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09. 映画館デート

「円香さん、外見と中身にギャップのある男性ってどう思いますか?」


この日、羽田発パリ行きの国際線フライトの乗務を終えた私は、現地到着後にホテルへチェックインして私服に着替えると、円香さんとパリ市内のレストランを訪れていた。


日本人シェフがオーナーを務める1つ星のフレンチ店でのディナーが目的だ。


ここは円香さんが以前にも仕事の後に来たことがあるらしく、おすすめということで連れて来てもらった。


季節の食材を使ったオリジナリティ溢れる料理は見た目にも美しく、ワインとも相性抜群でとても美味しい。


そんな食事を堪能しつつ、会話を楽しんでいたのだが、私はふと円香さんの意見が聞いてみたくなり冒頭の質問を繰り出した。



「えっ、なになに? 亜湖ちゃんから恋愛系の話してくるなんて珍しいわね! ギャップのある男性かぁ、私はすっごくイイと思うなぁ。意外性のある男性って素敵じゃない!」


こういった類の話題はいつも円香さんから切り出してくることが多く、私は聞き手に回りがちだ。


だから新鮮さがあったようで、円香さんは大きな目を爛々と輝かせて話に食い付いてきた。


「例えばどういう意外性だと素敵って思います?」


「う〜ん、ガサツそうに見えるのに細やかな気遣いができるとか、チャラそうなのに実は一途とか、無愛想で冷たそうなのに意外と優しいとか、かなぁ?」


「なるほど、確かに素敵ですね! いわゆるギャップ萌えってヤツですね!」


円香さんの上げるギャップ男子に笑顔で相槌を打ちつつも、私は内心で思った。


 ……これって全部、見た目の印象がマイナスから始まったギャップだよねぇ。


どれもこれも外見から受ける印象があまり良くないからこそ、意外な一面を見てキュンとくるパターンだ。


今私の脳裏には“ある人物”が思い浮かんでいるわけだが、残念ながら彼にはこのケースは当てはまらないに違いない。


なぜなら見た目でマイナス印象を持たれる状況が、おそらくほぼ100%ないから。


仮にあるとすれば、「イケメンが苦手」、「モテるだろうから私には無理」等の理由で、極上イケメンを最初から恋愛対象にせず敬遠する女性の場合だろう。


「……ちなみに、外見はオシャレな雰囲気の超絶イケメンで、中身は女心に疎い鈍感かつ面倒くさがりな男性ってどう思います? 意外性にキュンってなりますか?」


「えー、それはちょっと嫌かも。いくらイケメンでも付き合ったら大変そうじゃない? それならそこそこのルックスでも女心を分かってくれる気遣いできる人の方がいいな〜! あ、観賞用には良さそうだけどね!」


 ……うっわぁー、葉山さん、残念ッ!



葉山さんの元カノ達は、美人で情報感度が高くて自分に自信のある華やかな女性が多いんだろと私は勝手に想像している。


だから同じタイプの円香さんにヒアリングしてみたわけだけど、判明したのは厳しい現実だった。


 ……4日後に2回目の恋愛コンサル予定だけど大丈夫かなぁ。



ランチのお店選びだけで数々の指摘が飛び出した初回を踏まえれば、先が思いやられる。


昼デートがテーマだったあの日、本当はランチの後にもどこか行くつもりだったのだけど、結局それは見合わせた。


ランチだけでアレだったので、ちょっと詰め込みすぎになるかなぁと思ったのだ。


そのため復習を兼ねて、2回目もテーマは前回同様昼デートを予定している。


ランチをして、今度こそその後どこかへ、というプランだ。


 ……さてさて、どうなることやら。



東京から約9,700km離れた異国の地パリにて、私は4日後の未来について思いを巡らせたのだった。





そして迎えた恋愛コンサル2回目の日。


あらかじめメッセージアプリで連絡をもらい、葉山さんから指定された待ち合わせ場所は表参道だった。


前回と同じく12時に落ち合い、葉山さんの案内のもとランチのお店へ向かう。


少し歩いて到着したのは、木の温もりを感じるオシャレなカフェだった。


ふわふわパンケーキがインスタ映えすると人気の女子ウケ抜群のお店だ。


「どう? 前回の来栖さんからの指摘を反映したつもりなんだけど」


「バッチリです! ここなら葉山さんの未来の彼女も喜んでくれると思います」


勝手ながら前途多難そうだと思っていたため、嬉しい誤算だ。


前回の指摘を理解し、葉山さんは着実に女心を掴み始めているようである。


私達はそのカフェで和やかにランチを済ませると、食後のコーヒーを飲みながらこの後について話し合いを始めた。



「ランチの後はどうします?」


「特に考えてなかったけど、どうしようか?」


「えっ、ノープランですか!?」


 ……ここまでせっかくいい感じだったのに!


