25-4・ゴブリン戦~猿飛と里夢
-その頃-
雅仁は、文架市南東の明森町・土地開発区の廃ホテルで、生活の痕跡を発見していた。焚き火のあとと、複数個の弁当の空き容器、スナック菓子の空き袋、飲料水やアルコールの空き缶・・・付着している残り物からは、それが何ヶ月も前ではなく、つい数日中の痕跡と判断できる。
ここで生活をしているのが大魔会の離反者とは限らない。ただのホームレスかもしれない。しかし、弁当の空き容器にある賞味期限は、まだ新しい物もある。期限が切れて棄てられた物ではなく、金が無ければ手に入らない物だ。ホームレスによるコンビニ強盗や通り魔強盗のニュースは無い。金があるのに、所在割れを恐れて、宿に泊まれない者。それ以上は考えるまでもない。
-文架市南西の国道-
燕真の駆るバイクが細道から国道に到達した直後に、ポケットのスマホが着信音をコールした。バイクを路肩に寄せてポケットから携帯電話を取り出すと、ディスプレイには雅仁の名が表示されている。
「どうした?」
〈奴等のアジトらしい場所を見付けた。こっちに来られるか?〉
「マジで?何処だ?」
〈明森町の土地開発区にある廃ホテルだ。〉
「・・・ホテルから逃げてきて、また、ホテルかよ?」
〈ん?何か言ったか??〉
「いや、独り言!」
燕真はバイクを走らせて、雅仁が指定をした開発区に向かう。
-十数分後・廃ホテル-
雅仁は「奴等がいる」と確信をして、確実な手掛かりを探していた。
「・・・ん?」
古びたフロアカウンターの上に見覚えのある物を発見する。懐中時計型のアイテムと、バックルが斧の形をした壊れたベルト。昨日の戦いで、ガルダが破壊をした大魔会のマスクドシステムだ。
「持ち主はどうしたんだ?壊れたからって放置するような代物でもないだろうに?」
雅仁は、壊れたマスクドシステムの持ち主=マスクドウォーリア・ゴブリンが、夜野里夢に命を奪われたことを知らない。何気無く近付き、置き去りにされたアイテムに触れてみる。
「・・・ん?」
途端にアイテムの下に仕掛けられていた魔法陣が表面化して発動!雅仁は若干の空気の変化を感じる!懐中時計内の『Go』と書かれたメダルがくすんだ闇を放ち、闇は周囲に広がって、中から背の低い人型モンスター=ゴブリンが実体化をした!
「しまった!罠かっ!?」
触れれば発動をする単純な罠だ!魔術を知らない雅仁には事前の感知はできないが、先日の戦いで、マスクドウォーリア・スプリガンがモンスターを召還したことを考慮すれば、予想できない罠ではなかった!
「幻装っ!」
雅仁はYウォッチから『天』メダルを抜き取って五芒星バックルに装填!妖幻ファイターガルダ登場!鳥銃・迦楼羅焔を連射して、ゴブリンを牽制する!
-数分後-
燕真の駆るバイクが廃ホテルに到着。轟音を聞き、中で派手な戦闘が行われている判断して、『閻』メダルを和船バックルに装填する!
「幻装っ!!」
妖幻ファイターザムシード登場!妖刀ホエマルを装備して廃ホテルに飛び込んだ!ロビーで、交戦中のガルダを発見!戦い慣れた妖怪とは違うモンスターに苦戦をしている!
「狗っ!」 「来たか、佐波木!」
構えていたゴブリンが、不気味な笑い声を上げながらザムシードに向けて斧と投げる!ザムシードは回避をしつつゴブリンの懐に飛び込んで、妖刀を叩き付けた!しかし、直撃を与えたにも関わらず、ゴブリンの皮膚を斬り裂くことができず、ゴブリンの蹴りを喰らって弾き飛ばされる!
「・・・くっ!」
斧を拾い上げたゴブリンが、体勢を立て直しきれないザムシードに突進!ザムシードの振るった妖刀と、ゴブリンの振るった斧がぶつかり、ザムシードの手から妖刀が弾き飛ばされる!
慌てて基本装備の裁笏ヤマ(木製ナイフ)を握り、ゴブリンに叩き付けるザムシード!だが、ゴブリンには全くダメージが通らず、振り下ろされた斧を叩き込まれてしまう!
「佐波木っ!」
ガルダが鳥銃から光弾を発射!ゴブリンは、斧腹を盾にして防御!衝撃で半歩後退をするが光弾は防ぎきる!
「チィ・・・やはりダメか?」
「なんて固い防御だ!・・・これが西洋の悪魔かよ?」
妖刀、裁笏、鳥銃、相手が妖怪ならば通るはずのダメージが、全く通せない。強敵の鬼ですら、ここまで歯が立たない相手ではなかった。大魔会は、こんな怪物と互角に戦っている?妖幻ファイターとマスクドウォーリアには、これほどの戦力差が有るのか?
