21.ドキドキハラハラダブルデート!?②馬車
「わ~!かわいい!」
「ニンジンもお食べ~」
「こっちのキャベツも甘いですよ~」
日曜、晴天、建国祭。
本日は国を挙げての祭典です。
競馬場の施設内に作られた子供向けのテーマパーク「ふれあい広場」にて私とキャロル先輩がキャッキャうふふとウサギやモルモット、ポニーと戯れる中、男衆は柵の外からほほ笑ましく見守っている…なんて。
そーんなダブルデートを想像してました!!
私の想像力が貧弱ですって!? ああその通りですよ!!
全くそうはならなかったこの現実!!! どうしてくれようか!
「ジークの妹!」
「はい!」
「いいか、はぐれるんじゃねえぞ!」
「はい!」
「お前はこっちの陣営だ、いいな!」
「はい!」
にぎわいを見せるメインストリートの喧噪を遠くに聞きつつ、私はとある陣営の裏方でモブAと向かい合い体育会系の唱和を繰り返していた。
「くそ、あっちには絶対負けねえからな…」
「ソウデスネ」
普段は飄々とした感じのモブAが珍しく闘志をむき出しにしているのにビビりつつ、オウム返しに返事をする。
あのですね…今回のこれ、私本当にあんまり関係ない…んですよ?
というか完全に巻き込まれ!
成り行き上仕方なかったからとはいえ、ピリピリしてるモブAちょっと怖いよ~!
わああん、キャロル先輩! 私を一人にしないでほしかった~。ほんと、本日が無事終われと願うことしかできない。
ほんと、どうしてこうなった!!
もう一体何がどうなってこの状況になったのかって言うことなんだけれども、話は数時間前に遡る。
****
「げ、なんで制服なんだよ…」
待ち合わせ場所に現れたモブAは開口一番にそうつぶやいた。
モブAは白いシャツにブルーグレーのベスト、黒のスラックスにゴツめのブーツ。シンプルに品がよいけど、一般の人混みに紛れても大丈夫そうな感じ。ちゃんとデートっぽい。さすが器用~。
一方私はいつもの制服にピンクのリュックを背負っている。
「だって何を着ていけばいいか分からなかったんですもの…」
そうなのだ、私も最初はデート服を考えた。だが私もロゼッタもこの国のデート事情にうと過ぎた。
この王都での流行とか? さっぱり分からない。
ロゼッタの記憶の中にもあまりその情報は無かったし(そもそも入学してすぐに私の意識が目覚めちゃったので)、同級生と街に出掛けたことも無かった。皆がどんな服を着ているのかもよく知らない。
完全敗北。…誠に遺憾である。
それにあからさまに貴族だと分かるような服装も良くないかなとか思ったり。
今現在のこの国の治安ってよく分からないけれど、ストーリー上ゲーム後半あたりから不穏なことになってくるので。
いちおう制服なら魔法学園の生徒って分かるし、舐められないかと思ったんだけど、モブAのこの反応だとやっぱり間違ったかもしれない。
「おはよう」
「げ、お前もかよ」
振り向くと、そこには制服のロイド先輩がいた。うむ、仲間だ。
示し合わせたわけでは無いのだけれど、迷ったら制服。一応フォーマルだしTPO的にも問題ないよねって。
「おまたせ~!! あれ! ロゼッタちゃん制服!? ロイド様も!?」
少し送れてキャロル先輩も登場。
集合時間より10分も前に全員到着です。すばらしい。
時間にルーズな人がいないっていいね!
キャロル先輩はさわやかな水色のストライプが入ったシャツワンピース。えーかわいい。さすがかわいい。
なるほど、デートにはこんな服を着ればいいのか(今まさに学んだ)。ゆったりしているのにキュッとウエストが絞られているのもまたかわいい。そしてウエストほっそいですね!
「キャロル先輩ワンピース素敵ですね~!!」
「ありがとう。ロゼッタちゃんも私服かと思ったのに…」
「えっと、すみません。ちょっと何を着ればいいのか分からなくなったので…」
残念がるキャロル先輩にちょっと胸が痛む。
「すまない、俺も何を着ればいいのか分からなかった」
はい同じ! ロイド先輩も私と同じでした! でも予想外!! 私のバカ。二人が制服だとペアが違うみたいに見えちゃうじゃん! たとえへっぽこでも流行を外していても私服を着てくればよかった!
