四十一、出雲への旅路と豆腐ハンバーグ
四十一
眠れぬ夜は過ぎていく。
各々の役割や目的がはっきりしたところで、四人は九十九神の討伐に自ずから出向くことにした。
「出雲にはよろずの神々が集まります」
「出雲……」
「神々の始まりの地だな」
康仁はシレッと言う。神々の始まり、つまり天皇家とも関わりが深い。
徒歩での旅は、一筋縄ではいきそうにない。
「皇子さまにこんなに体力があるとは思いませんでした」
「オマエは俺をなんだと思ってる?」
「いや。えーと」
平安時代の貴族は運動不足だとよく文献には紹介されている。
しかし、康仁は例外のようだ。康仁は皇子であって皇子ではない。呪いをその身に宿す康仁は、貴族とは程遠い生活を送ってきたに違いない。
「どくだみと梅、正盛さんに任せて大丈夫かなぁ」
「まどかさんはこんな時でも料理の心配ですか」
ふっと黒雲が笑う。場の空気が少しだけ和らぐ。
歩いて休んで、また歩く。
「足が痛い」
「すみません。まどかどの。わたしの式神が使えたらよかったのですが」
晴明の式神は、いざというときのために温存している。無論、まどかが式神と同調することも。
徒歩での道のりはまだまだ長い。
「あちらで、今日は休んでいきましょう」
丸一日、朝から晩まで歩いたのは、生まれて初めてかもしれない。
まどかはそんなことを思いながら、宿のくりにたつ。
「まったく。こんな所でも私に作らせるなんて」
「まあそう仰らず」
隣には黒雲もいる。
まどかと黒雲で、料理を命じられたのだ。どこまでも用心深い康仁には、苦笑するしかない。
「それ程まどかさんを信頼してるということです」
「信頼……? まさか」
「まあ、信じないなら別に構いませんが」
他人の家のくりは落ち着かない。どこになんの調味料があるのかもわからない。
その上、食材も肉は無いため、まどかはどうしたものかと頭を捻る。
「豆腐はある。けど水切りしてる時間はないし」
ならば、と考えたのは豆腐ハンバーグだ。
豆腐はあらかじめ茹でて水を抜いて、つなぎでくず粉と山芋を入れた。具材にはヒジキや昆布、有り合わせの野菜を入れて、ごま油で焼きつける。
ソースは和風の大根おろしを添えた。
「ほう。ハンバーグだな」
「はい。以前は大豆ミートで作りましたが、今回は豆腐のハンバーグです」
出来たて熱々のハンバーグをほふる康仁。
豆腐の甘みと大根おろしがよくあう。具材が食感のアクセントになり、風味も増す。
「うまいな」
「よかったです」
康仁が食べ終わるのを見計らって、晴明と黒雲、まどかも食事にする。
「しかし、今朝のプリンは美味だったな」
和気あいあいと食事するまどかたちに、康仁は言った。康仁は少しの寂しさを感じている。
みなで食べる食事は、どれほどうまいだろうか。楽しいだろうか。
考え出すと、どうしても我慢できなくなる。
「明日から、俺も晴明、そなたたちと食卓を囲むからな」
「皇子さま、それはなりません」
「すると言ったらするからな」
急な康仁のわがままに、まどかも黒雲も、なにも言えなかった。それはあまりにも康仁が譲らないためか、或いは康仁の悲しげな表情のせいか、まどかにもついぞ分からなかった。




