36-1・共友GPS~輪入道ワープ~茨城vsハーピー
-文架大橋東詰-
「クレハ~~~・・・・どういうつもり?」
紅葉&喜田達の乗った車は、コンビニの駐車場から公道へと出て、その場から離れていく。隠れて様子を見ていた亜美は、不安で仕方が無い。紅葉からは「誘拐されたら燕真達に連絡しろ」と言われているが、拉致どころか、自分から乗り込んでしまった。
「誘拐かどうかよく解らないけど・・・連絡した方が良いってことだよね?」
亜美はスマホを取り出して、YOUKAIミュージアムに連絡をする。
-YOUKAIミュージアムの事務室-
しばらくは無言が続いた室内だったが、粉木は「聞きたくないが確かめねばならないこと」を、有紀に尋ねる決意をした。
「のう、有紀ちゃん。」
約20年前の有紀が現役だった頃、有紀と酒呑童子が心を通わせていたことを、粉木は知っている。だが、進展は無く、悲恋に終わったと思っていた。だから、退治屋引退後に、赤ん坊を抱いた有紀を見た時は、粉木の知らない男と結婚したと思った。
「オマンのプライベートにまで、踏み込みとうはあれへんのやけどな。」
紅葉がYOUKAIミュージアムに出入りをするようになった当初から、紅葉の霊的な才能には驚かされた。索敵力はベテランの粉木を越え、銀塊への霊封力では名門の雅仁を凌ぎ、存在すら認識していない魔力を当たり前のように感知する。「母が、霊的才能に恵まれた有紀」ということを考慮しても、紅葉の才能は高すぎる。人間が持てる才能の限界を超越している。
「お嬢の父親は誰や?」
質問の答え次第では、鬼退治専門の雅仁が騒ぎ出す可能性は有る。燕真が聞いたら、どう考えるのだろうか?
粉木は、自分の脳内に有る予想が正解だった時に、若い連中がどう動き出すのか見当も付かない。だか、「燕真は霊感ゼロだから知る必要が無い」「雅仁は面倒臭いから秘密」と、信頼する2人の若者を蚊帳の外に追い出すわけにはいかない。
♪~♪~♪~
「ん?なんや?」
追及を妨害するように、事務室の電話が着信音を鳴らす。退治屋ではなく、喫茶店の回線への電話だ。数回のコールの後、店番中の佑芽が、店舗内で対応をしたので、粉木は話を続けようとする。だが、事務所の扉がノックされて開き、子機を持った佑芽が顔を覗かせた。
「粉木さんか、佐波木さんに、紅葉ちゃんのお友達から電話ですよ?
なんか、だいぶ慌ててるみたい。」
佑芽は、麻由のことは、「紅葉の友達」ではなく「麻由ちゃん」と表現する。紅葉の友達と聞いて思い浮かぶ人物は数人いるが、燕真や粉木は、彼女達から直で連絡を貰うほど親密ではない。違和感を感じた燕真が、子機を受け取って対応をする。
「変わりました、佐波木です。
・・・・・・・・・・
おお、平山さんか?どうした?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
はぁぁぁぁっっっっっっっっっ!!!?」
驚嘆の声を上げる燕真。その顔色が、怒りで赤くなる。
「わ、解った、連絡ありがとう。あとはこっちで何とかする。」
「どうしたんだ、佐波木?」 「何があったんや、燕真?」
皆の注目が集まる中で、電話の相手を不安にさせない為に、できる限り穏やかな対応で通話を切る燕真。だが、冷静なフリをしたのは、そこまで。
「あのバカ、何を考えているんだ!?
