋谷で捜査中のミイナ先輩と出会っていた。その時点でお互いが学園の術者だということを知っていたなら、協力してもう少し早く事件を解決できたかも……というのはぼくの自惚うぬぼれだろうか?


「それで追手が迫っている事に気付いた妖達は強行策に出た。池袋駅を中心に妖を召喚して暴れさせ、時間を稼ごうとしたのね……そして例のビルに結界を張って立てこもった」


 ちょうどそのビルの中にいたぼく達は、そこで事件に巻き込まれる事になったのだ。つまり、完全に偶然。本当にただ運が悪かっただけとは……


「まあ偶然灯夜たちが居てくれたおかげで、結界を破って皆を救出できたんだから結果オーライよ。それについては、綾乃浦さんにもお礼を言わなきゃね」


「え、私……!?」


 ぼくの隣に座ってうとうとしていた静流ちゃんが、突然名前を出されて戸惑った声を上げる。


「そんな、私はただ月代君が心配だっただけで……」


 ――――冨向ふうこう入道に囚われたぼくの前に彼女が現れた時は自分の目を疑ったものだ。樹希ちゃんや愛音ちゃんならともかく、静流ちゃんが助けに来るなんて思ってもいなかったから。


「ちょっと、お礼は言うけどおとがめがなくなるわけじゃないわよ? 教え子に勝手に危険に飛び込まれちゃ、教師として生きた心地がしないんだから!」


 顔を真っ赤にして縮こまる静流ちゃん。小学生の頃から優等生で知られる彼女が、先生の意に反して勝手な行動を起こしたなんて……それも、ぼくなんかの為に。


「ありがとう、静流ちゃん。ぼくもいっぱい無茶してるから……一緒に怒られようね」


「つ、月代君……」


 けれど実際、彼女の助けがなかったら重症者の数はもっと増えていたに違いない。だから静流ちゃんも立派な功労者だ。


「しっかし灯夜、あんたの無茶も相当なもんよ? 二体目の妖との契約なんて前代未聞の話じゃない。それもよりにもよって【竜種】となんて……」


「……その事なんだけど、お姉ちゃん」


 三つ目。ぼくの最後の気掛かりは――――


「この子は……暁煌はこれからどうなるの? まさか封印とかされないよね!?」


 儀式によって異界から召喚された【竜種】の少女……暁煌。今ぼくの肩に身体を預けて安らかな寝息を立てている彼女の、この後の事だ。


「うーんそうね……彼女の扱いについては、正直あーしの一存では決められないところよ。何せ【竜種】は遠い昔に滅んだはずの妖なんだから。そんなものが現代によみがえるなんて誰も想像してないっていうか……」


 本来この世界に居ないはずの存在――――それが【竜種】。倒されてもまた復活する妖の中にあって唯一、絶滅してしまったと言われる彼女たちの一族にはまだまだ謎が多い。


「けれど、ただひとつだけ確かな事があるわ」


「樹希ちゃん?」


 会話に割り込んできたのは樹希ちゃんだ。それもいつになく深刻な表情で。


「――――彼女の存在をおおやけにするべきではない、という事よ」


「!?」


 公にするべきではない? それってどういう……


「イツキの言う通りね。伝説の【竜種】が復活したなんて話が広まったら、それを手に入れようと考える不埒ふらち者は必ず現れるわ。西の連中は元より、国外の術者達だって黙ってはいないでしょ」


「そんな……」


 ただの希少種というだけでなく、【竜種】は街ひとつ軽く焼き払える程の恐ろしい力を持った妖なのだ。それは暁煌と契約し霊装したぼく自身が一番よく――――


「え、ちょっと待って! それじゃあ彼女と契約したぼくは……」


「もちろん、あなたの身も安全とは言えなくなるわね。【竜種】との契約者なんてそれこそ規格外中の規格外、危険人物と見なされて当然よ。野放しになんて出来る筈もない……良くて一生研究所でモルモット、下手したら秘密裏に殺処分だってあり得るわ」


 冷たく言い放つ樹希ちゃん。なんて事だ! ぼくは暁煌と同じくらい……いや、それ以上に危うい立場になってしまったというのか!?


「こんな事にならないよう日々言い聞かせてきたというのに、まったくあなたときたら……」


「せ、先生! 月代君は、月代君はどうなってしまうんですか!?」


「ちょ、ストップ! 落ち着いて綾乃浦さんっ」


 身を乗り出して詰め寄る静流ちゃんの勢いに押されてたじろぐお姉ちゃん。静流ちゃんってたまに怖いくらい押しが強くなる時があるんだよね……どうしてだろう?


「……当面の間、【竜種】の彼女は学園で身柄を預かることになるわね。もちろんその正体は秘密にしないとだけど。天御神楽学園の内に居る限り、西の連中もうかつには手が出せないはずだから」


「それで、月代君は――――」


「まあまあ……契約の事を知っているのはここの面子だけなんだから、誰かが漏らさない限りは大丈夫のはずよ。今のところは安心していいっしょ」


 お姉ちゃんの説明で静流ちゃんもとりあえず落ち着いてくれたようだ。ぼくも少し安心したよ……


「……一番情報を漏らしそうな輩がこの場に居ないのは問題じゃないんですか?」


「カズハの事? まあ西も彼女ひとりの言葉を鵜吞みにするほど腰は軽くないでしょうよ。【竜種】の復活ってだけで充分に眉唾だし……けど、何か探りを入れてくるのは確実。用心しておかないとね」


「西でも東でも信用されんとは、日頃の行いがものを言うってヤツか……フッ」


 ミイナ先輩の何気ないつぶやきを聞いて、お姉ちゃんがハッと思い出したように手を叩いた。


「そうそう、みんな学園に戻ったら病院に直行ね。散々妖とやりあってすっかりボロボロでしょ……特にミイナ、あんたは入院確定だから」


「なにい」


「なにい、じゃないわよ! 重症患者が涼しい顔してんじゃないってーの!」


 そうだった、激しい戦いの連続でみんな少なからず傷を追っている。その中でもミイナ先輩は特に重症だったのだ。


「フッ、この程度の傷は戦場では日常茶飯事……肉でも喰って寝ていればすぐに治るさ」


「暴れると周りに迷惑だから病室は一人部屋がいいわね。大丈夫、ちゃんと手配するから」


「だから、すぐに治ると……」


 少し前までの先輩ならもっと強行に反発していただろうけど、今の彼女はどうやら違うようだ。それがぼくとの戦いの影響であるのなら……良い方向に変わってくれているのなら、嬉しい。


「それと灯夜、あんたも精密検査だからね」


「え、ぼくは特にケガしてないけど……」


 そうなのだ。激しい戦いを繰り返し何度も死を覚悟したにもかかわらず、ぼくの体には目立った傷のひとつも無い。これに関しては不幸中の幸いと言えるかもしれないけど……


「忘れたの、あんたは【竜種】と契約したのよ? 今は良くても、後でどんな影響が出るか分からないんだから……ということで、直接病院のヘリポートに停めるからヨロシクね!」


 ――――すべてが丸く治まったと思いきや、どうやらぼく達の長い一日はもう少しだけ続いてしまうようだ。


「むにゃむにゃ……お疲れ様ぞ、トウヤ――――」

 ここまでお読みいただきありがとうございます!

 次回からはエピローグ編なのですよ~ヽ(´ー`)ノ

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