表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/131

Ⅲ-5・大嶽丸交戦~愛の念

-百貨店の屋上-


 有紀と酒呑童子が驚いた表情で見つめ合う。


「い、今のイメージはなに?武者が鬼の姫を?」

「有紀にも見えたのか?おそらく、腹にある物の記憶だ。

 心が通じ合った俺達に、浄化をされた塊が反応を示したんだ。」

紅葉もみじ姫と言ったわね。」


「そう言えば、俺が大江山を支配していた頃、人間に入れあげていた鬼女がいたな。

 当時は、随分とおかしなヤツだと思っていた。」

「人として生きたかったけど、受け入れられずに討伐されてしまった姫。

 彼女が復讐を望んでいたら、大江山を支配していたアナタを頼ったわよね?」

「あぁ、同族に頼られれば、間違いなく庇護をしただろう。」

「でも、紅葉もみじは、言われるがまま戸隠に流された。

 都を追われてもなお、鬼ではなく人として生きることを望んだのね。」

「だが、彼女は妖怪として討伐をされた。」

「だけど、人間として生まれることを望んでいる。」


 自分の腹をさする酒呑。腹の中の塊は、今は温和しくしている。


  『再びこの世に出でる事があるならば、源氏の家系に産まれよ!

   我が血統が妖怪の邪気を抑え、人として生きる望みを叶える。』


 現代において、源川有紀の中で源氏の血が強く覚醒をしている。有紀の体内に宿り、人間として生まれ、今度こそ人として生きる。それが、紅葉の願い。

 酒呑が監禁翌日に有紀に「俺の子を産め!俺に腹にあるこれは、おまえの腹に移り、この世に出る!」と無礼なことを言ったが間違いではなかった。


 条件は揃っている。だが、すんなりと紅葉の目的を叶えられるほど、簡単な話ではない。状況を理解した有紀は黙って俯き、その場から立ち去っていく。見送る酒呑は、有紀に声を掛けることができなかった。


「なぁ、紅葉もみじ

 人間とは厄介な生き物で、『愛』というものの無い契りはできないのだ。

 有紀ではなく、他の雌妖怪の腹になら仕込んでやることができるが・・・」


 酒呑は、自分の腹をさすりながら腹の中にある紅葉に語りかける。


〈ワラワゎ人間に生まれ変わりたいのぢゃ!〉


 腹の中にある紅葉が、酒呑の腹を内側から思いっ切りブン殴った!


「うぐぅぅはぁぁぁっっっっっっっ!!!」


 腹の内側なんて誰だって無防備。鍛えようのない柔らかい部分を殴られた酒呑は、その場に蹲った。酒呑の申し出が気に入らなかったらしい。紅葉もみじは、妖怪の血を抑えてくれる有紀(源氏の血筋)から生まれたいのだ。




-鎮守の森公園-


 有紀が早足で駆けていく。あからさまに困惑をしている。酒呑と契って、体内で紅葉を受け取り、生命を与えて産む。源氏の子孫だから紅葉を産まなければならない?冗談ではない。

 有紀自身、徐々に酒呑に惹かれていることは気付いている。だけど、これでは、好いているから契るのか、紅葉の希望を叶える為に契るのか、解らなくなる。酒呑はどう思っているのだろうか?鬼族の発展の為に有紀を‘産む道具’と扱って抱くつもり?


「そこの女!」

「・・・・・!!!?」


 背後から声を掛けられて立ち止まる有紀。公園に来てからは誰とも擦れ違わなかったはず。動揺しすぎていて、擦れ違った気配に気付けなかった?