紅葉が、見ず知らずの中年共に誘われて、車に乗ってどこかに行ったらしい!」
紅葉って、ナンパをされて付いていくような女?燕真は、苛立ちながら、ポケットからスマホを引っ張り出す。
以前、紅葉から「お互いの居場所をいつでも確認できるようにしたい」と言われ、勝手にスマホを弄られて「位置情報の共有状態」にされてしまった。だが、常に紅葉から監視をされているみたいで嫌だし、一日中、紅葉の位置を確認するような趣味は無いので、「緊急時のみ使おう」と許可を得て(だいぶゴネられたけど)、普段は位置情報をOFFにして、足跡は消してある。
「まさか、紅葉の位置を確認する日が来るなんて思いもしなかった。」
位置情報をONにしてから地図アプリを開くと、自分と紅葉の位置が画面上に表示される。紅葉の現在地は文架総合病院付近。東の方へ移動をしている。
-文架市東の公道-
燕真のスマホに送られてくるGPS情報通り、紅葉を乗せた高級車は、東方面に向かっていた。今は、文架総合病院付近。
(まだ、ダイジョブ。)
紅葉は、外の風景をシッカリと確認して、「逃げ出しても自力で帰れるところ」までは、喜田達を信用したフリをするつもりだった。
「あ、あの・・・儀式ってゆーのは、どこですんの?」
「心配しなくても大丈夫。2~3分で到着するよ。」
「ふぅ~ん。」
だんだんと、併行車や対向車の数が減ってきた。
「上空の客はどうする?センサーの反応からして上級クラスだ。
そのまま追尾して来るんのではなかろうな?」
「気にすることはあるまい。
振り切れなかったとしても、目的地到着後に排除すれば良かろう。」
喜田の部下達(茂面&日部)は、車に搭載されたセンサーで、茨城童子の尾行に気付いている。
「茂面、そろそろ良いんじゃないか?」
「そうだな。」
運転手と助手席の男が、怪しげな会話をする。「2~3分で到着」と言ったクセに、まだ車を駐める気配が無い。少し怖くなってきた紅葉は、「次の信号で止まったら逃げた方が良いかな?」と思案をする。
助手席の日部が、『輪』と書かれたメダルを、センターコンソールの脇にある空きスロットにセット。召喚をされた輪入道が車に取り憑いて、ボンネットに入道フェイスが出現。口から妖気弾を吐き出して、正面にワームホールを出現させた。
「んぇぇっっ?なにっ!?」
車(マシン入道)はワームホールを通過。紅葉の視界がホワイトアウトをする。
「あれ(高級車)も、空間移動が可能なのか?」
退治屋の空間移動は厄介な技術だ。この機会に、原理を理解して攻略法に繋げようと考えた茨城童子(闇霧)は、車を追って閉じかけているワームホールに飛び込む。
紅葉の視界には、文架市の道とは全く違う風景が広がっていた。
「ここ・・・・なに?」
車は、薄暗くて火の灯された灯籠が疎らに立つ、この世とは違う雰囲気を発する場所を超高速で走行する。
そこは、黄泉比良坂。車を守る霊力障壁のお陰で命を確保されているが、生身では通過できない世界だ。紅葉は初めて見るはずなのに、妙に懐かしく感じて見入ってしまう。
同様に、車の屋根の上では、実体化をした茨城童子が、故郷の空気を感じながら見入っていた。
「現世と常世の境目か?
妖気を経由することで、人間界の何処とでも繋がれる黄泉比良坂を経由して、
思い通りの場所に空間移動が可能なわけか。
理屈さえ解ってしまえば、至極単純だ。」
車(マシン入道)の入道フェイスが、口から妖気弾を発射。ワームホールが開き、車が突入をする。
-YOUKAIミュージアムの事務室-
「おいおい、どうなっているんだよ?」
スマホの地図アプリで紅葉の位置を確認していた燕真が動揺をする。地図上から、紅葉の位置情報が消えたのだ。海や山の中ならともかく、町中でスマホの電波が届かなくなるなんて有り得ない。拉致した奴に、GPS発信がバレて、スマホを取り上げられた?
「マズい!反応が消えた場所に急ごう!」
「ワシにも見せてみい。」
粉木がスマホを奪い取って、紅葉の位置を確認する。直ぐには発見できなかったが、数十秒ほど弄っていたら、文架市の遙か東で、紅葉の位置情報を発見する。粉木に促されて紅葉の位置を確認した燕真は、一定の安堵をしたものの、状況が理解できない。
紅葉の現在地は、文架市東の須弥山付近。1分前には東の国道付近にいたはずなのに、急に20キロも移動をしたのだ。
「どうなっているんだ?GPSが壊れているのか?」
困惑をする燕真とは対照的に、粉木は「誰が紅葉を連れ去ったのか?」を想定して、表情を顰めた。
「早く救出に行った方が良さそうやな。
お嬢を連れ出したんは、退治屋の上層部やで。」
「え?どういうことだ?」
「燕真、オマンのマシンOBOROと同じっちゅこっちゃ。」
燕真の所有するマシンOBOROのワープ機能は、ザムシード専用の機能ではない。試験的にザムシードに実装され、使い勝手の良さが証明されたので、組織のトップが所有するのは必然だろう。
「黄泉比良坂を使ってワープをしたんや。」
佑芽は、喜田CEOの命令で里夢に協力をしていた。佑芽が離反をした今、別の退治屋が里夢に協力をしても何も不思議ではない。そして、その協力者は、最新の技術を自由に扱える立場。つまり、喜田CEOの直属、もしくは、本人の可能性が高い。
-文架市東の外れ・須弥山の麓-
視界が急激に開け、ワームホールを抜けた高級車(マシン入道)は、ひとけの無い、高い木々が生い茂る道を走行する。
(・・・ヤバい。)
紅葉は、「逃げ出しても自力で帰れるように」と、経路を覚えておくつもりだったが、ワープをしたあげく、今は、全く知らない場所にいる。ヒッチハイクする為の車も通らない。これでは自力で帰れない。頼みの綱は燕真だけ。位置情報を共有してくれていると期待して、ポケットの中のスマホを握り締める。
(燕真・・・助けに来てくれるよね?)
