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32-1・暴れる霊~雅仁の魔力感知~里夢へのアポ

※第32話~第34話は本作の簡易版となる『妖幻ファイター』ではカットしたストーリーになります。

 川東郊外で雅仁がバイクを駆る。


「・・・ん?」


 妖気とは別の‘漠然とした違和感’を感じた雅仁は、バイクを路肩に停めて、違和感の方角を眺める。


「やはり・・・何かを感じる」


確信してバイクをスタートさせ、進行方向を変える。


「あれは?どうなっているんだ?」


 墓地で数体の霊が暴れている。恨みを持った霊が暴れるなら解るが、墓地で穏やかに眠る霊が暴れるなんて聞いたことが無い。住職の管理が行き届いていない、もしくは、住職が無能すぎて、霊が不満を持っているのだろうか?


「放置もできまい。」


 霊の攻撃的な念が妖怪を呼び寄せる可能性がある。それに、気になる雰囲気を霊達から感じる。


「オーン!鎮魂!!」


 護符を取り出して手で呪印を結び、霊に向かって飛ばすと、霊達はアッサリと浄化をされて消えた。


「一体、何が起きているんだ?」


 しばらく眺めるが、静寂が戻った墓地からは、特に異常は感じられないので、再度振り返って確認した後、その場から去って行く。

 墓地から少し離れた中層ビルの上では、塔屋の影に身を隠した里夢と佑芽が、一連の成り行きを観察していた。


「・・・狗塚さん。」

「あら、知り合い?」

「はい、亡くなった姉と同期だったので。」


 狗塚雅仁と、佑芽の姉・根古礼奈は同時期に退治屋の本部で陰陽を学んでいた。特に仲が良かったわけではないが、同時期の就学者では、雅仁が突出しており、二番手が礼奈だった。才能と名門の両面で、雅仁は同期内で注目される存在だったらしい。

 佑芽は、姉の就学を眺めに行った時に雅仁と挨拶をした程度の関係なので、雅仁が佑芽を認識していたがどうかすら知らない。


「あら、そうなの?任務中だから、会わせてあげられなくて申し訳ないわね。」


 里夢は、表面的な言葉で気遣う素振りを見せながら、去って行く雅仁を眺める。


「佑芽さんから見て、今の彼の行動はどう見えたかしら?」

「狗塚さんが、ただの霊を抑える為に、ここに来るなんて思いませんでした。」

「どうして、そう思ったのかしら?」

「退治屋は基本的には‘ありふれた霊’なんて放置します。

 ただの霊を鎮めても、一切、評価に繋がりませんからね。

 鬼討伐専門の狗塚さんなら、尚更です。」

「なるほど、特殊な霊の気配に気付くなんて、

 流石は名門の血統と解釈した方が良さそうね。」

「どういうことですか?」

「確証は無いけど・・・彼は、霊力ではなく、魔力を感知した。

 だから、放置をせずに、鎮魂に訪れた可能性があるってことよ。」


 今回は、魔力で霊と契約を結び、命令権を獲得して霊の意思に関係無く暴れさせた。実験は成功。ただし、この成功に関しては、霊よりも扱いにくい悪魔との契約をできる里夢からすれば通過儀礼であり、最初から成功をする確信はあった。大切なのは、むしろ「霊との契約が可能」と言う事実を、佑芽に意識させることにある。




-十数分後・YOUKAIミュージアム-


 雅仁が到着すると、カウンター内に紅葉がいて、葛城麻由がテーブル席で勉強をしていた。階段から2階を覗き込むと、燕真が訪問者のいない博物館の受付をしている。


「葛城さん。申し訳ないが、しばらく店番を頼んでも良いだろうか?」

「はい、構いませんよ。」


 麻由は、「粉木の手助けをしたい」という奇特な趣味(?)の持ち主で、繁忙期や、妖怪事件発生した場合は、店の仕事を手伝ってくれる(もちろん、駄賃は払う)。

 雅仁が事務室の扉をノックすると、粉木が「入れ」の声が聞こえた。


「紅葉ちゃん、佐波木、ちょっと来てくれ。」

「んぇ?ど~したの?」 「なんだなんだ?」


 雅仁は、燕真と紅葉を呼んで事務室に入り、たった今、体験をしたことを説明する。


「魔力を持った霊が暴れていたやと?」

「はい、俺自身の魔力感知が曖昧なので、確証はありませんが。」


 雅仁の説明には、確かに違和感がある。「気のせい」で処理をすることも可能だが、霊や妖気に対する正確な感知力を持つ雅仁が、「曖昧な何かを感じた」というのが興味深い。


「なぁ、狗?オマエって、魔力の感知なんてできたっけ?」

「紅葉ちゃんとは違って、まだ、正確性には欠けるがな。」

「前は、全然感知できなかったじゃん。」

「いつまでも、紅葉ちゃん頼みというわけにはいかないから、

 それなりに、魔力を見るスキルを学んだのさ。」

「マジで?大魔会離反者との争いから2ヶ月しか経ってないんだぞ。

 たった2ヶ月でできるようになったのかよ?」

「2ヶ月あれば、それなりのことはできるさ。

 産まれたての赤ん坊だって、2ヶ月あれば歩くだろうに。」

「オマエの才能はスゲーんだけど、常識面の知識は、もう少し何とかしろ。

 生後2ヶ月の赤ん坊は歩かねーぞ。」

「目の前にあるけど見えへん物を‘見る練習’ならともかく、

 魔力なんて、日常的には、どこにもあれへんやろ。

 そんなもんを、どないして‘見る練習’してん?」

「紅葉ちゃんと、葛城さんに協力をしてもらいました。」

「どうやって?」

「学校に、ナマコのオバサン(里夢の使い魔)が来てる時に、教えてあげたの。」


 有能な雅仁でも、無い物を見る訓練はできない。だから、魔力を感知できる紅葉と麻由に依頼をして、大魔会の使い魔が学校に来ている時に連絡を貰い、時間に余裕がある時は、校内を眺めて使い魔を探す練習をしていたのだ。