「・・・違う!人じゃない!」


 振り返ったら揺らめく影が立っていた。有紀は‘人非ざる者’に呼び止められたことを確信する。


〈有紀、オマエの手に負える相手ではない。〉


 一陣の冷風が流れ、氷柱女の声が有紀に呼び掛ける。


〈酒呑童子と同格の妖気だ!〉


 揺らいでいる影達が、徐々に実体化をしていく。


「オマエからは、酒呑童子の臭いを感じる。奴は何処にいる?」


 それは3mほどの巨躯で、漆黒の肌をして、額に巨大な角を生やしている。


「退治屋共にヤツを討たせる為に、アジトを教えてやったのだがな。

 無様にも討ち洩らしおった。つくづく使えぬ連中だ。」


 最上級妖怪・鬼神大嶽丸が出現をした!


「いや・・・我が宿敵を、人間如きに任せた俺の考えが甘かったと言うべきか?」

「・・・くっ!」


 大嶽丸の攻撃的な妖気を当てられているだけでも、体力を奪われる。人間の姿のまま相対するのは拙い。有紀は、Yケータイを取り出して翳した!妖幻ファイターハーゲン登場!


「コイツを崇さんに会わせるわけにはいかないっ!


 崇(酒呑童子)は、大半の妖気を失っている。人間界で生きることを望んでくれた崇を失いたくない!妖刀を構えて、大嶽丸に突進をする!


「はぁぁぁっっっっっっ!!!」


 だが、次の瞬間には、大嶽丸の爪がハーゲンの腹を貫いていた!


「がはぁぁぁっっっ!!!」


 酒呑童子と同等の戦闘能力を持つ鬼神・大嶽丸が相手では、いくら才能の有るハーゲンでも、どうにもならなかった。

 力無く地面に両膝を落として俯せに倒れる。変身が強制解除をされて、有紀の姿に戻ってしまった。


「おいおい、まさか、もう死ぬのではあるまいな?

 脆すぎるぞ人間。酒呑童子の居所を教えてから死ね。」


 動けなくなった有紀に手を伸ばす大嶽丸!


「汚れた手で触れるなっ!!」


 上空から闇霧が急降下をして、大嶽丸と倒れている有紀の間に着地!崇(酒呑童子)の姿を形作る!


「ん?何だオマエは!?」

「俺の気配を解らないとは言わせぬぞ!」

「フン!解らぬなぁ!・・・過去の我が宿敵よ!」


 大嶽丸は、対峙した瞬間に勝利を確信して愉悦の笑みを浮かべる!


「あまりにも脆弱すぎて、オマエが酒呑童子とは思えぬ!

 オマエは奴の残りカスだ!」


 掌から衝撃波を放つ大嶽丸!崇は、両腕を交差させて妖気防壁を発しながら背後をチラ見する!


「有紀っ!」


 数歩後退をしながら全身を闇霧化させ、倒れている有紀を包み込んで大きく退避!


「なに?逃げた!?」


 大嶽丸は、プライドの高い酒呑童子(崇)がいきなり逃げるとは想定していなかった。数秒ほど棒立ちで眺めてから、闇霧化をして追う。




-公園入口-


 低空を飛ぶ闇霧が着地をして、有紀を抱えた崇が出現。有紀は虚ろな目で崇を見詰める。


「・・・崇さん。」

「大丈夫。重傷だが致命傷ではない。手当をすれば動けるようになる。

 此処ならば、誰かが君を見付けてくれるはずだ。」


 交通量は少ないが、数分のうちに有紀は誰かに保護をされて、病院に運ばれるだろう。

 歩道に有紀を寝かせた崇は、公園内を睨み付けた。強大な妖気が接近してくるのが解る。


「慌てずとも、相手をしてやるさ!」


 崇の表情に怒りに変わり、全身から妖気が上がり、みるみる肥大化をして、酒呑童子の姿に変化!闇霧に姿を変えて飛び立つ!


