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四十二、神々の記憶

四十二


 そこから一週間ほど歩き通して、まどかたちはようやく出雲に到着した。

 国境に足を踏みいれたその瞬間、まどかの眼前に火花が散った。


「……!?」


 バチバチっと爆ぜた火花と、体に走り抜ける電気――霊力に、まどかは地面に膝をついた。


「大丈夫ですか、まどかどの」

「はい……ちょっと目眩がしただけで」


 ふらつきながら立ち上がるまどかを、康仁はただ見ているだけだ。

 なにかがおかしい。

 康仁は、出雲に違和感を感じていた。


「今日は適当な宿を見つけて休みましょう」

「出雲大社はすぐそこなのに?」


 康仁は早く事を進めたいようだが、晴明は違う。まどかの体を第一に、焦らず事を進めたい。それがなによりの近道だと、晴明は知っている。


「皇子さま。まどかどのが万全でないのなら、出雲大社に行くべきではありません」

「なぜだ? ソイツがいなくとも、俺がいれば火の九十九神は――」


 それ以上は止められた。晴明に、黒雲に。

 三人には、なにかまどかに言えない秘密があるようだ。だとして、それがなんなのか、まどかにはわかりそうにない。それに、今は意識を保つだけで精一杯だ。


「まどかどの。歩けますか」

「な、なんと……か……」


 ばたり。

 まどかは倒れた。まどかは出雲の神々の霊力に当てられて、意識を保てなくなった。


「……っ、こんなことで火の九十九神を討伐出来るのか?」

「その為にここまで来ました」


 晴明の声音は、相も変わらず穏やかなものだった。





 時おり、不思議な体験をする。眠っているのに、晴明たちの会話が聞こえるのだ。

 まどかを布団に横たわらせ、そのかたわらで晴明と黒雲、康仁が話をしている。


「出雲は特別な国です。神々の始まりの地ゆえに、まどかどのにはあらゆるものが流れ込みます」

「九十九神以外になにが流れ込む?」


 黒雲は静かに目を瞑っている。晴明は微笑み、顔色ひとつ変えずに、


「言葉通り、神々の記憶です」

「……神だと?」


 イザナミと神は切ってもきれない関係だ。イザナミを生み出したのもまた、神である。


「だが、俺はなんともないぞ」

「そうでしょう。皇子さまはまどかどのほど前世に縛られていません」


 どうやらまどかは、自分で思うより重度に、イザナミの魂に影響を受けているようだ。


「神話には続きがあります」

「続き……? 聞いたこともないが?」


 イザナミとイザナギは黄泉とうつしよでそれぞれに生きた。だが、いよいよイザナギに死が迫り、イザナギはイザナミの元へ行けることを喜んだのだ。

 そして、黄泉で再会したイザナミと、今度こそは添い遂げると約束した。


「イザナミの罪を神は許さなかった。ゆえに、イザナミの生まれ変わりは代々九十九神の討伐の運命が与えられ」

「待て。それでは、イザナミとイザナギは、和解していたのか?」

「そうなりますね。ゆえに、イザナギはイザナミに罰を与えた神に逆らいました」


 そこから、イザナギの生まれ変わりは代々短命の呪いにかかった。

 唯一、その呪いを解けるのはイザナミのみ。イザナミが九十九神を討伐せしめれば、すべての呪いも罰も終わる。


「皇子さま。顔色がすぐれませんが」

「ああ、アイツには言ったのか?」

「いえ、まだ」

「そうか。ならば言うな。アイツには」


 今さらそんな優しさを見せる康仁が、まどかにはわからない。分からないのだが、この話は聞かなかったことにしなければと思った。

 晴明や黒雲、康仁までもがまどかに秘密にせんとしてきたものを、無下に扱うことはできなかった。


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