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38-1・はしゃぐ大武~紅葉と大武の握手

-YOUKAIミュージアム-


 説明を終えたあと、燕真&雅仁&佑芽は店に入り、粉木と砂影は事務室に残った。粉木がスマホで有紀に電話をする。


〈どうしたの粉木さん?〉

「有紀ちゃん、すまんが状況が変わった。」

〈どういうこと?〉

「本部から嬢ちゃんの護衛が派遣されることになりそうや。

 その件で、燕真が戸惑っている。」


 早急に「紅葉の出生の秘密」を本人に伝えるべきだが、まだ伝えていない。いきなり「父は人間ではない」「オマエは半分妖怪だ」と打ち明けられて、紅葉が平常心でいられるわけがない。動揺する紅葉に対する受け皿が必要だ。

 だから、先んじて燕真に伝えて、しばらく様子を見た。燕真は紅葉の出生を知ったあとも、紅葉への対応を変えていない。「受け皿は整っている」と感じられた。

 だが「紅葉の調査」及び「紅葉の護衛を派遣する」という上層部の決断に対して、燕真が紅葉を、「自分の範疇では対応できない」「急に遠い存在になってしまった」と感じて動揺をしている。


「これでは、嬢ちゃんの受け皿になれん。」

〈本部の調査結果を待って明確な答えが出てから、紅葉に伝えるべきね。〉

「そうした方が、話を二転三転させて、嬢ちゃんを不安にさせずに済む。」

〈解ったわ。紅葉に打ち明けるのは、もう少し待ちましょう。〉


 通話を切り、大きく溜息を付く粉木。迷いながら紅葉を見守り続けた結果、思惑を越えた方向に話が進み出した。


「こんな込み入った状況でぇ、吉報て言えるかどうかは微妙やけどね。」

「なんや?」

「ハイパーガルダ・・・雅仁の銀色メダルの件なんやけど・・・。」


 砂影は「雅仁の所持する銀色メダルは、先代の念の影響で機能を失っている」と把握したので回収をしなかった。雅仁が念を上書きで起動させたのは想定外だ。


「おう、どうだったんや?」

 

 粉木からの報告は受けていたのだが、直後に発生をした「喜田の暴走」の処理が優先された為に、調査が遅れてしまった。


「結論から言や、あらもう銀色メダルでないわ。

 雅仁自身の手でぇ、別のメダル・・・

 強いて言うがなら金色メダルに進化をしたが。」

「せやったら、魂が汚染されることは?」

「特殊事例やで‘絶対’とは言えんけどぉ、可能性ちゃゼロに近いわ。

 金色メダルちゃ、ガルダ専用のパワーアップアイテム。

 そーなした雅仁ちゃ大した才能・・・としか言い様が無いわね。」


 先代の宗仁が息子を守る為の結界を銀色メダルに施し、長い年月を掛けて破壊のメダルから守りのメダルに性質が変化して、雅仁による念の上書きで、全く別物の金色メダルに生まれ変わった。つまり、一朝一夕では為し得ない、狗塚家二世代による変化なのだ。


「デメリットちゃ、ハイパー発動時には、雅仁の消耗が著しいこと。

 そっちゃ、雅仁自身が理解しとるし、

 雅仁なら、行使するべきタイミングを見誤らんやろうね。」

「そうか・・・そら良かった。」


 問題は山積している。だが、雅仁が闇に食われる心配は無いと知り、粉木は幾分かの安堵をした。




-山頭野川の東岸-


 河川敷の高水敷広場に高級車が停車しており、大武剛COOと、秘書の迫天音が、並んで辺りを見回していた。大武は、スーツ姿にもかかわらず、片膝を付いて、地面に手の平を乗せ、全身で龍脈の躍動を感じ取る。


「相変わらず素晴らしい地域だ。」


 文架市は龍脈の優れた地域。死者の霊を呼び起こす場合、死者の念が強く隠った物や、対象が地縛された場所ならば、比較的、容易にクリアできる。だが、念が弱く、且つ、対象と縁の薄い場所で呼び起こすには、優れた龍脈の力が必要になる。

 夜野里夢が文架市と何の関係も無い弁慶&岡田以蔵&森長可の霊を呼び出せたのは、文架市の龍脈上で儀式をしたからだ。


「だが・・・素晴らしい地域ゆえに表裏がある。」


 古の日本には、強い龍脈の影響で数多の人間の邪念が集まり、地獄に繋がる大きな歪み維持された一地域があった。その地は、事実上、地獄界の支配下にあり、様々な地獄の住人が闊歩して、「この世の地獄」と呼ばれていた。危機感を持った人間は、その地に結界を張って地獄に繋がる歪みを封じた。


「それが、この文架市!」


 大武は、立ち上がって堤防上まで駆け上がり、鎮守の森公園の方角を眺め、空を受け止めるような勢いで両腕を広げ、堤防上で大の字に寝転がった。迫は、大武のハイテンションぶりを引き気味に眺めている。


「だからこそ、この地には、奇怪な事件が頻発をするのだ!」


 文架市街には大きな龍穴が4ヶ所ある。文架駅西側のロータリー、山頭野川の東岸広場、鎮守の森公園、そして、優麗高校。強い龍穴に結界を施して、地獄に繋がる歪みを封じている。

