20.ドキドキハラハラダブルデート!?①お願い
「ダブルデート!?」
なにそのあまずっぱい単語は。
いや、言葉の意味は知ってるけども知識と経験が追いつかない。
アラサー社会人兼ゲームオタク・推しの二次創作に命を掛けていた生前の私には、これ系の単語に全く縁がなかったよね。
ぶっちゃけロゼッタとして過ごす内にだんだんと生前の記憶は薄れていたりもしていて、少しずつこの体の現年齢(?)に近づいているような気がしないでもないのだけど、ゲーム知識があれば事足りるので別段問題はない。
「お願いロゼッタちゃん! 一緒に付いてきてほしいの!」
「えっと…」
そうだった、脳内問答している場合じゃなかった。
これこれこれですよ。
え、つまりどういうこと? 先輩のデートに私が参加?? 普通にお邪魔じゃない???
「今週末の建国祭!」
「けんこ…あ! お祭りですか?」
「そうなの!」
そうだった。今週末珍しく土日揃って学校もお休みかと思ったら祝日だったわ。
特に予定もなかったのでのんびりしようと思っていたけど世間はそうではないものね。
ていうか、まてよ…建国祭???
たしかこれ夏前のデートイベントじゃなかったっけ??
ゲームをプレイした記憶をたどると確かにこの時期にいろんなお祭り的なイベントがあったような気がする…。ていうか攻略対象別にイベントが違ったやつだったかと。
「ええとね、ロイド様に誘ってもらったんだけど、私一人じゃ心細くって!!」
やっぱりじゃん!!
ていうかキャロル先輩ちょっと私に心を許し過ぎじゃないですか!? ついこの間仲良くなったばかりのロゼッタですよ!? ロゼッタは獅子身中の虫だとは思わないんですか!?
…思わないんだろうなあ!! いい人はこれだから!!
「…でもわたくしじゃなく…その、同級生の御友人とかの方が良いのでは?」
「クラスの子にも相談したんだけれど、みんな断られちゃったの」
あーね。
いやまあ普通は断るよね。
『二人っきりで行ってきなさい。頑張って!』だよね、私だってそう言うと思うわ。しかも相手は紳士で有名なロイド先輩だもの。放っておいても安心だし。
「お願い、ロゼッタちゃん!」
…そんな、神に祈るみたいにしなくても。
キャロル先輩にこんな風に頼られちゃうと、悪い気がしないっていうかお願い叶えてあげたくなっちゃうんだよな…。
「あの、でもそれデートじゃないですか? わたくしはお邪魔になっちゃいますよ?」
「お邪魔じゃないよ! 全然、ほんと! ロゼッタちゃんがいてくれたら私も楽しいし! 緊張しないし! お願い!」
…ロイド先輩、これってどういうことなんですかね。好感度高いの?低いの?どっちなの??
それにゲーム中にダブルデートなんて選択肢一度もなかったけれどいいのこれ?? システム的に大丈夫? 誤差の範囲?
(まいったなあ…)
お二人の仲を取り持てばいいのか邪魔すればいいのか…。介入し放題みたいな展開は予想外過ぎるんですけれど!? 私的には好都合だけど、私が善人だって事に感謝してよねもう!!
でもロイド先輩はこの件どう思ってるのか聞いてみようか~と思うけどダメだ、あの人は『なら皆で行こう』とか普通に言うわ。
「だからダブルデート! ダブルデートしない!?」
そして振り出しに戻る。
これだからリア充は。そもそも私が誰とデートをするというのだ。
「ほら、ロバート君とかどう?」
「えっ! …どうと言われましても、絶対断られますって…それよりむしろっ…!」
(お兄様を!!!)
っと言いたい気持ちをぐっと我慢。まてまて落ち着いてワタシ。
ダブルデートで兄を連れてくるっていうのもそもそも微妙…ってのもあるけれど、キャロル先輩とロイド先輩のデートを一日中お兄様に見せつけるとかさすがにそれは当て馬的拷問じゃない??? 人間として酷すぎない??