「ロゼッタちゃんの私服が見たかったのに~、残念!でも私が誘ったのも急だったよね、ごめんなさい。今度お出かけするとき楽しみにしてるね!」
「はい~、次の機会には頑張ります…」
「うん! 絶対だよ!」
ううう、キャロル先輩の笑顔がまぶしい。
オシャレして出掛ける文化に初めて触れたよ文明開化。
すみません懺悔します。さっきのは半分嘘です。
ロゼッタの持っている服はお嬢様のドレス、ワンピ、学校指定の制服、ジャージ等なのですが…。
ドレッサーの中身。ロゼッタのワンピース、みんなすっごく可愛くって気後れしたんです! こう…フリルやレースがふんだんに使われていて、すっごく可愛いやつ。
現代日本でも一部の方に愛用される系のやつ!
私の一方的な印象なんだけど、なんだかこれを着たらデートに気合いが入り過ぎてるみたいな気がして、気恥ずかしかったというか何と言いますか…。
えっとロゼッタが可愛いのは分かっるし、ちゃんと着て鏡も見たけどめっちゃ似合ってて可愛かったのだけれど、…でも、脳内のアラサーが「ムリ」って言ったんだ。
いわゆる敵前逃亡です。
勝負のリングに上がらないのはやっぱりだめよね(何と戦ってるんだろう私)。
…別にモブAは私が可愛い服着ていてもバカにしたりはしないと思うし、あんまり興味もないだろうと思ったのだけれど冒頭に『げ』って言われたからたぶん私が間違えた。
ダブルデート奥が深い。至らぬわたくしをお許しください。
無難な制服に逃げてしまいました。
こういうとき背中を押してくれる人がいればよかったな、って思ったけど、今回の件…お兄様には内緒だから。
(ちなみにお兄様は教会主催のバザーのお手伝いに行っています)
「貴殿は…たしかAクラスのロバート・リングベイル殿だったか。きちんと話をするのは初めてだったと思う。今日はよろしく頼む」
「ああ、今日は世話になる。俺のことはロバートでいい。こっちもロイドと呼ばせてもらってもいいか?」
「もちろんかまわない」
一喜一憂する女子チームを横目に、男子チームも最低限の言葉を交わしている。
へえ、モブAとロイド先輩ってお兄様案件で顔見知りなのかと思ったけど、きちんと話したことは無かったんだね。でもたしかにモブAはモブだし、同学年でも口をきいたこと無い人なんて普通にいるよね。
お兄様とアルフレート先輩の様にのっけから対立!みたいなことにはならなさそうで良かった。…あれはまあ、ああいうコミュニケーションなのだと思おう。
「では行こうか。その角の先に馬車を待たせてある」
そう言ってロイド先輩が私たちを先導した。
有難いことに今日はイーズデイル家の馬車で郊外の競馬場まで行くことになっている。
普段は乗合馬車を利用するのだけれど、さすが名門貴族。この王都に邸宅を持っている上に学生のロイド先輩にまで馬車を回してくれるとか普通にすごい。
学園前のターミナルに馬車を横付けできる家ってそうそうないよ?
私も一人で向かうことになるなら乗合馬車を使おうと思っていたところだったし。
それはそうとこの世界、馬車はあるけれど自動車は無い。
もちろん飛行機も汽車もない。一見して産業革命以前(?)のような文化レベル見えるけれど、そこは魔法文化。
馬車で移動するより遠くへ行く場合は、一瞬で行けちゃう【魔道の小径】なんていうものがある。もちろん利用するには少々お高い金額が掛かるし、システムは国が管理しているのでほいほいと簡単には使えないのだけど。
つまり発明的に痒いところはすべて魔法が補っており、生活は現代の日本になんら引けを取らないってこと。マホウベンリだね。
あとこれは私の主観だけど、『精霊樹』に見守られているこの国には巨大工場とか似合わないので、これで良いんだと思う。
そんなこんなで馬車です。
2頭立ての馬車。決して華美ではないけれど重厚な感じ。ブラックウッド?っていうのかな?木製の箱型のやつ。
ロイド先輩は、御者の人にひと声かけてから馬車の扉を開け、キャロル先輩に手を差し出した。
「さあ、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
ぴんぽーん!
