62話 エゴとルール
林間学校。班は出席順の為俺は安田などと同じ班であった。飯は飯盒炊爨や、宿舎で食べれたりと緩く、朝起きる時間もワンゲル部程早くは無かった。
荷物は殆どキャンプ場宿舎に預けた状態で登山する上登山ペースもゆっくり、更には読図などをする事も無い。本当にハイキングであった。ただひたすら駄弁って山を登るだけ。ワンゲル部の登山の様に息を切らず事もなかった。同じ様な坂道。それにも関わらず息が切れない。俺はその事に驚いた。
今まで碌に運動をしてこなかったツケが回ってきた。登山はこんなにも辛いもの。ワンゲル部の登山でそう認識していたが、その認識は明らかに間違っていたのだ。ワンゲル部の登山ペースは登山初心者にとっては速すぎる。俺はそれを実感した。最初からあんな登山合宿していたら新入部員が逃げてしまうだろう。もっと部員を集めるならば最初はキャンプの様な登山から慣らしていくのがベストだ。寧ろずっとそれで良い。俺はそう思った。
そこで俺はふと伯江先生が県総体終了後に高校生達に言っていたセリフを思い出した。
『ワシは別に大会なんか勝たなくてもでも良いんじゃ。お前らが勝ちたいと思うならば、そのサポートをするだけ。お前らに勝つ気が無いならば別にのほほんと登山しよっても構わんのじゃ』
その台詞を聞いた時俺は俄かにはインターハイ常連、複数回優勝経験のある強豪校の教員の台詞とは思えなかった。普通、大会勝たなくても良い。なんて台詞を部活の顧問が吐くか?いや、吐かないだろう。県総体も上位に食い込めない位の弱小校ならあるかもしれないだが、この学校のワンゲル部は強豪校らしい。それにも関わらず顧問は勝つ事を第一に考えて居ないのだ。練習も先輩任せ、自分で練習メニューを組ませて成長させる。自主性を第一に尊重していた。だが、だからと言って大会を辞退する者は居ない。不思議な物だ。
『まず、登山の大会の基準にはワシも疑問を抱いておる。安全登山をする際に必要な技術。果たしてそれに登山の大会は必要なのか?ワシはそう思っておる。じゃが、お前達は高校に入る時、ワシの問いに首を縦に振った者達じゃ。大会に参加する意思を示したのなら自分の思う様に努力せえ』
影から会話を盗み聞きしてた俺はこの伯江先生の言葉の意味が良く分からなかった。まず登山の大会が何をする物なのかすら知らないのだ。そして、後半の言葉。どこかで伯江先生が高校生達に判断を煽ったのだろう。少なくとも彼らはそれに同意していた。俺が予想するに、その内容大会に参加する意思の無い人は退部しろとか言う内容だろうか?いや、自主性を尊重してるのに無理矢理そんな判断を仰ぐとは想像し難いな。
結局その言葉を思い出した所で、普通の登山がどう言うものか、大会登山、ワンゲル部の登山がどう言うものかの区別は俺には付かなかった。林間学校の登山が緩すぎるのかもしれない。
ワンゲル部の登山がキツいのか林間学校の登山が緩いのか……。俺は考える。安全登山と言う面においては林間学校の登山はみんな気が抜けすぎだ。教員などの引率者含めて山への認識が甘過ぎる。登山中に登山者の帽子が崖から落ちたり、地図を確認しないが故に何も考えずに引率に脳死で付いて行っている者が殆どと悲惨な状況だ。
隊列の間隔も広過ぎたり、皆んなが走って危険だったりして人数の細かな確認作業も追いつかない。服装も半ズボンのせいで足を怪我した人もいれば、服をシャツの中に入れていないから服を木に引っ掛けて転んだ人もいる。山ではただ転ぶだけでも危険なんだ。木で目を突いて失明する事もあれば滑落の可能性もあり得る。俺が神経質なだけなのだろうか?俺は本当の正しい登山とは何か、と考える様になっていた。
余裕が出来たら、自然にこれらの点を踏まえて登山が出来るようになるのだろうか?登山はレジャーだ。楽しまなくてはならない。だが、ワンゲル部で学んだ事は忘れてはならない。俺はそんな気がしていた。一回あの登山をしたら周りの様子が気になって仕方がないのだ。心がヒヤヒヤするのである。
実際に教員が引率した登山で遭難した例も複数件ある。それは山への認識の甘さ故に起こった事故だ。……だからと言ってうんちくを語る様に周りの皆んなにまで山でのルールを強要するのは余計なお世話と言う物だ。これをすると確実に嫌われるだろう。俺だってついこの前までは周りと変わらない認識だったのだ。ただ俺は少し違う世界に足を踏み入れてしまったのである。何処までが必要な事で、何処までが必要じゃないか。この線引きがまだ初心者の俺には難しかった。
これに関しては自主的に山のセミナーなどを受講するのが良いだろう。俺がとやかく言う話では無い。ただ山への認識が甘い人中で山のセミナーを自主的に受講する人は少ない。そもそも山のセミナーがある事を知らない。俺も元々その中の一人だ。
だが、俺は幸運にも山で事故などに遭う前にワンゲル部でそれを学ぶ事が出来た。それ故に最低限の服装とマナーや遭難しない様な対策。これだけ知ってくれてれば他は言う必要は無いだろう。俺は結局そう結論づけた。
三泊四日の林間学校は楽しかった。安田がテントの中で1人用の小型テントを立てたのには驚いた。彼は自分で就寝ですら楽しむ技術を持っていたのだ。楽しむ為の登山。それは最低限の事だけ頭に入れておけば問題無い。だが、山をより知っていればもっと楽しめるのに。俺は若干そう思ったが特に周りに話す事も無い為、密かに自分の心の引き出しにメモをした。
話かなり脱線しました。林間学校は大幅カットです。