私はコーヒーカップを持つ手をピタリと止めると、目線だけをジロリと葉山さんに向ける。


そして今日最初のツッコミを入れた。


「まだ2回目のデートですよ? 長い付き合いのカップルならまだしも、付き合い始めの場合はある程度プランはデート前に持っておくべきです。自分のために彼氏から提案して欲しいって思うのが女心ですから」


「そういうものなんだ。だから俺を振った彼女達も微妙な表情してたのか」


「元カノとのデートの時はどうしてたんですか?」


「別にどこでもいいから君の行きたいところで、って相手に合わせたけど?」


 ……う〜ん、それは微妙だなぁ。


確かに相手を尊重するのは悪くない。


でも“どこでもいい”って1番困る一言だったりする。


それに……


「それだとなんか葉山さんが考えるの放棄してるっぽい印象を受けるんですよね。雑に扱われてる感じもします。あと面倒くさがりが若干透けてますよ」


「えっ、全然そんなつもりはなかったんだけどな。女性ってやっぱり難しいね……」


「相手に合わせるにしても、例えばいくつか候補を提案して、どこがいい?、君が行きたいところでいいよ?って感じにすれば印象が全然違うと思います。それなら尊重されて嬉しいと思うし」


「確かに。なるほど」



納得してくれたところで、この流れのまま私は昼デートにおすすめの場所も解説することにした。


前回のお店選びの時みたいに、トンチンカンな提案に対してツッコむよりも、始めにレクチャーする方がスムーズだと思ったからだ。


「ちなみに付き合い始めの頃のデートでおすすめの場所は、映画館、水族館、動物園とかですね。共通の話題があるから会話に困らないっていう点がポイントです。特に映画館はお昼だけじゃなく夜デートにもぴったりですしね」



結局、じゃあ映画館に行こうかという話になり、私達はカフェを出て近くの映画館へ移動した。


平日の昼間ということもあり、映画館は人が少なく空いていた。


目的の映画があって来たわけではないため、チケット売り場にあるモニターを見ながら、上映中の映画をのんびりと確認する。


モニターには映画タイトルと上映時刻しか載っていないが、周辺には宣伝用ポスターも貼られていたため、そちらも合わせてチェックした。


誰が出演しているのか、どんな雰囲気の作品なのかは映画選びにおいて重要だ。


「葉山さん、どの作品観たいですか?」


「どれでもいいよ。来栖さんが観たいもので。……あ、これもダメな感じ?」


答え終えると同時に、葉山さんは自分の失態に気づいたようだった。


ピタリと静止し、窺うような視線を私に向ける。


 ……飲み込みは早いんだけどなぁ。


私が無言で頷くと、葉山さんは先程の指摘を思い出したのか、改めて答えを言い直した。


「俺はあのアクション系の洋画か、有名監督のヒューマンサスペンスか、小説原作のラブストーリーがいいかなって思うけど、来栖さんは?」


今度はバッチリだ。


ちゃんと自分の好み踏まえて提案しつつ、相手の意向も窺っている。


 ……こういう会話を通してお互いの好みを知るのは大事だもんね。


私はふむふむと頷きながら、提案してもらった映画の宣伝ポスターを眺めていく。


その時、ふと私はある文字に目を留めた。


「原作……『花山粧』……?」


葉山さんが候補に上げなかった作品のポスター内にその文字は記されていた。


私は隣に立つ葉山さんを見上げる。


「よく気がづいたね。そうそう、この映画は俺が書いた小説が原作なんだよ」


私のつぶやきを拾ったらしい葉山さんは、自慢するでもなく、アピールするでもなく、こともなげにサラリとそう言った。


「なんで言わなかったんですか!?」


「いや、別にあえて言うほどのことでもないしね」


「観る映画の候補にも上げてないですよね!?」


「まぁそれは、話の内容知ってるし、この映画自体も俺は公開前に観せてもらったから」


 ……確かにそれはそうだけど、そういうことじゃないッ!



やっぱり葉山さんは、全然女心が分かってない。


察しが悪くて鈍感すぎる。



「あのですね、デートってお互いを知って仲を深めるための手段なわけです。ラーメン屋じゃなくてカフェがいいのも、ゆっくり話せるからって言いましたよね?」


「この前指摘されたから、もちろん覚えてるよ。それで?」


「つまり、なんでもいいから少しでもたくさん相手のことをが知りたいんです。それが女心。なのに葉山さんは今、あえて言う必要ないって隠しましたよね?」


「隠したつもりはないけど……」


「例えば、デート中に明日JP航空の羽田発パリ行のフライトに搭乗するって葉山さんが私に話したとします。で、その時私は何も言わなかったけど、当日飛行機の中で私を見かけたら“隠した”って感じません?」


その状況を想像してみたらしい葉山さんは「確かにそうかも」とゆっくり首を縦に振る。



「まぁ私達は別に本当の恋人じゃないからいいんですけど、本物の彼女ならやっぱり教えてもらえないとショック受けますよ。彼氏の書いた小説が原作の映画なら観てみたいって絶対思うでしょうし」


「……女心って繊細だね」


葉山さんは端正な顔に苦り切った表情を滲ませて嘆息した。


それにしても、葉山さんが当初の想像以上に女心を分かっていなくて驚く。


ただ、すごく不思議なのだ。


こんな恵まれた容姿だと学生の頃からずっとモテて、女性に囲まれて生きてきただろうに、なぜこれ程までに疎いのか。


 ……謎すぎる。



せっかくだからと、最終的に私達は葉山さんの小説が原作の映画『涙に隠れた夜』を観ることにした。


原作小説を読んでいなかった私は普通に楽しませてもらい、映画後に立ち寄ったカフェで原作者本人を前に思う存分に感想を語らせてもらった。


結論、葉山さんは恋愛小説じゃなく、これからも絶対ミステリー小説を書くべきである。


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