だめです、却下。
****
「という訳で、モブ、いえ、ロバート様、今週の日曜日ダブルデートにお付き合いいただけないでしょうか」
放課後、さっそくモブAを捕まえた私は、空き教室に連れ込み素直に頭を下げた。45度・最敬礼だ。
「…また突然よく分からんことを言い出しやがって、ダブルデートだと!?」
「そうなんです。キャロル先輩がデートをすることになり、わたくしにも一緒に行かないかって」
「どういう流れだそれ?」
「お願いします」
一度顔をあげて、さらに深々と頭を下げる。
生前も含め人生で初めて人をデートに誘ったけど、デートの誘いってこんな上司にお願いするみたいな気持ちになるんだね。
「……」
「だめでしょうか」
下げた頭のてっぺんにモブAの大きなため息を感じたので起こす。
案の定渋い顔。うん、だろうと思った。
また面倒なこと持ってきたって顔してる。予想通りだけど、もうちょっとさあ…可愛い後輩にデートに誘われて少しぐらいうれしいとか思わないのかね、この人は。
「さすがにお兄様は誘えないですし…」
「ダブルデートに兄妹で参加?」
普通にありえないが、こいつらならありえるか? みたいな微妙な顔をしないでほしい。
「さすがにどうかと思いまして」
「…そういう常識もちゃんと持ち合わせていたことに少し安心したわ」
あいかわらず失礼だねモブA! 私はわりと常識人ですけれど!?
ダブルデートって言われて兄貴連れてくるのは我ながらさすがに無いかな~とは思ったよ! でも相手がキャロル先輩じゃなかったらちょっとありかな、とも思いましたけどね! 兄妹でデートしたっていいじゃない! うちは仲良しなんだし!! 今回はだめだけど。
「何が『という訳』なんだよ。俺を巻き込むな、同級生か誰かを誘え」
バッサリ!! やっぱりねー、そう言うと思いました!
ほらねキャロル先輩! 実際こんな関係なんだよ!? 甘さとか微塵も無くない!? だから誘いたくなかったんだけど! でも他にいないんだもん。
実は最初にシルヴィ君を誘ったのだけれど、彼は建国祭の両日、魔道具の発明品の発表会の審査員として立ち会うとのことで駄目だったのだ!
『審査員として!』だよ?
そりゃそうだよ!! シルヴィ君だって恋愛攻略者なんだもの!
彼には彼専用のデートイベントあるよね!!! 私気づいた!! ってことで同じく、アルフレート先輩にも、ユージン先輩にもそれぞれ彼ら専用のデートイベントが存在しているから聞くまでもなく却下なのです。
…いや、さすがにユージン先輩は売約済み(私の中で)なので誘わないけど。
「えっと、あの…その日は忙しいと断られまして…」
あと当てがあるとしたらモブBなんだけど、あの毒舌一日聞いてるのつらくない?? と思いつつも、モブAよりは見込みがあるかと事前におそるおそる聞いてみたところ、シルヴィ君と同じで魔道具の発明品の発表会(こっちは発表する方)があるんだって! みんな優秀だな~もう!
「悪いが、俺もその日は外せない用事があるんだ」
揶揄する声音ではなく、素直に断られた。
ソウデスカー…。
私は大きく息を吐き、肩を落とす。
モブAも実は優秀だったもんね。
国の一大イベントにはちゃんとみなさん予定があるんだね。今回ヒマなの私だけ??
