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35-4・茨城童子の違和感~紅葉勧誘

-翌日・YOUKAIミュージアム-


 春休み中だが今日は登校日の為、紅葉と麻由はバイト入りをしていない。昼の繁忙期を終えた頃、粉木に呼ばれていた源川有紀が店を訪れる。


「根古ちゃん、しばらく、店番を頼む。」


 粉木は、有紀を事務室に案内してから、佑芽に店を任せ、燕真&雅仁を呼んだ。


「お氷(氷柱女)は、鬼のプレッシャーを感じる言うとったけど、

 ワシはなんも感知してへん。

 有紀ちゃんはどうだ?何らかの違和感はあるか?」


 酒呑派閥の鬼が復活したのなら、雅仁は最優先で宿敵の討伐に動き出すだろう。だが、雅仁でも鬼の動きを感知していないので、有紀の反応を注視する。


「申し訳ないけど、私も、何も感知できていないわ。」


 燕真は、有紀が妖幻ファイターだったことや、酒呑童子と惹かれ合ったことは、なんとなく聞いている。だけど、既に引退した者をワザワザ呼び出して確認する理由が解らない。


「お氷が曖昧にしか感知できないのなら、人間の私達は何も感じないわ。

 その程度のプレッシャーしか発していないということね。」

「何処かに生息をしてる可能性は有るけど、慌てる必要はあれへんってことやな。」


 特に警戒をするレベルに達していない危機を伝える為に、氷柱女が山から下りてきた?彼女が、そんな無駄な行動をするとは思えない。何らかの意図があるはずだ。


「のう・・・有紀ちゃん。」


 氷柱女の接触から、有紀を呼び出すまでに日数が空いたのは、粉木が「聞くべきこと」を迷っていたから。そして、「心当たりの有る対象」を数日間観察したが、粉木では全く変化が解らなかった為。


「家に居る時のお嬢(紅葉)は、いつも通りか?」


 粉木は、あえて、曖昧な疑問を投げかけてみる。


「廻りが賑やかになって(麻由&佑芽の影響)、少し焦っているみたいね。」

「他には?」

「それなりに注意深く見守っているけど、大きな変化は感じられないわよ。」

「・・・そうか。」


 今までは独壇場だった紅葉が、麻由や佑芽に上廻られて不満に感じている程度なら、粉木も把握している。

 燕真と雅仁は、粉木が紅葉の私生活の確認をした意図が解らずに小さく首を傾げた。




-夕方-


 優麗高は市内で2番目の進学校。4月から新3年生となる学年(紅葉達の学年)は、現時点での総合学力と改善点を把握する為に、2日間にわたって校内模試を行う。本日は、その2日目だった。


「どうだった、クレハ?」

「全然ダメ~。」

「私も~。」

「美希と紅葉ちゃんは、勉強サボりすぎだよ。」


 全科目を終えた紅葉が、友人の亜美&美希&優花と合流して生徒玄関へと向かう。


「塾に通った方が良いんじゃないの?」

「私はパス。無理せずに入れるところに進学すれば良いや。」

「ァタシもパース。進学とか、ど~でもイイ。」

「クレハ~。そんなこと言ってると、お母さんに怒られるよ。」


 自転車を引いて正門まで来たら、ただ者では無い雰囲気の黒塗りの高級車が停まっていた。紅葉達は、「何処かのお嬢様のお迎え?」などと話しながら、自転車に乗って高級車の脇を通過する。