トキメキポイント入りました!
ロイド先輩、馬車に乗るのにちゃんとエスコートしてくれるんだね!
わお、こういうところ! スマートにやってくれるのグッとくるね! 見た目脳筋ぽいのにね!(超失礼)さすが紳士。
貴族の中では普通なのかもしれないけれど、ほら私(中身)もキャロル先輩も庶民だから。
こういうさり気ない仕草がくすぐったくてときめいちゃうんだよな。
「…ほら」
ちらりとモブAを見るとちゃんと手を差し伸べてくれた。
おお! 私にもちゃんとあったこのサービス! 口悪いけどモブAも貴族の子息だし、基本の所作は身に着けているという。
一応ダブルデートだし、私のこともちゃんとレディとして扱ってくれるのありがたい。
…二番煎じだなんて思ってないよ! ちゃんと感動したよ。
折りたたみのステップは幅も小さく、上がる時ちょっとふらつく。扉の脇に付いている手摺りというかポール?みたいなやつ。あれを握って乗り込んでいる女性ってそういえば見たことない。
今日は普通のローファーだけど、…なるほど、これはハイヒールの貴婦人はちょっと怖いね、支えてもらうのは至極当然だったか。
ロゼッタでは経験済みだけれど『私』は初体験なんだもの。
全てが新鮮で物珍しいのです。
ずっと学園内でストーカーしてたから日常生活の経験値が低いのだとかそういう本当のこと言わないで。刺さる。
ロイド先輩とキャロル先輩が横に並び、向かい合う形で私と隣にモブAが座ると馬車はゆっくりと走り出した。
かっぽかっぽと馬の足音がリズムよく響く。
舗装された石畳のせいか、思ったより揺れも少なく悪くない。
レンガの凹凸を考えるともっと揺れるかと思ったけど、おそらく衝撃を吸収するサスペンション?とかその辺に魔道具が仕込まれていると見た。
長距離を移動するっぽいし、これなら快適で助かるね、ありがとうイーズデイル家の財力。
背負っていたリュックを膝の上に置いていたのだけれど、モブAが手を伸ばして荷物を後ろのスペースに引き上げてくれた。あれ、本当にサービスがいい。
「なんだこの荷物重いな…、何入ってるんだ?」
「えっとですね、リンゴとニンジンとキャベツを持ってきました。たしかにちょっと重かったですね」
「は?」
「えっ?」
あれ、だめだった?
今日のイベントは競馬場内にある、子供向けに用意されたテーマパーク『ふれあい広場』だし。ウサギやモルモットに餌あげ体験をするはずだ。
ロイド先輩の建国祭デートイベントってそんな感じだったもの。ちゃんとゲームでプレイしたし、スチルもあったから覚えているよ。
「ロゼッタちゃんさすが! 準備いいね!」
「…たしか、会場にはポニーがいたはずだ」
感心するキャロル先輩とそれに相槌を打つロイド先輩。
だよね! よかった間違ってなかった。
ゲームはプレイしたけどたまに記憶の中で公式と二次創作がごっちゃになってしまって正解が分からなくなることが多々あるけれど大丈夫! 今回のは合ってた!
ふわふわに癒されたい。
お馬さんにニンジンあげたい。
モルモットとPUIPUIしたい!
ロイド先輩とキャロル先輩を見守りつつも、私も動物たちとの触れ合いはしてもいいかなって。お野菜はいくらあっても足りないということはないかなと思って準備をした。
「まあいいや…、お前はそれで」
なにやら不満げなモブA。不満っていうかあきれられている??
「お野菜の持ち込み駄目でしたっけ」
「…出走馬にやらなければ大丈夫だ」
のんきな私達を前にしてモブAは若干頭を抱えている…ぽい。
そうだった、遊びに行く私達とは違ってモブAはお家の都合…というか、ガチのレースなのだから当然か。
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