29-2・上履と葛城麻由~冨久海跳~NC750X
-YOUKAIミュージアム-
紅葉から「先生か生徒会長が妖怪に憑かれてるっぽい」とLINEメッセージを受け取った燕真は、粉木に報告をしたが、妖気センサーの履歴を確認しても反応は確認できなかった。
「紅葉の気のせいってことか?」
「妖気の発生が一瞬やったらか、センサーで拾えんかったのかもしれん。
先生って、どの先生や?」
「知らん。」
「生徒会長って誰や?」
「聞いたことない。」
「なら聞けや。」
「授業が始まったらしくて、電源が切ってある。」
「ちゃんとせいや、燕真。」
「俺の所為じゃねーだろうが。」
「オマンの所為や。お嬢の管理者はオマンやろ。
念の為に、お嬢の学校を廻ってこい。」
「俺1人で?狗は?」
「狗塚は、自分にミッションを課して、土蔵に隠っとる。
暇人はオマンだけや。」
大魔会離反者との交戦以降、雅仁は魔力への干渉力を得る為に、土蔵に隠る機会が増えた。喫茶店の仕事どころか、妖怪事件が発生しても下級クラスだと、燕真に任せっぱなしで出動すらせず、たまに紅葉に怒鳴りつけられている。
喫茶店の仕事は、平日の午前中は客が少ない。燕真は、「行っても意味が無いだろうな」と思いつつ、優麗高周辺のパトロールに出動をした。
「・・・ったく!仕方ねーな!」
面倒臭そうな態度の燕真だが、内心では出動が嬉しい。
理由は、駐車場に駐めてあるバイク。愛車が、中古のお下がりから、新品に変わっている。妖怪退治課主任(妖幻ファイター)に標準配備されるバイクが、ホンダ・VFR1200Fから、ホンダ・NC750Xに変更された。予算の都合で、一度に全部の変更は不可能であり、基本的に都心優先で地方は後回しなのだが、粉木が少し無理をして(砂影に援護射撃を頼んで)、鬼討伐&ブロント打倒の実績を本部に推して、文架支部への配備を早めてくれたのだ。
狗塚雅仁や、猿飛空吾(故人)などのエースクラスになると希望のバイクを支給してもらえるが、燕真の実績では当分先。
「欲を言えば、変な装備品は、取っ払って欲しかったんだけどな。」
相変わらず、西陣織のカバーを貼ったシートと、彼岸花を描いた九谷焼のサイドカバーでカスタマイズしてある。この仕様は、他の妖幻ファイターが搭乗するバイクには無い燕真だけの特注品だ。不満だが、霊力ゼロの燕真をサポートする為の‘粉木の親心’なので、文句は言いにくい。
燕真は、新たなる愛車に乗り、エンジンを高々と響かせてYOUKAIミュージアム駐車場から飛び出していく。
-優麗高-
2限目終了後の休み時間、体育の授業を終えた葛城麻由が、校舎に向かって歩きながら校庭の大木を見詰めた。枝に止まっているカラスが少し気になる。普段ならば特に気にしないのだが、ここ数日間はカラスに注目されているように思えて落ち着かない。
「こんにゃろー!あっち行け、おばさんカラスっっ!!」
「ク、クレハ!ちょっとっ!!」
怒鳴り声が聞こえて、2階の窓から木の枝のカラスに向かって内履きが投擲された。内履きは木の枝に当たってカラスを追い散らし、麻由の目の前に落ちる。驚いた麻由が視線を上げると、2年B組の窓から紅葉が顔を出して怒鳴り、背後から亜美に止められている。麻由は、しばらく紅葉達を眺めたあと、内履きを拾い上げて、再び2Bの窓を見上げた。
「これ、アナタの内履きかしら?」
「あっ、A組の葛城さん!