「あの娘か?」


 高級車の後部座席にいた喜田御弥司は、手元の写真と、通り過ぎたツインテールの少女を見比べて‘対象の人物’と判断した。


「接触しますか?」

「いや、集団から連れ出すのは厄介だ。1人になるのを待つ。」


 喜田は、運転手(部下の茂面)に指示を出して、車を徐行させて紅葉の後を追う。


「あの車・・・小気味の良い邪気を発しているな。

 標的は退治屋の小娘か?」


 校舎の窓から、伊原木鬼一が‘不審な車’を眺めている。車の中から発せられる邪気が、女生徒(紅葉)に向かっているのが見える。悪しき企みをしているようだ。


「良き妖怪が育ちそうだ。久しぶりに試してみるか。」


 伊原木は、リハビリのつもり小声で呪文を唱えて鬼印を作り、高級車に向けて飛ばした。しかし、鬼印は高級車を覆っている見えない防壁に弾かれて消滅をする。


「・・・なに?」


 鬼印が、既に禍々しく育っている邪気と結びつかないなど有り得ない。つまり、原因は他にある。


「妖気祓いの結界。しかも、かなり強力な代物。・・・退治屋か?」


 邪気を祓うべき退治屋が、退治屋の小娘(紅葉)に邪念を向けている。興味を持った伊原木は、廻りに誰もいないことを確認してから、茨城童子に姿を変え、更に闇霧化をして窓から飛び出し、喜田の乗る高級車を追う。


 紅葉と亜美は、美希&優花と分かれて文架大橋を渡る。その30mほど後方を高級車が低速で走り、さらに闇霧化した茨城童子が50m上空を飛ぶ。


「んぇ?・・・なに?」


 纏わり付く視線を感じた紅葉が、自転車を止めて背後を振り返った。直ぐ後ろを、高級車が走っている。


「学校にいたやつ?」


 運転手の茂面は焦るが、「紅葉に合わせて停止」をしたら尾行に気付かれるので、スピードを上げて紅葉と亜美を追い越す。橋を渡るのは間違いないのだから、東詰で待って尾行を継続すれば良い。



-上空-


「あの小娘・・・邪な視線に気付いたのか?」


 空中で様子を見ている茨城童子(闇霧)は、今の出来事に疑問を感じた。念を感知できる人間は、かなり霊感が高い部類になる。優麗高で霊感の高い者は全て把握をしている。尾行されている娘と共にいる者(亜美)の霊感の高さは、認識済み。しかし、尾行されている娘(紅葉)の霊感の高さは、初めて知った。


「あの娘・・・何故、私の感知力を擦り抜けた?」


 理由は、茨城童子の干渉下では、紅葉の本能が防御を働かせて、紅葉の能力を抑えていた為。そして、紅葉の持つ御守りが、紅葉の能力が外部に漏れ出すことを防いでいた為。




-地上-


「ん~~~・・・あの車、なんだろ?」


 紅葉が橋を渡り終えると、橋で妙な視線を発していた高級車が、東詰のコンビニ駐車場に駐まっていた。


「お金持ちのお嬢様のお迎え?

 それとも、もっとチガウなんかがある?」


 紅葉は、直感的な違和感を持つと同時に、興味に駆られ、自転車にブレーキを掛けて停止させる。少し前を走っていた亜美もつられて自転車を止めた。


「どうしたの、クレハ?学校に忘れ物?」

「ねぇ、アミ。

 もし、ァタシが、あの車(高級車)に襲われたら、

 燕真か粉木の爺ちゃんに連絡してね。」

「・・・はぁ?」

「お嬢様なのか、ヤベーヤツなのか確かめてくるっ!

 アミゎ遠くで見ていてっ!」

「ちょっ、クレハっ!?」


 紅葉は単身でコンビニに向かい、高級車の中をガン見しつつ、自転車を止めて店内へ。車内には、オッサン3人しか乗っておらず、紅葉のガン見に対して、露骨に目を逸らしていた。コンビニ内に、優麗高の制服を着た人は誰もいないので、お坊ちゃんやお嬢様のお迎えに来て、コンビニで買い物をしているわけでもなさそうだ。「ヤベーヤツ」の可能性が高くなってきた。

 鞄からスマホを引っ張り出して、位置情報をONにして胸ポケットに入れ、コンビニを出る。


「あのぉ~・・・チョット、イイですかぁ~?」


 駐車中の高級車に接近して、窓を軽く叩いたみた。

 紅葉の一連の行動に対して搭乗者達は驚く。突然、可愛い子に声を掛けられたから驚いたワケではない。紅葉を尾行する為に、コンビニ駐車場に待機をして同行を確認していたのに、本人から寄ってきたのだ。運転席の茂面と助手席の日部は狼狽えながら、後部座席の喜田を見る。ここで、適当な理由付けをして誤魔化したら、以降の尾行、及び、接触は難しくなってしまう。