車の進行方向、左右の路肩に、髪をシニヨン(お団子頭)で纏めた小柄の白人少女と、スマートな白人青年が立っている。
「屋根の上に立っているのが上級妖怪って奴か?
アレを追い払えば良いってことか。」
「大切な素体を運んでいる車には被害を出さずにな。」
「面倒クセーな。・・・マスクドチェンジ!」
お団子ヘアの少女=カリナがAウォッチから抜いたメダルをベルトのバックルに装填!全身が青く輝いて、マスクドウォーリア・ハーピーへと変身完了!装備した弓に『Ok』の文字が入ったメダルをセットして、魔力で作られた矢を番える!
「ぬぅぅっ?狙いは、この車ではなく・・・私か?」
高級車の屋根に立っていた茨城童子は、自分が攻撃対象と判断して、素早く体を闇霧化させて上空に逃げた!一方のハーピーは、お構い無しに、引きしぼった弦から手を離して魔力矢を射る!矢は、上空で闇霧状態の茨城童子を強制的に実体化させて突き刺さった!
「なにぃ!?バカなっ!」
腹に魔力矢を受けた茨城童子が墜落。その間に、紅葉を乗せた高級車は、ハーピー達の脇を通過する。
「矢の軌道が見えなかった。・・・いつ飛んで来た?」
立ち上がって、矢を引き抜く茨城童子。魔力で作られた矢は、茨城童子の手の中で消滅する。
「奇っ怪な・・・。これが、西洋の魔術とかいう力か。」
ハーピーの奥義・オーキュペテーアローは、「標的に向かって飛ぶ」という当たり前の行程を省略して、狙った時点で「着弾する」という結果を発生させる。
霊体化をしても、例え数キロ逃げても、オーキュペテーアローを番えたハーピーに、「目視で狙われた」時点で、「矢を受ける」という結果を覆すことはできない。
「チィ・・・私としたことが、無関係な事案に興味を持ち、深入りをし過ぎたか。」
茨城童子にしてみれば、紅葉がどうなろうと知ったことではない。大魔会との交戦など、無駄な労力にしかならない。弓を構えるハーピーを睨み付けつつ、退路を探す。
「むぅ?この気配は?」
背後に妖気の発生を感知する茨城童子。全身を闇霧化して空高く飛び上がる。ハーピーは次矢を射ようとするが、100mほど前方にワームホールが出現して、ザムシードが駆り、タンデムにガルダの乗ったマシンOBOROが飛び出してきた。
「あれは大魔会の連中!既に臨戦態勢かよ!」
マシンOBOROの進行方向では、ハーピーが構えている!紅葉が、この道を通過したのは間違いない!
「押し通るぞ、狗塚!」
「了解だ!」
タンデムのガルダが、鳥銃・迦楼羅焔を構えて連射をする!ハーピーは、上空(闇霧化した茨城童子)に対する構えを解いて回避!
「妖怪ってヤツの次は文架の退治屋か?
どっちを狙えば良いんだ?」
白人青年=アトラスは、冷静に弾道を見極めて後退しながら、Aウォッチから『Gi』と書かれたメダルを抜いて、ベルトのバックルに装填する!
「無論、素体を奪い返しに来た方だ!・・・マスクドチェンジ!」
青い輝きが発せられ、全身が黒い西洋甲冑&マスクを装備したマスクドウォーリア・ギガントが出現!専用武器・サイクロプスハンマーの柄に『Gn』メダルを装填して頭上高く振り上げた!
「おいおい、あたしまで巻き込む気か!?脳筋っ!!」
ギガントのアクションを見たハーピーは、慌てて空へと飛び上がる!
「フゥゥゥンッ!!」
ノームの能力を付加したハンマーを地面に叩き付けるギガント!ノームクエイク発動!打撃点を中心に、半径30mほどに最大震度の地震が発生!地面が陥没をして、射程圏内に踏み込んできたザムシードとガルダは、マシンOBOROから投げ出されて地面を転がる!
「簡単に『押し通らせてくれる相手』ではなさそうだな。」
「くそっ!」
振動の収まりを待ってザムシード&ガルダが立ち上がる!




