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38.まさかまさかの『特別授業』①



「皆さんおはようございます!!! 今日から本格的にこの精霊の森での生活が始まります! 明るく!楽しく!元気よく! 大いに青春してください!!!」



 二日目の朝は研究所の所長、バーナード = ロットンさんの暑苦しい挨拶からはじまった。


 本日は晴天なり。

 私達は全員ジャージで施設前の広場に集められています。

 本日より本格的な『特別授業』のはじまりです。


 ファンタジー的な大自然に包まれ、私のお腹が切なげにくうくうと鳴る。

 ちょうど午前8時過ぎ、朝食はまだ食べていません。

 皆すました顔をしているけれど、お腹は空いていると思うの。貴族の子が多いから顔に出て無いだけのはず。


 そう、なぜなら今日から自給自足なのです。

 自分たちの食べるものは自分たちで手に入れなくてはならないのです。


 …そう考えると、3食自分たちで用意するのって大変だなあ…と思う。お腹が空いているともうすでに切ないもんね。


「さて、先ほど皆さんに配られた梨ですが!! こちらは当研究所の果樹園で作られた梨です!!! とても美味しく実ったので、ぜひ!本日の朝食にどうぞ!!!」


 そう言ってバーナード所長が晴れやかに笑うと白い歯がキランと光る。

 まるで歯磨き粉のCMのよう。なんというか…とても暑苦しい(二回目)

 こんな事を思ってしまうのもきっと私が腹ペコなせい。


 広場に来てすぐ職員の方から『梨をどうぞ』と渡されたのだけれど、これ朝食だったのね…。今日から自給自足とは言うけれど、さすがに何も食べずに作業して貧血になったり熱中症になったりしたら大変だもの。これはサービスなのかな? 糖分水分大事大事。


 まあでも今は所長のお話の途中なのでさすがに食べ出す人はいない。

…皆さんお行儀がいいからね。

 私は梨の皮は剥いて食べたい派なので、ちょっと座りは悪いけれど、ジャージのポケットにしまった。これは後で食べようね。


 そしてジャージで整列する私たちの前にはアレク先生だけではなく、所長をはじめ白衣を着た研究所の職員が私たちの前にズラリと並んでいる。

 はじめまして、皆さん。

実はゲームでは研究所の職員は省略されていたし、セリフもビジュアルも無かったので完全に初対面なんですよね、ノーデータ!! ノー解像度!! 誰も知らない!!

 今回の件、予備知識チートが通用しない可能性あり! いつにも増して気を引き締めていかないとね!


「本日より!!この精霊の森で自由に生活していただく訳ですが…」


 バーナード所長からいくつかの注意事項が説明される。

 ここは精霊がたくさん棲んでいる場所なので散らかしたり汚したりしない事、とか精霊がいたずらをしたりする事があるから慌てずに報告する事、とかそんな感じ、色々。


 そうよね、私には見えないだけで精霊がいるんだもんね。私もパートナー精霊ができたら世界は一変して変わって見えるんだろうな。


 ところでこのバーナード所長、ほかの研究員さんと比べて全然違う。

 年も30代半ばくらいかな? 思っていたより若い。褐色の肌に短い金髪、筋肉ムキムキの野生の熱血体育教師って感じ。人との交流を絶って研究ばかりしていると聞いたから仙人とか隠者とか、もやしっぽいのを想像していたのだけれど、むしろアレク先生の方が研究所の所長っていうイメージに合っていたような気もする(個人の印象です)。

 いや別にキャラが立ってるなあってそれだけなんですけどね。




「では、これから作業エリアについて説明します!!」


 そう言って所長は本日のメインテーマ『衣・食・住』の『食』、私たちが毎日いただく予定の食材についての説明を始めた。


 食、とても大事。

 この研究所には小規模だけれど農園、果樹園などが存在し、私たちはこれから1週間、担当ごとに分かれて毎日そのお世話をして日々の糧を得る。

 基本的に午前中は特別授業という名の作業を行い、午後は自由。自由時間はどのように使ってもいい。勉強してもいいし、遊んでもいい。もちろん午前中の作業が不十分だと思ったらそれの補完に使ってもいい。


 …うん、自然学習って感じ。


 そう考えると初日の大掃除は『衣・食・住』の『住』だったね。

 住処を整えることはたしかに大事だもの。イチから住居を用意するよりかは掃除の方が簡単だけど、虫やらネズミやら、入り込んだ小動物に退去いただいたりしてけっこう大変だった。


 …正直に言うとあれからも複数人救護室に運んだので大変でした!