それ、この子(紅葉)の内履きです。」
「もしかして、当たっちゃった?」
「些か驚きましたが当たってはいません。」
「驚かせちゃってごめんなさい。」 「ゴメ~ン!」
「靴、取りに行きなよ。」
「え~~~ァタシが?」
「片足、靴が無いままで良いなら構わないけど。」
「ん~~~・・・取りに行ってくる。」
紅葉が取りに来る素振りを見せたので、麻由は苦笑をして、「途中まで持って行って渡そう」と、内履きを持って生徒玄関へと向かう。
その光景を、非常勤講師の伊原木が3階の多目的室から眺めていた。
「嫌な視線だな。対象は、あの娘(麻由)か?」
伊原木も、使い魔に監視されていることは気付いていた。しかし、わざわざ敵意を向けて相手から警戒をされる気は無い。悪魔の使いが何をするつもりなのか、高みの見物をする。
-鎮守の森公園近くのビジネスホテル-
里夢が、使い魔のカラスを通して、優麗高の様子を探っていたのだが、紅葉に追い払われてしまった。
「小娘・・・邪魔ね。オマエに用は無い。」
里夢は‘更なる調査’の為に、数週間前から優麗高に使い魔を放っているのだが、紅葉の所為で思い通りに進まない。
-優麗高-
3年生は、HRと今後の日程確認をして直ぐに解散となる。麻由が生徒玄関まで来たら、ちょうど、冨久海跳が帰るところだった。2人は、前年の生徒会で会長&副会長として協力をした関係だ。
「あら、冨久先輩。」
「おう、葛城か。」
「お帰りですか?」
「残っているのは、今後の方針を決める為に個人面談を希望した者だけ。
僕は、現時点では方針に変更が無いからな。」
「第1志望は、帝央大学(国内トップ)でしたっけ?合格できそうですか?」
「こればかりは終わってみないと解らんな。
だが、泣かずに済む為の努力はしているつもりだ。
君は来年、何処を志望するんだ?
君の学力ならば、帝央大学は不可能ではあるまい。」
「まだ、具体的には考えていません。」
「受験生の1年はあっという間だぞ。」
「まぁ・・・そうですね。」
「なぁ、葛城・・・。」
「・・・はい。」
海跳は、急に改まって麻由を見詰める。一方の麻由は、紅葉の内履きを持ったまま、「なんだろう?」と小さく首を傾げた。
「・・・んぉ?」
階段を降りてきた紅葉が、生徒玄関に立つ麻由と海跳を発見。これから、海跳の告白タイムになりそうな雰囲気だ。2人は「やがて交際する」と噂になったが、交際に発展することはなかった。だが、共に容姿端麗&学業優秀&スポーツ万能で、カリスマ性も高く、誰が見ても「お似合い」の御両人。お邪魔虫にならないように身を隠す。
「クレハ~!」
階段の上から、亜美の声と降りてくる足音が聞こえる。亜美の初恋相手は、同じ小中学校で1個上だった冨久海跳。「海跳の告白シーンを見せたくない」と考えた紅葉は、慌てて階段を駆け上がる。
「アミィ~~!!」
「クレハ、靴は?」
「3時間目が終わったら取りに行く。」
「なんで?今取りに行けば良いじゃん。」
「生徒玄関に野良犬がいた!怖くて通れない!」
「はぁ?」
亜美にしてみれば、「紅葉なら野良犬くらい、勇敢に追い払うか、平気で仲良くなりそう」なイメージ。何故、紅葉が生徒玄関に行くことを嫌がるのか解らないが、あまりにも力強く拒否をするので、渋々と2B教室へと戻る。
一方、生徒玄関の麻由と海跳には、階段での騒ぎが丸聞こえだった。
「・・・野良犬?どこに?」
「さぁ・・・解りません。」
「今の声は、2年の源川かな?」
「あら、ご存知なんですか?」
「同じ中学だ。あまり接点は無いが、彼女、中学の頃から有名人だったからな。
嫌でも印象には残るさ。」
海跳は告白をするつもりだったが、紅葉の所為でタイミングを逸してしまった。今は受験真っ只中。「余計なことに現を抜かす時ではない」「合格したら改めて」と気持ちを切り替える。
「次に学校に来るのは、第1志望の合格を報告する時・・・にしたいな。」
「頑張ってくださいね。」
「ありがとう。君も、1年後に泣かずに済むように、今から頑張れよ。」
「はい。」
挨拶をして別れ、麻由は2階の自分の教室へと向かう。結局、紅葉の内履きは、休み時間が終わる直前に、麻由が2B教室まで持ってきてくれた。
-夕方・YOUKAIミュージアム-
『大至急学校まで来て』
燕真のスマホに紅葉からのLINEメッセージが入った。朝一のメッセージを見てパトロールに行った時は、結局、何も異常を発見できなかったが、何らかの情報を掴んだのだろうか?
