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エピローグ

「ねぇ、青木賞の授賞式のニュース見た?」


「花山粧の『銀翼に潜む殺意』が受賞したんでしょ? あれ面白かったもんね。超納得!」


「それはものすっごく同意なんだけどね、私が言いたいのはそれじゃなくて! なんと授賞式に花山粧がついに登壇して顔出ししたんだって!」


「えーー! 今までメディアにまったく出てなかった花山粧が!?」



亜湖と要が婚約者になって丸1年が経つ頃。


とある会社の休憩室では、2人の女性が、昨年発売されて即ベストセラーとなった花山粧の新作小説『銀翼に潜む殺意』の話で盛り上がっていた。


昨年7月からの選考会を経て、年明け1月に青木賞受賞が発表された小説だ。


2月に入り、つい先日授賞式が開催されたのだが、そこでこの小説はまた大きな反響を呼ぶことになった。


著者の花山粧がメディアの前に姿を現したからだ。


花山粧はこれまでメディア嫌いと囁かれていて、表舞台に一切顔を出すことがなかった。


年齢や略歴は公表されているものの、その素顔はベールに隠されており、ミステリアスな作家として知られていたのだ。


そのベールがついに明かされたとなれば当然話題になる。


しかもその容姿が驚くべきものだったため、今こぞってメディアが授賞式の様子を取り上げていた。



「それで花山粧、どんな顔だったの!?」


「それがね、すーっごくイケメン! いや、イケメンって言葉じゃ足りないくらいイケメン! テレビでニュース見て、私思わず絶叫しちゃったもん」


「うそ、超見たいーー!」


「そう言うと思ってコレ持ってきたの! ジャジャン! なんと花山粧の独占インタビュー記事が載った雑誌でぇーす♪」


「見せて、見せて! ギャー、ヤバッ! カッコよすぎ!」


「でも残念! 既婚者の上に奥さんのこと超溺愛してるっぽいよ。この記事読んでみてよ?」



授賞式を前に、花山粧は文芸誌の取材に応じていた。


その写真付きのインタビュー記事が現在話題になっており、普段文芸誌を手に取らない層にまで売れている。


この女性もそんな1人であり、テレビのニュースで存在を知ってさっそく買いに走ったのだ。


戦利品をもう1人の女性に自慢げに掲げた後、2人は(くだん)のインタビュー記事をさっそく読み始めた。


◇◇◇


——青木賞受賞おめでとうございます。受賞の連絡を受けた時の心境はいかがでしたか?


花山:最初は驚きました。その後にどんどん嬉しさが込み上げてきて。あと“これは良いキッカケになるぞ”と思いました。



——キッカケですか? それはどのような?


花山:プロポーズをするキッカケです。おかげさまで、無事プロポーズに成功して最近結婚しました。



——それはおめでとうございます! 奥様との馴れ初めをお伺いしても?


花山:妻との最初の出会いは飛行機の中でした。その後偶然街で再会して。実はその頃、スランプで書けない時期だったんですが、妻に叱咤激励されてスランプを脱したんですよ。それから『銀翼に潜む殺意』を書き始めました。



——では『銀翼に潜む殺意』が生まれたのは奥様のおかげですね。本作の舞台が飛行機でしたが、もしかして奥様との出会いの場だったからですか?


花山:いえ、そこは特に関係ありません。妻が客室乗務員をしているので仕事について話を聞くうちに、だんだん興味を持ったという感じです。それで自然と飛行機を舞台にしてみようと思うようになりました。



——なるほど。奥様の影響だったんですね。ところで花山先生はこの青木賞受賞をキッカケにメディアへ顔出しをされることになりましたが、何か心境の変化があったんですか?


花山:実は以前からいつかは顔を出した方がいいだろうとは思っていました。映画化して頂いた作品の宣伝時に登壇して欲しいという声や、書店さんでサイン会をして欲しいという要望も以前から頂いていたので。担当編集者さんからもずっと言われていましたし。


——そうだったんですね。そこからどのように決心されたのですか?


