二十三、大豆ミートのハンバーグと唐揚げ
二十三
翌朝、天皇陛下はまどかの料理を拒んだ。
朝は五時に粥を食べたら仕事に行き、正式な朝食は十一時である。その食事内容は質素なもので、山盛りの粥にひしおと塩、酢がそえられて、あとはあつものがつくのみである。
しかし、さしものまどかも意見することができない。してしまえば、まどかの命はないだろう。
九十九神を引き寄せる体質のまどかを死罪にできなかったのはもしかすると、まどかが巫女ゆえ、死後なんらかの返りがあるかもしれないと考えているのかもしれない。
「わ。本当に寒い」
だからまどかは、この休暇を逆手にとって、氷室に来ていた。むろん、康仁も一緒である。
凍み豆腐はまだ完成しないだろうが、大豆ミートならすでに凍っている。
一口大に切った豆腐が、カチカチに凍りついたそれをみて、まどかは笑う。
「色が黄色いな」
「あ。はい。凍らせると大豆本来の色が出てしまうので」
黄ばんだ、と言いたいのだろうが、凍らせた豆腐は見た目より味だ。いや、食感に注目してほしいところだが、凍ったままでは味見もできない。
凍った豆腐をさらしに包み、まどかは康仁を振り返る。
「近くのくりを借りられますか?」
「作る気か?」
「はい。皇子さまが心配そうなので、試しに作ってみようかと」
自信に満ちたまどかの笑みに、康仁は思わず唾を飲み込む。
さあ、どんな料理を作ってくれるか。大豆ミート、期待が膨らむ。
皇子が顔をきかせて、近くの公家の家のくりを使えることとなった。
まず最初に豆腐を解凍する。未来では電子レンジで簡単に解凍ができるのだが、この時代にそれはない。
ゆえに、蒸し器に豆腐を入れて、時間をかけて解凍した。
「柔くなったな。もはや豆腐の影もない」
「はい。水分はすべて抜けてますから。味見します?」
熱々のそれを差し出され、康仁はそれをはくっと口にいれた。
きゅっきゅとした食感だ、豆腐の滑らかさはどこにもない。そして、
「不味いな。これは食べ物か?」
「ふふ。そうですね、そのままじゃ味気ないし、スポンジを食べてるみたいですよね」
「からかったのか?」
「まさか。ここからどう美味しくするのか、説明するためですよ」
解凍した豆腐の水分を手で絞ったら、今度は鍋でからいりして、保存がきくまで水分を飛ばす。こちらも、未来であれば電子レンジで簡単はできるのだが、本当に時代の進歩は恐ろしい。まどかは少しだけ、未来を懐かしく思う。
「半分はミンチ状にしてから、もう半分はそのまま水分を飛ばします」
挽き肉と塊肉の使い分けのため、二種類の大豆ミートを作ることにする。
からからになるまで煎ったら、大豆ミートの完成だ。
「干からびた豆腐か」
「はい。ではこれを、お湯で二、三分茹でていきます」
「煎る意味はあったのか?」
「作り方を見せるためです」
煎らなければ戻す手間も省けるのだが、まどかはあえてすべてを煎った。康仁に行程を見せるためだ。そして、それをしておけば、万が一まどかが天皇陛下の料理番からおろされても、レシピは受け継がれる。
「茹でたら水でよく洗います。これで臭みがとれます」
「ほう」
「洗ったらよく水気を切って、下味にひしおや塩を混ぜこんで」
ミンチのほうには塩とひしおを入れた。そのあと、卵と山芋と、葛粉を入れて楕円形にまとめ、ハンバーグに。
塊肉のほうも同じく下味をつけたら、葛粉を絡ませて揚げる、唐揚げにした。
「おお、なんだこの香りは」
「ハンバーグと唐揚げです。どちらもお肉と見分けがつかないくらいに美味しいですよ」
だされた皿に、康仁はまどかの説明を聞くまでもなく料理を口に運んでいた。
じゅわっとジューシーなハンバーグに、唐揚げも肉のようにぷりっとした食感だ。
正確にいうと、高野豆腐と鳥モモ肉の間のような食感だが、平安時代の人間からすれば、鳥肉と遜色ない食感である。
あっというまに平らげた康仁は、ふわんと夢心地な表情を浮かべた。
「肉のようでもあるが、肉より臭みがなくあっさりしているな」
「よくお分かりで。大豆ミートはそこが好まれます」
「これなら天皇陛下も召し上がってくれるだろう」
「……そうだといいんですけど」
飲水病と脚気は初期段階が大事だ。
今なら、食事療法だけでなんとかなる。まどかはそんな手応えを感じていただけに、なんとしても、天皇陛下の料理番に戻る必要があった。