「最初は、ただの動物にしか見えなかったのだがな。

 やがて、使い魔の場合は、魔力に覆われているのが感知できるようになった。」

「オマエの努力は認めるんだけど、常識面の配慮は、もう少し何とかしろ。

 暇さえあれば、一日中、高校を眺めていたら、そのうち不審人物扱いされるぞ。」


 見る手段が解れば、常にアンテナを張れるようになる。その結果、先程の墓地で、妖力とは別の干渉力を感知して「霊が暴れている」という異常に気付けたのだ。

 雅仁の感知力を信用すると、「何故、霊は暴れていたのか?」と「何故、霊は魔力干渉を受けていたのか?」の、新たな疑問が湧いてくる。


「魔力が作用して暴れてたと考えるべきやな。」

「つまり、誰が、どんな目的で・・・ということになります。」

「『誰が』ゎナマコオバサン、『目的』ゎ悪いことをする為に決まってるぢゃん!」

「ナマコって、夜野里夢のことかいな?」


 大魔会離反者の討伐以降、里夢との接触は無い。だが、里夢が事後処理の為に文架市に留まっていることを、粉木は把握している。


「オマエ、前から里夢さんのことを嫌ってるよな?

 何でそんなに目の仇にしてんだよ?」

「そんなの、アイツの性格が悪いからに決まってるぢゃん!

 あんなイヤな奴のこと、リムサンとか言うな!」

「里夢さんが、オマエになんか嫌がらせでもしたのか?」

「してない!でも、絶対イヤなヤツ!オンナのカンでワカルもん!

 きっと、何か悪いことして、燕真や爺ちゃんを困らせようとしてるんだよ!」

「・・・・・・・・・・・・・・」×3


 紅葉の直感には、これまで何度も助けられている。だが、さすがに、「生理的に里夢を嫌っている」的な雑な感情だけで、里夢を疑えない。


「粉木の爺ちゃんのことが大っ嫌いだったカミナリヤロー(ブロント)とか、

 麻由の熱血爺ちゃんのホンジョー(アポロ)とか、お墓で霊が暴れるとか、

 アイツが来てから、ヨーカイとは違う変なことばっかり起きてるぢゃん!」


 妖怪事件とは関係無く、「死者が、実体と戦闘力を得て攻撃を仕掛けてきた事件」が立て続けに発生したと考えると、違和感だらけになる。


「のう、お嬢。この店も、使い魔に見張られておるんか?」

「ぅん、いるよ。気付いて欲しくないみたいで離れて見てるけどね。」


 里夢が、退治屋に知られないようにして、何らかの情報収集を続けているのは間違いなさそうだ。


「あまり絡みとうはあれへんけど、一度、里夢を呼び出してみるべきかいの?」

「そ~だ、そ~だ!呼び出してフルボッコだぁ!」

「いやいや、何の確証も無いのに、いきなり袋叩きにはできねーよ。」

「だったら、悪いことしてないか聞いてからボコればイイぢゃん!

 あの顔ゎ絶対に悪いことやってる顔だもん!」

「皆が、紅葉ちゃんのように素直なら良いのだがね。

 悪意を尋ねて、素直に認める者などいないよ。」

「文架市で起きている事に対する意見を聞いて、里夢の反応を見るんや。」


 呼び出しても、直ぐに里夢が訪れることは無いだろう。一時解散をして燕真は2階の受付に、紅葉と雅仁は喫茶店に戻り、粉木はスマホで里夢に連絡を入れる。




-文架市西の国道-


 里夢が運転をして、助手席に佑芽が乗るレンタカーの中で、里夢のスマホが着信を鳴らす。車を路肩に寄せて画面を確認すると、発信者は粉木勘平。里夢や、やや面倒臭そうな表情で小さく舌打ちをするが、愛想の良い声を作ってから通話に応じる。


「あら、粉木さん。お久しぶりです。急にどうしたのですか?」

〈ちぃとばっかり、オマンの知恵を借ったくてな。

 時間が有る時に、こっち(YOUKAIミュージアム)に顔を出せるか?

 コーヒーと軽食くらい馳走したるで。〉

「今、出先なので、後ほど時間が空いたら、こちらから折り返しますね。」

〈おう、頼む。〉


 里夢は通話を切って、再び小さく舌打ちをする。案の定、先程の墓地の騒ぎをキッカケにして、文架の退治屋が動き出した。


「どうしたんですか。夜野さん?」

「文架の退治屋さんは、優秀ってことよ。煩わしいほどにね。」


 会って話しても魂胆を見破られない自信はあるが、YOUKAIミュージアムに赴くのは好ましくない。最近になって店に出入りをしている麻由とは、アポロ事件の時に顔を合わせているので、接触をして何らかの疑いを掛けられるリスクは避けたい。


(場合によっては、トカゲの尻尾切りが必要になるわね。)


 里夢は、佑芽の顔を見て穏やかに微笑み、再び車を走らせ、佑芽が宿泊をしているウィークリーマンション前で停車をする。


「お疲れ様。今日はこれで終わりよ。」

「え?まだ実験をするのでは?」

「そのつもりだったけど、予定を変更するわ。」


 あと2~3ヶ所は慰霊地を訪れて霊を支配して暴走させる予定だったが、粉木との通話を経た里夢は、文架の退治屋が調査に動き出すことを警戒して中止を決めた。

 佑芽を宿泊場所に降ろし、里夢の運転する車が離れる。





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