花山:やはり妻の存在が大きいですね。妻に思いっきり背中を押されました。なので、受賞を機に、というか正確には結婚を機に、顔を出すことにしました。



——先程からお伺いしておりますと、花山先生にとって本当に奥様の存在が大きいのが伝わってきます。そんな奥様へぜひ一言お願いします。


花山:ありきたりですが、いつも傍にいてくれてありがとうと伝えたいです。それ以外の言葉は直接伝えます。その方が可愛い反応が見られるので。今から楽しみです。



——ラブラブですね。最後に読者の皆さんへメッセージをお願いします。


花山:いつも応援ありがとうございます。これからも皆さんに楽しんで頂ける作品を執筆していきたいと思うので、ぜひ手に取ってもらえると嬉しいです。



——花山先生、ありがとうございました。今後のご活躍も楽しみにしております!




◇◇◇



「な、なんですか、これ……!」


「なにってインタビュー記事だけど?」


「そういうことじゃなくて! なんで私のことこんなに語っちゃってるんですか!?」



私は読んでいた雑誌を握りしめ、手をワナワナと震わせた。


要さんが受賞をキッカケに顔出しする決意をしたのは知っている。


授賞式に出席したり、インタビューに応じたりする話も聞いていた。


 ……でもそのインタビューの場で私のことを語るなんて知らなかったんだけど……!



目の前の記事内では、全体のうち7〜8割近く『妻』の話が占めている。


客観的に見て、惚気ていると言われても過言ではない内容だ。


現に、さっき母から『克敏さんと一緒に見たけど、ものすごい惚気だったわね。亜湖ったら溺愛されているのね!』とメッセージが来た。


身内にそんなふうに言われると、恥ずかしくて居た堪れない。


「ごめん、嫌だった?」


「嫌ってわけではないですけど。恥ずかしいというか……」


「可愛いなぁ。実は亜湖ちゃんのそういう顔が見たかったからっていう理由もあるんだけど」


「もう!」


付き合い始めてからというものの、要さんは私がタジタジになるのを殊の外楽しんでいる。


それは夫婦になってからも変わらない。


私も外面を取っ払って、遠慮なくビシバシ言ってるけど、どう考えても要さんに翻弄されていることの方が多い気が常々している。


ぷりぷり怒りつつ、軽く睨み付けると、懲りない要さんは私を腕の中に囲い込んでギューッと抱きしめてきた。


そして薬指に指輪が光る左手を私の頬に添えて、ふわりと唇を重ねる。


「んっ」


小さく喘ぐと、いつの間にか眼鏡を外していた要さんはさらにキスを深めていく。


唇の隙間を割り裂いて侵入してきた舌が、ゆっくりと隅々まで味わうように口内を舐め尽くし、私はもう息も絶え絶えだ。


次第に頭がフワフワとしてきて、すっかり怒りなど吹き飛び、ただただ甘美な心地に酔いしれる。



「亜湖ちゃん、記事に書いてあった後で本人に伝えるっていう言葉、なんだと思う?」


すると、要さんは唇を一度離し、突然こんなことを訊ねてきた。


てっきりあのインタビューの場で適当に言っただけだと思っていたのだが、なにか私に伝えたい言葉でもあるのだろうか。


顔を覗き込んで訊ねてくる要さんに、私は小さく首を傾げる。



「知りたい?」


「え? はい」


私の返事に要さんの瞳が蕩けるように甘やかになる。


その瞳に釘付けになっていると、そっと耳元で要さんがささやいた。



「亜湖ちゃん、愛してるよ」



剥き出しの心に届いた愛の言葉に、私がどんな反応をしたのか、そして要さんが次にどんな行動に移ったのかは推して知るべし。




恋人ごっこから本物の恋人へ。

その翌日には婚約者へ。


要さんと出会って以降、私の状況は驚くべき速さで変化を続けてきた。


そしてつい1ヶ月前、私は売れっ子小説家『花山粧』の妻——葉山亜湖になった。


結婚したとはいえ、これから先、待ち受ける苦難も多々あるだろう。


顔出しを果たした要さんに言い寄る女性はきっと多くいるし、周囲から私が何か言われることもあるに違いない。


でも大丈夫。


私は決して潰れない。


心の中がモヤモヤした時には、相棒の『グチグチノート』がある。


それに外面を作るのは得意だ。


万人に好感を持たれる、売れっ子小説家の妻の仮面だって私ならきっと作り上げられる。


でも要さんの前でだけは素顔の私でいさせて欲しい。


要さんがありのままの私を包み込んでくれるなら、どんな時でも私は頑張れるから。



頬を上気させた私は、そんな想いで目の前の愛しい人を見つめ、今にも溶けてしまいそうな甘い熱に身を委ねた——。



〜END〜


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