四十三、お母さんとまどかの秘密
四十三
はたと目を覚ます。しかし、周りには誰もいない。
まどかは不思議に思いながらも、起き上がり歩き出す。
深夜二時といった頃合だろうか。辺りはしんと静まり返り、光も音も、なにも感じない。
「誰かいますか?」
むろん、なんの気配もないのだが、まどかはそう、口にしていた。
『ぎゅむ』
と、聞こえたのは鳴き声か、あるいは。
「誰?」
ぼっぼ。ぼっ。
聞き覚えのある音だ。火が爆ぜる様な独特の音。
しかし、まどかの体から力が抜けることはない。
そこで初めて、これが夢のなかだと、まどかは気づいた。
「泣いてるの?」
『ぎぃ』
火の九十九神がまどかに走りよる。そしてぎゅっと足にしがみつくも、尋常ではない熱さから、まどかはその場に倒れた。
『ぎゅい』
しかし火の九十九神はまどかから離れない。まるで『お母さん』に甘えるかのように、まどかの足に体にしがみつき、離れようとしないのだ。
『ごめんなさい』
「え……」
そうして火の九十九神の言葉が、頭のなかに流れ込む。ごめん、とは、イザナミに対するものだろうか。
『父上は母上を裏切った。わたしはそれが許せない』
ぎゅうぎゅと鳴いているだけのそれが、まどかには理解できる。言葉として頭に響く。
『だからわたしがお守りします』
ぼっ!
最後に大きく爆ぜて、火の九十九神は消え去った。
ひゅっと息を吐き出す。
「私、は……」
火の九十九神を討伐することは、康仁を救うために必須である。しかし、火の九十九神はまどかを母親だと思っている。あまつさえ、まどかを守りたいだけなのだ。
「でも……」
だが、まどかはイザナミでは無い。康仁もイザナギではない。
生まれ変わりだからといって、まったく別の人生を歩んできたのだから、まどかも康仁も、それに囚われる必要はない。
すうっと意識が消えていく。まどかは夢の世界から現実へと、意識を取り戻していくのだった。
ハッと目を開けると晴明や黒雲、康仁までもが心配そうにまどかを覗き込んでいた。
「お目覚めですか」
「晴明さん……私」
「オマエはいつも大事な時に役に立たん」
憎まれ口を叩いてはいるが、康仁はまどかを心配している。それはまどかにも伝わったため、まどかは苦笑するしかなかった。
「まどかさん。うなされていましたが、大丈夫ですか?」
「あ、うん……」
まどかは康仁をちらりと見やる。夢のことを話すべきか迷って、まどかは話さない選択をした。
「大丈夫です。ちょっと嫌な夢を見て」
まどかは嘘が下手だ。この場の誰もがそう思ったに違いない。目を泳がせ、いつもより早口に答えたまどかは、明らかに動揺している。
「……ならいいのですが」
しかし、誰もそれに言及しない。それは、まどかを気遣いたかったからかもしれないし、単に新しい事実を知りたくなかっただけかもしれない。
どちらにせよ、早く目的を済ませようと、四人は日の出と共に宿を出た。