「・・・だ、だめ・・・崇さん。」


 有紀が、薄らと目を開けて上空の酒呑童子を見つめ、小声で呟く。彼は怒りと憎悪を糧にして戦いに赴いた。妖怪ならば、負の感情を力に変えるのは一般的だが、有紀は、そんな酒呑を望んでいない。徐々に人間に近い穏やかな感情が芽生え始めているのに、これでは生粋の妖怪に立ち戻ってしまう。酒呑を止めなければならない。




-公園内-


「大嶽丸っ!」

「酒呑童子っ!」


 猛スピードで接近する二つの闇霧が、酒呑と大嶽丸の姿に変わって激突!力負けをした酒呑が弾き飛ばされ、体勢を立て直しながら地面に着地をする!


「先ほどの腑抜けた姿よりは幾分かはマシになったが、

 それでも本調子には程遠いようだな!

 俺の手引きで、退治屋共の奇襲を受けて、無様に負けたのだから当然か!?」

「やはり・・・貴様が隠れ里の情報を!!?」

「フン!それがどうした!?」


 大嶽丸が召喚した大槌を振り上げながら突進!素早く後方に引いて回避する酒呑!軽々と大槌を打ち上げる大嶽丸!酒呑は召喚した大太刀を盾代わりにして防ぐが、力負けをして弾き飛ばされた!


「うわぁぁっっっ!!」


 大嶽丸が大槌を振り上げて追い撃ちをかける!酒呑童子は、体を闇霧化して大きく後退!空振りをした大槌が地面に打ち込まれ、大きく抉られる!30mほど離れた場所で、闇霧が酒呑の姿に戻って構えた!


「お粗末だな。本調子の2割程度か?」

「2割もあれば、貴様を倒すに充分すぎる!」


 大嶽丸の分析は正確だった。実際に、酒呑童子は鬼の首領として恐れられた頃の2割程度しか戦闘力を発揮できない。だがそれでも、この戦いから逃げる気は無い。大太刀を構え、雄叫びを上げ、大嶽丸に向かって突進をする!


「がっはっは!強がるな、古き友よ!」


 大嶽丸が片掌を広げて莫大な妖気を放った!無数の闇弾が発生して、酒呑童子に襲いかかる!妖気障壁を発生させて、闇弾を防ぐ酒呑童子!しかし、最初の数発は防げたものの、貫通され酒呑の体に突き刺さる!


「ぐはぁぁっっ!!」


 地に片膝を付く酒呑。大嶽丸は、片手で大槌を握って肩で担ぎ、もう片掌を翳し、次の攻撃の為の妖気を充填する。


「臨!兵!闘!者!皆!陣!烈!在!前!・・・はぁぁぁぁっっっっ!!!」


 大嶽丸の背後に、妖刀を振り上げたハーゲンが出現!九字護身法を唱え、大嶽丸の背中に渾身の袈裟斬りを叩き込んだ!


「ぐぅはぁぁっっっっっっっっっっ!!!」


 下級妖怪とは違って、一太刀で清められることはないが、妖気祓いの直撃を受けた大嶽丸は大きくダメージを受け、掌に溜め込んでいた妖気を散らす!


「人間如きがっ!」


 大槌を力一杯振り回す大嶽丸!ハーゲンは、一切防御をできずに直撃を喰らって弾き飛ばされる!


「きゃぁぁぁぁっっっっっ!!!」

「有紀っ!!」


 酒呑は、体を闇霧化させてハーゲンの後ろに回り込んで受け止め、実体化をして抱きかかえる。


「有紀・・・何故来たんだ?」

「き・・・決まっているでしょ。私は退治屋よ。

 文架市の平穏を乱す妖怪を・・・

 文架市での平穏を望んでくれた崇さんの邪魔をする大嶽丸を・・・

 討伐するのが私の責務なの。」

「有紀っ!!」


 ハーゲンの変身が強制解除をされる。有紀の腹からは、大量の血が流れ出している。顔面蒼白で生気が無い。致命傷を負ったにもかかわらず、無理をして戦った有紀の生命には限界が来ていた。