 

 アレク先生は増える救護人の看病のため、救護室に詰めっきりになってしまったので、代わりに私たちが率先して救護者の搬送をした。

 今年はシルヴィ君のゴーレムがいたかったら良かったものの、去年とかは担架などを使って運んだという。もちろん魔法も使えるので全力でレスキュー!みたいなことにはならなかったそうなのだけれど、…まあいろいろ苦労があったみたい。


 誰が運んだとか後腐れがなくていいよね、ゴーレムは!(察し)



「皆さん! 午前中は担当エリアで作業を学び、作業が終わり次第こちらの広場に戻ってきてください!! 昼食はこの奥にある炊事場の脇に設けてある飲食スペースがありますのでそこで好きなだけ食べてください!! 昼食後、こちらの広場で『特別授業』を行います!!!」


 キタ、『特別授業』の中でもさらに特別な『所長の特別授業』。

 昨日アレク先生に簡単に内容を教えてもらったんだけれど、確かにこれが一番キツイカリキュラムだった。人によってはトラウマレベルの授業になるんじゃないかな…なんて勝手に心配などしている。


(お兄様、大丈夫かしら…)


 2年生の集団の中からお兄様を探す。

 お兄様は勇壮でも勇猛でもないけれど、とても優しい。

 所長の授業で脱落しないといいのだけれど。



「では、さっそく作業エリアに案内をします! 皆さんついてきてください!!」


 そう言ってバーナード所長は皆を先導して歩き始めた。

 私たちはぞろぞろと列を成し、彼の後をついていく。

 広場からほんの2、3メートル歩いたところで石畳の道は簡単に途切れ、土をならしただけの道になった。


 鳥の声、風の音、朝の空気は清々しく気持ちがよい。

 精霊の森は不思議なところで、とにかく色彩がファンタジーだ。植物もベースは緑であるのに緑一色ではないような。空も半分桃色だし、キラキラしていてどことなく輝いているような気さえする。


「ここが農園です!!」


 所長が案内した場所は小さいながらもちゃんとした畑だった。

 森の木々があんまりにもファンタジーだったので少し心配していたのだけれど、実っている作物はトマトにナス、ピーマンといった私の知っている野菜と相違なかった…ちょっと安心した。


 農園の入り口で、アレク先生と職員の方がしばし話し合って2年生の中から数人が選ばれ、引き抜かれていく。

 それぞれのエリアで初日はしっかりと業務を叩き込んでもらうことになっているのだけれど、私達学生は普通に素人だし、ほぼ貴族階級の人間だし、できるかできないかで言ったら…できないんじゃないかなぁ…と思うけど、どうなんだろうそこのところ。精霊の森パワーでなんとかなったりする?


「シルヴィ・アルダー君、すまないが、またゴーレムを用意してもらってもいいかな」

「はい、大丈夫です」


 アレク先生に呼ばれたシルヴィ君が、ゴーレムを一基生み出しては農園の職員さんに預けていく。

 何かあった時の最速レスキュー要員だ。もはや貫禄すらある。

 レスキューだけでなく、ちゃんと指示をだしたら荷物なんかも運んでくれるんじゃない??? いやもう万能すぎない?

 ゴーレムの使役って全然興味なかったけど、こうも大活躍する場があると考えちゃうな。まあそもそもシルヴィ君の能力が桁違いで、遠隔操作できる距離とかがとんでもないからという訳なんだけれど、本当に一人で大活躍している気がする。


 あれ、そういや私が一番役に立って無いね??