「ジジイ!ちょっと行ってくる!」
「おうっ!手に負えんかったら、連絡寄こせよ!」
妖気センサーの履歴では何も確認できない。だが、紅葉が何かに気付いた可能性や、妖気センサーでは感知できない魔力絡みの可能性も有る。燕真はホンダNC750Xを駆って優麗高へと向かう。
-十数分後・優麗高-
「・・・はぁ?もう一度言ってくれ。」
正門前に到着をして、駆け寄ってきた紅葉の言葉を聞いた燕真は、耳を疑った。
「お迎えゴクロー!
アミもミキもユーカも、一緒に帰れないんだよねぇ。
燕真がヒマで良かった~。バスか歩きで帰んなきゃだったんだよ。」
「緊急呼び出しの理由は?」
「1人で帰るの、なんか寂しーから。」
紅葉の言い分を丁寧に直訳すると、朝は積雪があったので、亜美と共に自転車ではなくバスで通学をした。放課後になり、亜美は委員会活動に呼ばれ、美希と優花は部活動中。紅葉は1人で、バス、または、徒歩で帰るのが寂しいので、燕真を呼び寄せた。・・・ということらしい。
確かに、紅葉からのメッセージは、「大至急学校まで来て」だけで、特に「妖怪出現」とか「悪魔強襲」とは書かれていない。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
出発前、粉木から「手に負えんかったら、連絡寄こせ」と言われたが、燕真は「コイツは手に負えない」とSOSをしたい気分になった。
「よしっ!帰ろうっ!」
紅葉は特に断りも無く、当たり前のようにタンデムに飛び乗る。こうして、新たなる愛車・ホンダNC750Xの初2人乗りは紅葉になってしまった。
「あっ!葛城さん、今日ゎアリガトねっ!」
紅葉は渡されたヘルメットを被ろうとしたら、葛城麻由が徒歩で正門を通過する。
「あら、源川さん。どういたしまして。」
「今日ゎ部活ゎ休みなの?」
「積雪の都合で、急きょ休みになりました。
そちらの方(燕真)はお兄様ですか?」
「ん?俺?」
「お兄様がお迎えに来て下さるなんて、仲の良い御兄妹ですね。」
「燕真ゎお兄ちゃんぢゃないで~す!」
「ボーイフレンド?」
異性との交際に現を抜かすなど、学業&部活動を優先させる麻由の価値観では義務の放棄。途端に表情が険しくなり、余所余所しく会釈をして、北の方向に足早に立ち去った。
「ありゃりゃ?怒らせちゃったかな?
ねぇ、燕真?ァタシ、なんか変なこと言った?」
「オマエが変なことを言うのはいつものことだろう。
美人だけど、ちょっと高飛車な感じの子だな。金持ちのお嬢様か?」
「ァタシよりカワイイ?」
「オマエより美人で大人っぽい。」
「ぶぅ~~~!」
どちらが「可愛いか?」に対する燕真なりの解答をすると図に乗りそうなので、あえて「可愛い」ではなく「大人っぽさ」で表現をする。紅葉自身、麻由の容姿が優れていることは認めているので、若干のヤキモチはあるが否定はできない。
「ん?」
正門北側の駐車場出入口から老教師の乗る車が出てきた。離れているのでハッキリとは解らないが、燕真には老教師が麻由を見ているように感じられる。
老教師は、生徒会顧問として、且つ、2年A組の教科を受け持っており、麻由との接点は多い。麻由は、祖父から大切に育てられた影響で、ややグランドファザコン気味の面があり、同世代間では生真面目すぎる緊張感が、老教師と接する時は解れて穏やかな表情を見せていた。その結果、老教師は「麻由に好かれている」と勘違いをして今に至る。
「そう言えば、今朝のメッセージは何だったんだ?」
「よくワカンナイ。
あの子(麻由)がセートカイチョーなんだけど、
あの子の近くで一瞬だけ妖気が発生して、直ぐ消えちゃったの。」
「彼女が憑かれているってことか?」
「よくワカンナイ。もうちょっと様子見る。」
燕真と紅葉は、老教師が邪な思いで麻由を見ていることなど気付いていない。2人は、しばらく、麻由の後ろ姿を見詰めた後、麻由とは反対側(南側)に向けてバイクをスタートさせた。




