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二十八、康仁とまどかと、まどかの能力

二十八


 軽い、と思った。まどかを抱き抱えながら、康仁は、その軽さに驚いた。もとより、女性を抱えたのははじめてで、だからこそその『創り』の違いに驚いた。

 こんなに華奢な体で、どうやって九十九神に対峙するというのだろうか。


「皇子さま、まどかどの!」

「晴明。九十九神は?」

「退散しました。おそらく、まどかどのが風の九十九神を封印してすぐに」


 式神からおりて、康仁はまどかも一緒に地面に下ろす。頬にべったりとくっつく血を見て、蒼白したのは黒雲である。


「まどかさん!」


 走りより、黒雲はまどかを膝に抱いた。息はある。

 黒雲は自身の衣の袖でまどかの血を拭う。傷は浅いようで、ほっと息がもれた。


「晴明さま。ともかく、まどかさんを手当てしましょう」

「はい。皇子さま。わたしの屋敷で手当てしますので、まずは皇子さまを御所にお送りしてから――」

「俺もいく」


 晴明たちは、康仁を安全な場所に送り届けたかったのだが、康仁が断固拒否した。それどころか、まどかの手を握って離さない。


「俺の責任でもある。だから、コイツが目を覚ますまで、俺もそばにいる」


 康仁自身もわからない。なぜこんなに胸が苦しいのか。なぜこんなにも気になるのか。

 もしかすると、まどかもただの人間だと思い知らされたせいかもしれないし、あるいは別のなにかが芽生えたのかもしれない。





 晴明の屋敷の布団にまどかを寝かせる。頭の傷は思ったより軽傷で、一センチほど傷がついたくらいだった。

 しかしまどかは、その翌日の朝に目を覚ました。


「ん……え。え!?」


 まどかを取り囲む、晴明と黒雲、そして康仁。まどかは体を起き上がらせるも、ずきっと頭が痛む。


「痛っ」

「まどかさん、まだ痛みますか?」

「少しだけ……風の壁みたいなので殴られたから……」


 先日の九十九神は風を操る。ゆえに空高くまで舞い上がることは造作もなかったし、攻撃もまた、風に関するものだった。

 まどかが力なく笑う。康仁の表情が歪む。


「オマエは本当に巫女か? まるで役に立たん」

「はは……言い返す言葉もないです」

「なにをへらへらと笑う!」


 一歩間違えば死んでいた。それはこの場の誰もがわかっている。だからあえてその言葉は飲み込んだが、場の空気が一気に暗いものとなる。


「まどかどの。起きて早々に悪いのですが」


 切り出したのは晴明である。


「霊力と式神の使いかたについて、お教えします」

「……はい。私もそう思ってました」

「では、明日から――」

「いえ。今からお願いできますか?」


 ずきっと頭がまた痛む。しかし、明日などと悠長なことは言っていられない。まどかは布団を出て、パッと笑った。


「ほら、私、元気だけが取り柄なので」


 強がりなのは誰が見ても明らかである。しかし、まどかの意思を無下にするわけにもいかない。なにより、九十九神が力を強めつつある今日(こんにち)、早急な対応策は必須だ。


「では……まどかどのには、毎日朝晩の瞑想と」


 晴明が懐から呪符を取り出す。その呪符にふっと息を吹き掛けると、式神が顕現する。


「式神を自由に使えるようになってもらいます」


 晴明が式神に命令すると、庭の木の葉を一枚、音もなく切りおおせた。

 その無駄のない流れに、まどかは不安になる。果たして、自分にあのようなことができるようになるのだろうか。


「さあ、まどかどのも、式神を出して」

「あ、はい……」


 スマホを取り出し、まどかはその画面に写る一体を顕現する。先日封印した、風の式神だ。


「まどかどの。集中して」

「集中……」

「そう。式神の霊力を感じて――」


 ジリジリジリジリ。

 まどかの体にわずかばかりの電気が流れる。霊力だ、しかもこれは、この式神の。

 集中、集中。


 しゅうちゅう。


 バンッとまどかの目の前を、火花が散った。

 思わず目を閉じる。しかし、霊力は感じたままだ。

 集中を切らさず、目を開ける。


『え?』


 自分の姿が見える。晴明の姿も、黒雲も康仁も。

 まどかの体から力が抜けて、人形のように倒れる様子を、まどかは端から見ている。いや、『端から』ではない。ここは『式神のなか』だ。


『あの、晴明さん、黒雲さん』


 しかし、まどかの言葉は晴明たちには理解できていないようだ。倒れたまどかを揺さぶりながら、まどかの名前を必死に呼んでいる。

 違うんだ。私はこっちにいる。

 しかし、誰もまどかには気づかない。

 やがてまた、まどかの目の前を火花がとんだ。

 かと思えば、


「ん……う……晴明さん、私……」


 目を覚まして、いの一番にまどかは言った。


「私、さっきまで式神のなかにいました」


 果たして、まどかの能力の片鱗は、晴明すらも驚くようなものだった。

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