「崇さん・・・アナタは1人じゃない。

 きっと・・・勝てる。」


 有紀は、震える手で酒呑童子の腹に触れる。有紀の眼には、酒呑の腹にある物が、有紀と酒呑の望んだ希望の光に見える。


「・・・有紀。」


 有紀の全身から光が発せられ、有紀の手を通して、酒呑の腹に流れ込んでくる。途端に、酒呑の力が回復をしていく。


「これは一体っ?」


 酒呑に力を与えるにも関わらず、有紀の生命力を奪っているワケではない。妖怪が好んで食す‘負の感情’とも違う。酒呑には理解のできない力の根源が、酒呑を回復させていく。


〈愛だよ。有紀の愛とオヌシの愛が繋がったの。〉

「・・・あい?」

〈人間にゎね。妖怪ゎ持っていない‘奇跡’を起こす力が有るの。〉

「・・・きせき?」


 腹にある物が教えてくれる。酒呑には理解ができないが、酒呑が有紀に対して感じる特別な気持ちは、これまで蹂躙してきた人間への侮蔑や、戦ってきた敵への闘志や、貴族の女を力任せに手に入れたい邪とは全く違う。


「この力が有れば・・・憎しみや争いではなく・・・

 どちらが優れているかを比べるのではなく・・・妖怪と人間は並び立てる!」


 酒呑の全身の傷が塞がっていく!


「なにっ!?」


 驚いて数歩退く大嶽丸。全盛期の2割しか戦闘力を発揮できなかったはずの酒呑童子に、妖気が漲っていく!


「愛と奇跡!貴様には理解できまい!!

 うおぉぉぉぉっっっっっっっっっっっ!!!!」


 大太刀を構え、突進をする酒呑童子!


「その様なワケの解らぬ力など、ただのまやかしだ!!」


 大槌を構える大嶽丸!大太刀と大槌がぶつかり、2つの激しい妖気が絡み合って、2体の妖怪の周りにある土が吹き飛び、直径20mほどのクレーターを作った!


「ぐぉぉぉっ!!バカなっっ!!!」

「有紀の渾身の一撃で妖気を削られた貴様と、

 愛という念によって完全回復をした俺!

 どちらが勝るかは明白だ!!」


 酒呑の放つ妖気が鬼力(超攻撃的な妖力)に変化!握る大太刀から研ぎ澄まされた鬼力が発せられて、大嶽丸の大槌を切断!そのままの勢いで、大嶽丸を叩き切った!


「じょ・・・冗談ではない!」


 袈裟斬りを喰らった大嶽丸は闇霧化をして逃れ、酒呑から離れた安全圏で再び実体化をする。左肩から体の斜め半分を失った。このまま戦っても敗北は必至だ。


「な・・・なにが『あい』の力だ。

 そんなワケの解らん力に頼ったオマエには、無様な自壊しか残されていない。」


 大嶽丸は、酒呑を睨み付けて呪いの言葉を吐き捨て、再び闇霧化をしてその場から姿を消す。

 周辺を支配していた禍々しい妖気が完全に消えた。一時的に身を隠したのではなく、完全に撤退をしたようだ。


「有紀っ!!」


 酒呑は、憎き仇敵を追うことよりも、愛する者を気遣うことを選んでいた。酒呑の内面の変化が。そうさせていた。

 駆け寄って有紀を抱きしめるが、もう目を開く体力すら無い。酒呑が懸命に有紀の名を呼ぶが、有紀には、とても遠くに聞こえる。


 人は、この世に生まれて短い人生の中で、何かを成そうとする。

 有紀は、僅か二十数年の人生で何を成した?彼女の役割は、きっと、鬼の首領・酒呑童子を人間界に導くことだったのだろう。何処まで成し遂げられたのかは解らない。彼は、人間界で学んだことを活かしてくれるのだろうか?可能ならば寄り添って見守りたかったけど、残念ながらできそうにない。だから、あとは、酒呑童子の腹にある物に託す。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