 続いて果樹園、畜舎、湖と山とそれぞれの狩り小屋も農園と同じように数人が選ばれ、ゴーレムが一基配置されていく。



 そもそもこの担当はどうやって決めているんだろう…ランダムなのかしら?

 ユージン先輩が農園、ナターリア先輩は畜舎、アルフレート先輩は湖で釣り、ロイド先輩は山で狩り…とそれぞれに引き抜かれていったけれど…うん、これは適正で選ばれているのかもしれない、なんか皆それっぽいもの。


 作業エリアをぐるりと一周し、所長とアレク先生、2年生数人と私達1年生は元の広場に戻ってきた。

 うん、結構歩きました。


「残った君たちは、調理メインね。ひとまずはパンを焼こうか」


 そう言って所長に案内されたのは、キャンプの炊事場でした。


 うわー! かまど!かまどがある!! これまた昭和!!!? あと石窯!! 石窯がいっぱい!!


「研究所内にも小さなキッチンはあるのだけれど、さすがに大人数用の料理を作れるほど広くはなくてね、もちろんあちらも使ってもいい。オーブンや冷蔵庫もあるからな。作業に応じて上手に利用してくれて構わない。不便を掛けるがなんとか頑張ってくれたまえ!」


 HAHAHA! と白い歯を見せてひとしきり笑った後、所長さんは『特別授業の準備があるので』と言ってどこかへ行ってしまった。


 ふうむ、ひとまずきちんとした屋根があり、作業台がある。

 水道はあるし、かまどもある。石窯なんか5台もある。

 机の上には私たちが昨日運び込んだ大量の食材(主に小麦粉)が並んでいる。


 なるほど、これは青空クッキングの予感。


 学生と研究員の人員全てを数えると7、80人にはなるかな? それだけの人数の食事を3食用意するとなるとこれはもう小さな給食センターなんじゃないかしら。

 しかも私たちは素人の集団だし、これは結構たいへんかも。


 でもこれで一週間か…けっこう長いな。



「石窯でパンなんか焼いたことない…」


 キャロル先輩が不安げにつぶやいた。


 そうだ 聞いてくださいよ! 

 キャロル先輩は当然調理メンバーに選ばれたんですけれど、実はお兄様も調理メンバーに入っていたんですよ!! 


 ひゃっほう!!! やったね!!


 これから一週間、苦楽を共にするであろうメンバー分けに勝利するなんて幸先いいね! さすが幸運値95!(あれからまた少し上がったのです)

 でもお兄様とキャロル先輩はクッキング仲間だし? 実力的には間違いはないからね! やらせじゃないのよ、実力よ!!?


「すみません、こちらは薪を使うんですよね」


 お兄様が 炊事場を任された職員の方にさっそく質問をしている。

 水は幸い井戸水を利用した水道があるし、オーブンやコンロは無いけれど竈や石窯はある。あと薪。着火は魔法や魔道具でできるけれど薪を燃やして火を起こす。薪が無くなったらまき割りをしなくてはならない。これは…男手も必要なやつだね。


「どうする…?

「竈の温度が…」

「何のパンを作ろうか…」


 などなど、調理メンバーの先輩たちがさっそく話し合いをしている。

 私はひとまず調理場に包丁があったので、隣の飲食スペースへと移動し、もらった梨の皮を剥いた。

 お皿が無いので皮だけ剥いてそのままかぶりつく。果汁がみずみずしくてとても甘い。


「ボクもそうしよう~」


 調理場の端のテーブルにちょこんと座って朝食の梨をいただく一年生チーム3人。今のところ私たちはすることが無い。

 シルヴィ君も私と同じように皮だけ剥いてもしゃもしゃと食べている。アメリアさんは皮ごとそのまま食べているね。


 ひとつ良いことが判明した! ここの研究所の果樹園は美味!

 いざ食事がアカン事になっても果物が美味しいから大丈夫だ!