「夜野里夢から『妙に勘の良い娘』と聞いていたが、予想以上だな。」


 喜田は、数秒の思考の後、部下達に「ここで決行する」と目で合図をして、できるだけ柔やかな表情を作って車の外に出た。紅葉は、背後に立つ部下2人に警戒しつつ、正面の喜田を見詰める。


「どうして、我々が君に用があるって気付いたんだい?」

「だって・・・学校からずっと、ァタシの近くをウロチョロしてるんだもん。」

「気付いていたのか?」

「ぅん、なんとなく。オヂサンたち、怪しい人ですか?」

「私は怪しい者ではないよ。

 君、源川紅葉さんだね。」

「何で、ァタシの名前を知ってるの?」


 喜田は、ポケットから名詞を出しながら答える。


「私の名は、喜田御弥司。怪士対策陰陽道組織・・・通称・退治屋のCEOだ。」


 紅葉が受け取った名刺には、自己紹介通りの役職と名前が表示されている。


「君の事は、粉木勘平くんから詳しく聞いていてね。」

「爺ちゃんから?」

「私は、君を退治屋にスカウトする為に会いに来たのだよ。」

「んぇぇっ!?マヂでっっ!!!?」


 紅葉は「自分に退治屋の才能が有る」と自負しており、将来は退治屋への就職を希望している。だから、才能を認められるのは、とても嬉しい。

 だけど、紅葉の希望は「粉木に弟子入りをして、燕真とセットで文架の退治屋になること」なので本部からのスカウトには興味が無い。

 それに、根古佑芽の一件で、夜野里夢と退治屋のトップが裏で手を握っていると聞いている。つまり、目の前の男は信用できない。


「妖幻ファイター・・・知っているのだろう?」

「知ってるけど・・・それが、ど~したんですか?」

「君にも、妖幻システムを提供したいんだ。」

「えぇっ?くれるの??」


 喜田御弥司のことは信用していない・・・が、妖幻システムは欲しい。妖幻ファイターに変身できるようになれば、佑芽よりも活躍をする自信はある。きっと、燕真に「凄い」と褒めてもらえる。

 一方の喜田は、露骨に警戒をしていた紅葉が、話しに興味を持ち始めた手応えを感じていた。


「ただし、ここでは渡せない。」

「んぇ?」

「正確に言えば、ブランクの妖幻システムならば、ここで渡せるが、

 戦力として使う為には、妖怪を封印する儀式が必要でね。

 その儀式が、ここではできないんだ。」


 要は「車で何処かに連れて行く」ということだ。妖幻システムは欲しいが、紅葉は、餌に釣られて見知らぬ車に乗るほど愚かではない。


「燕真や、粉木の爺ちゃんは一緒ぢゃないんですか?」

「同席はしない。彼等は忙しいだろうからね。」

「ふぅ~ん・・・そっか。」


 断って逃げるのが正解。囲まれているが、それなりに修羅場は潜り抜けているので、「正面のオッサンを体当たりで怯ませて逃走」をする自信は有る。だが、それでは、「喜田って名前の怪しいオッサンに誘われたけど逃げた」で話が終わってしまう。コイツ等が「ヤノリムの結託して悪いことをしている」って証拠は掴めない。


「ワカッタ・・・オヂサン達と一緒に行けば良いんだね。」


 最近は、妖怪討伐では佑芽に、ミュージアムでは麻由に、活躍の場を奪われつつある。彼女達には真似をできない活躍をして、燕真に「紅葉が1番スゴい」と再評価をして欲しい。その為には、火中の栗を拾いに行くべし。


(アミ・・・燕真達に、連絡お願いね。)


 紅葉は、離れた場所で隠れて様子を見ている亜美の方をチラ見してから、高級車の後部座席に乗り込んだ。喜田は、「思い掛けずに転がり込んできてくれた獲物」の愚かさに微笑を浮かべる。


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