でも困った。
ダブルデートの誘う相手普通にいないじゃん、私。
デートと言いつつも、私の中では『キャロル先輩の恋路の観察』が絶対条件なので、変にクラスメイトの男子に声をかけて人間関係とかを複雑にしたくないし、頼める宛てがもうない。私ってば友達少なすぎぃ…。
「仕方ありませんね」
断るか。
そもそもデートに誘う相手などいないのだ。ごめんねキャロル先輩、ダブルデートなんて私にはハードルが高すぎて願いは叶えられそうもないです。
「じゃあダブルデートは諦めて遠くから見守ることにします」
「おい、」
「何か?」
「…いや、いい」
モブAが何か言いかけて口をつぐむ。
私の尾行は下手だって言いたいんでしょ!! 知ってるし!! でもわざわざ最重要機密(?)情報くれたんだもん!! ここまで知っておきながら生かさないと駄目でしょ!! 行ってらっしゃいって見送って自分は学園寮で昼寝とかできる状況じゃないってば。 尾行とか下手なのは理解したから今度はちゃんと気を付けますって。
ただ場所がちょっとね…。
国を挙げての建国祭だけあって、今回のデートイベントは学園内に留まらず、各地に散らばっている。例えばアルフレート先輩だったらこの日だけ一般に開放される王宮庭園だとか、ユージン先輩とだと怪しい魔法の薬を売っているバザールの秘密の店とかそんな感じで。ちなみにロイド先輩とのデート場所がどこかというと…。
「競馬場なんだよなぁ…」
馬は好きだけれど競馬はねぇ…そもそも何処にあるの?
競馬場に実際行ったことは無いし、この世界に競馬が賭け事がどんな様子かは知らないけれど、まあ、競馬があるなら賭け事もしてるよね…。この国ってその辺の治安とかどうなんだろう。赤ペン持ったおじさんばっかりいるのかなあ?
ゲームプレイしてた時はきれいな馬!! まばゆい芝生!! 素敵~!!ってスチルを見て思ったけれど、リアルに出向くとなると実際はどうなんだろう、って思っちゃう。スチルは一番映えるポイントを切り取ったんじゃない?みたいに。
そもそも初デート(?)が競馬場っていうのもなかなか個性的よね…。
本音を言えば、一人で行くのはちょっと怖いなあ…って。
会場が割と郊外っていうのも不安。私一人でちゃんとたどり着けるかしら。でもお祭りの一部なんだからちゃんと一般向けに交通のルートもあるだろうし出店なんかもあるとは思うのよね…。
「ちょっと待て」
「はい?」
「今、競馬場って言ったか?」
「あら、わたくし口に出していました?」
モブAは安心のモブなのでついうっかり背景みたいな気持ちになってしまうけれど、まだ会話の途中だったわ、失敬失敬。
「そうなんです、デート先は競馬場なので」
「キャロル嬢のデートの相手はロイド・イーズデイルだったよな?」
「え? はい」
突然モブAがまじめな顔をして黙り込んだ。
はて。この情報って伝えてあったっけ、無かったっけ。
「気が変わった、ついて行ってやる」
「え、いいんですか!?」
突然の承諾!!! どうしたモブA!!
いや、君が良い人なのは知っていたよ! 素直にありがたい!!!
「実はうちの馬が出走するんだ」
「ええ!?」
まさかの目的地同じ!!?? でもそうか、そういうこともあるか!!
モブAの実家のこと全然知らなかったけど競馬なんだから競馬関係者もそりゃあいるよね! なにも賭けるだけが競馬じゃない。
「実家が領地で馬の飼育と生産をしている」
「まあ! そうだったんですね! それは存じませんでしたわ」
「ああ、だから俺にも用事があるんで、その辺を考慮してもらってもいいなら、だが」
「もちろんですわ!! 行きと帰りと多少ランチなどにお付き合いいただければ十分です!」
いやもうそれで全然うれしい。
基本わたくしのことは放置でいいので!
別に恋人の振りしてほしいとかそういうんじゃないし。
「わかった。それくらいなら考慮できる」
おおおお!!! まさかの快諾!!
ダブルデート実現しちゃう!! キャロル先輩すごい! さすがヒロイン!持ってますね!!
「よかった~、実は一人で行くのは少し怖かったので」
中身アラサーでもロゼッタはまだ15歳だし、この世界のことはまだよく知らない。それに貴族の令嬢じゃなくても、女性一人で競馬場はちょっと怖いなって。行ったこと無いから偏見かもだけれど一般的にね? 本当に感謝しかない。
「……そうだな」
今回ばっかりは救世主に見えます! ありがとうモブA!
全然知らなかったけど、今回は偶然モブAの家業のお陰でなんとか首がつながった!
当日はお家の方々もいらっしゃるかもしれないし、万が一口を滑らせてモブA呼びしないように気をつけます!!!
ありがとうロバート様!!(練習)
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