 駅西のロータリーは、粉木との会食前に確認をした。今ここで、河川敷と公園を確認した。優麗高には、これから赴く予定だ。


「迫君!どう思う!?」

「COOの思うままにどうぞ。」


 質問をされた迫は、大武のテンションを受け流して、冷静に回答をする。


「そろそろ、源川紅葉さんの下校時刻ですよ。」

「おぉっ!そうか!もう、そんな時間か。」


 指摘をされた大武は、一呼吸して気持ちを抑えて‘いつもの大武剛’の表情を作る。




-優麗高-


 放課後になり、帰宅をする者、部活動に向かう者、それぞれの目的地へと向かう。その中に、紅葉と亜美の姿があった。

 伊原木が、2階の窓から紅葉を眺めている。紅葉は古典を専行しており、今日は伊原木の授業を受けたが、彼女からは何の力も感知できなかった。


「あの小娘から感じた御館様の力は気のせいだったのか?」


 彼女は文架の退治屋と行動を共にしている。彼女の中に主の魂が眠っているのならば、容赦無く引き裂いて必要な物だけを引っ張り出す。だが、見当違いに普通の人間を殺害して、何も達成しないまま退治屋と交戦状態になるのは避けたい。確証の無い現状では、もうしばらく様子を見るしかない。


「んぉ?」


 紅葉と亜美が正門を通過すると、50mくらい北(紅葉達の帰宅方向の逆)の路肩に、黒塗りの高級車が停まっていた。先日の喜田の車と似ている気がするが、車に興味の無い紅葉には、前回と同じ車か別の車かすら解らない(喜田の車は中破、停まっているのは別の車)。


「キタってヤツ、また来たの?」


 粉木に怒られて本部に連行されたはずなのに、また「紅葉待ち」をしているのだろうか?


「チョット、見てくるね。」

「紅葉っ!危ないって!」

「今度は乗らないからダイジョブ!」


 紅葉は、首にぶら下げた‘新しい御守り’が、ちゃんと有ることを確認してから車に近付き、サイドガラス越しに覗き込んだ。

 紅葉の行動に、搭乗をしていた大武や迫の方が驚いてしまう。


「と、遠目に様子を見に来ただけなのだがな。勘の良い娘だ。」

「もの凄く怪しまれていますが、無視しますか?」

「我々は、彼女の調査と保護を約束したのだ。無視はできまい。」


 笑顔を作り、後部座席から出る大武。続けて迫も車外に出る。小柄(身長151センチ)の紅葉は、身長差約40センチの中年男性を、少し怪訝そうに見上げた。


「君が源川紅葉さんだね。」

「オッサンは誰?」

「私の名は、大武剛。怪士対策陰陽道組織のCOOだ。」


 大武は、ポケットから名詞を出しながら答える。


「んぇぇっ?しーおぅおぅ?この前の、干からびたクラゲもそんなこと言ってた。

 しーおぅおぅって沢山いるの?どっちかがニセモノなの?」

「干からびたクラゲ?」

「キタってヤツ。」


 独特な表現に対して、大武は呆気に取られ、隣に立つ迫は小さく声を漏らして笑った。


「干からびたクラゲは解任されて、私が代表を任されたのだよ。」

「かいにん?・・・ご懐妊?」

「解任。悪いことをしたので、クビになったってことだ。」

「クビかぁ~。死刑にはならなかったんだぁ?

 ワルいこといっぱいしたり、ニャンニャン(佑芽)泣かせたのに。」


 日本の一企業に死刑を実行する権限など無い。大武は、無邪気さに隠れて「直情的に残酷な言葉を発する紅葉」に、一般的な人間とは違う思考を感じ取った。


「申し訳ないが死刑にはできなくてね。

 だから代わりに、新任の私が、迷惑を掛けてしまった君達に謝罪に来たのだ。

 粉木さんには、つい先程、会ってきた。」

「・・・へぇ~、そうなんだ?ジイチャン、許してくれた?」

「ああ、謝罪を受け入れてくれたよ。

 粉木さんだけではなく、君にも謝らなければならないね。」


 深々と、十数秒ほど頭を下げる大武。紅葉は恐縮をしてしまう。


「虫のいい話だが、今後も粉木さんや佐波木君に力を貸してもらえないか?」

「んぇ?力を貸す??」

「代わりに、我々は、君を今回のような危険から全力で守る。」


 大武は、頭を上げて握手を求める。紅葉は、燕真から離れるつもりはない。だから、「部外者はクビを突っ込むな」ではなく、「退治屋サポーター」として存在を認めてもらえたのが嬉しい。


「ぅんっ!これからも、燕真と粉木の爺ちゃんを手伝ってあげる。」


 期待に応えるべく、紅葉は、大武が差し出した握手に応じた。大武は不敵な笑みを浮かべる。


「んわぁぁっっっ!!?」


 途端に、紅葉は、直径10mくらいの鉄球が飛んで来て弾き飛ばされたような錯覚に陥り、握手を離して尻餅をつく。何が起きた?一瞬のビジョンが何だったのか、理解ができない。




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