『妖怪探しても‘まじゅつ’っていうのは見ぇにくぃの!』
妖怪に対応する価値観では、魔術には対応できない。ザムシードは昨晩の紅葉の言葉を思い出す。
「なぁ、狗?」
「なんだ?」
「悪魔ってさ、妖怪の浄化能力では倒せないのかな?」
「今更何を言っている?妖幻システムの機能は、妖怪の浄化に特化を・・・・
ん?・・・そう言うことか?」
ガルダが、ザムシードの言いたいことに気付く。妖怪退治に効率的な戦いをしても、悪魔にはダメージを通せない。
「良い着眼点だな、佐波木!浄化が効かないなら・・・」
「物理的な攻撃をすれば良い!」
ガルダは属性メダル『雷』を鳥銃に、ザムシードは属性メダル『炎』を裁笏にセット!ガルダが鳥銃をゴブリンに向けてトリガーを引く!先ほどと同じように、斧腹を盾にして受け止めるゴブリン!しかし、浄化能力の高い光弾ではなく雷弾だった為、ゴブリンの全身を感電させる!
「ぐぎゃぁぁぁっっっっっっ!!!」
ザムシードが、動きを止めたゴブリンに突進をして、裁笏ヤマの刺突を放つ!裁笏はゴブリンの皮膚に通らないが、裁笏から発せられる炎の刃がゴブリンを貫通!
「サンキュー、紅葉!オマエのおかげだ!飯をおごってやるよ!」
弾き飛ばされて床を転がるゴブリンに対して、流星と化したガルダが突進!アカシックアタック発動!
「うおぉぉぉぉっっっっっっっ!!!」
直撃を喰らったゴブリンは、壁に叩き付けられてメリ込み、悲鳴を上げて爆発四散をした!
だが、ガルダの胸に填められた白メダルは、空白のままモンスターを吸収する気配は無く、爆発したモンスターは『Go』と書かれたメダルに戻った。
「やはり・・・妖怪とは違って、封印はできないようだな。」
「実体化を維持できなくなって、メダルに戻っただけ・・・
倒したけど、滅んでいないってことか。」
周囲を見回して「危険が去った」と判断して変身解除をする。
雅仁が拾い上げた『Go』メダルを見つめる表情は、少し悔しそうだ。離反者達の隠れ家を発見したに、戦いの痕跡という形で、立ち入った証拠を残してしまった。これでもう、離反者達が、この場所を隠れ家に使うことはないだろう。
これで、足取りを掴む手段は無くなった。捜索は振り出しに戻り、離反者が「文架市で何かを仕掛ける」以外は、いつ、何処で、何をするのか、全く解らない。言い様の無い焦燥が燕真と雅仁を支配する。
-鎮守の森公園近くのビジネスホテルの一室-
里夢の滞在する部屋で、里夢のスマホが着信音を鳴らす。里夢は、着信に応じて、数言会話をしたあと、バスローブから軽装な私服に着替えて、軽く化粧をして、部屋を出てロビーに向かった。
「空吾さん。」
ロビーのソファーでは、退治屋本部から遣わされた猿飛空吾が待っていた。
「よう、里夢ちゃん!」
猿飛は、里夢を呼び出しておきながら、その姿に驚いてしまう。25年前の幼女は、とても綺麗になっていた。ラフな私服姿からは、砂影や粉木が感じたような「気位の高さ」は微塵も無い。
「み、見違えたよ。」
2人には面識があった。幼い頃の里夢が母に連れられて、「近いうちに学ぶ」為の見学という理由で本部に顔を出し始めた頃、猿飛は就学をしていた。当時の退治屋(特に退治部)が男性中心で女性が少なかったので、猿飛はやがて里夢が後輩になることを楽しみにしていた。だが、事件が勃発して、それは果たされなかった。
砂影から里夢の情報を得ていた猿飛は、文架市に来て、最初に里夢と連絡を取った。憶測で遠回りな捜索をするよりも、暗黙の不可侵を前提にした「無理のない共闘」を持ちかける為だ。僅かではあるが「25年前の少女がどう成長したのか、会ってみたい」という思いもあった。
「ふふふっ!それは私も同意見よ。」
再会をして、幼い里夢しか知らなかった猿飛は、元気で、何よりも美しく育っていた里夢を見て驚き喜んだ。
思わず見取れそうになる欲求を堪えて、真剣な表情で話しかける。
「再会の乾杯をしたいところっすけど、残念ながら、立場も事態も違う。
単刀直入に話を進めるっすよ。
粉木さん達を狙う離反者の件で、君が今持っている情報・・・
俺に教えられる範囲で良いんで、もらえないっすかね?
「長話になりそうね。でも、機密が多い私の部屋に招待はできないわ。
場所を変えましょうか?」
里夢はしばらく考えた(フリをした)あと、猿飛を見つめて「外に出よう」軽く目配せをする。頷き、立ち上がる猿飛。2人は並んで、ビジネスホテルから出て行く。