 私はキャロル先輩やお兄様の様子を眺めながら梨を丸ごと一個ぺろりと完食した。



「先生、私たちは今日はどう動けばよいだろうか」


 アメリアさんが隣に立っていたアレク先生に質問をした。


「そうだね、君たちはこの研究棟近辺にいてくれていいよ。私は基本的に救護室に待機しているし、何かあったら声の鳥を飛ばすから」

「わかりました」


 実は結構私たちは自由が利く。

 アレク先生のお手伝いがメインなので、2年生みたいに作業は強制では無いし、自習がしたければしてもよいし休み時間だって自由にとっていい。

 むしろシルヴィ君のゴーレムが優秀なおかげで私たちのお仕事は格段に楽をさせてもらっている。


 なので私は基本的にはこの調理チームと一緒にいようかなぁ、なんて思っている。

 だってここにはお兄様とキャロル先輩がいるからね!

 それとなくお兄様とキャロル先輩の仲をフォローしつつ、またヘタレが発動したときなんかにロゼッタサポート必要かもしれないし!


 ちらりと向こうの調理チームを見れば、何のパンを作るか、分量はどうするかなんて話し合いながら、皆キレイに梨を剥いて食べている。

 梨おいしい。


 しかし石窯かー、石窯パン! すてき!美味しそう!!

 またキャロル先輩の焼き立てのパンが食べられるなんてうれしいな!  そう思うとわくわくしてくる。


 向こうではさっそく本日のパンのメニューが決まったらしく、メンバーがテキパキと材料の計量なんかが始まった。さすが選抜メンバー手際がよい。お兄様は…あ、石窯の準備か…。




****



 しばらくしてパンの焼ける良い匂いがこの食事スペースを満たしていく。

 シルヴィ君は農園からミミズを見て気絶した令嬢のレスキューの依頼があったのでゴーレムを稼働させ、アレク先生は救護室で生徒を出迎えたりなどの騒ぎはあったものの、私とアメリアさんの出番はなく、ここでのんびりとおしゃべりをしていた。


 調理を任された先輩方が、慣れない石窯を使って次々とパンを焼いていき…こう丸い田舎パンみたいなやつ(?)がテーブルにごろごろと並んでいく。

 大人数の胃袋を満たすために今も継続してパンの生地をこねたり、発酵させたりと炊事場は大変忙しそう。私も少しは手伝おうかとも思ったのだけれど、慣れない人間が入り込んだら足を引っ張ることしかできないと思って止めた。…だって連携プレーが凄いんだもん。


「ロゼッタちゃん、アメリアさん、よかったら味見してみる?」

「はい! 食べたいです!」


 元気よく返事をする私にキャロル先輩がにっこりと笑って焼き立てのパンをひとつくれた。


「やあいい匂いだ」

「ボクも食べたい~!」


 アレク先生とシルヴィ君も焼き立てパンの匂いに誘われてやって来た。

 みんな朝から梨しか食べてないからお腹空いてるよね!

 私は大きめの丸パンを手でちぎって4等分にして皆で分けた。

 うふふ、味見だもんね、味見。役得役得!


「美味しい!」

「おいしいです」

「うん!」


 さすがキャロル先輩! 皮はパリッと、中はもちもち! 私が威張ることじゃないけれど、本当に本当にとっても美味しい!


「今年の調理チームは優秀だね」


 アレク先生も出来上がったパンを一口かじっては感心している。

 聞けば昨年は初日のパンはほぼ炭だったという。


「お兄様!! とても美味しいですわ!!」

「そうか良かった。でも昼食前に食べ過ぎるなよ」

「はーい」


 私は笑顔で良い子の返事をする。

 これから次々と各作業エリアから食材が届くのだって。

 でもこのパンが美味しいだけで大満足ですけれども!


 …ん? そういや、以前アルフレート先輩が焼き立てのパンを食べたことが無いって言っていたけど…。


 あるじゃん!? 

 去年も参加してたんだったら食べてたでしょ、ここで!


 騙された!!


 …今度タイミング見計らって文句言ってやろう。





****



『所長の特別授業』は次回!!


***


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― 新着の感想 ―
[一言] 美味しいパンの匂いがした気がした! お兄さま。やっぱり優しいな〜 活躍楽しみにしてます(*^^*)
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