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59話 学業優先

  「馬鹿な……。総合点数だけなら平均くらいあった筈なのに……」

「お前……偏差値って知ってる?」


 土日を終え、俺が見たのは絶望だった。前の席の安田がポツリと俺の独り言に対して言葉を突っ込む。だが、俺の耳にはその言葉は入って来ない。


 月例テストの集計表を持った俺の手が震えた。部活に入ってから図書館で毎日勉強していたのをやめたからだろうか?いや、それでも俺は休みの日に五時間以上は勉強していた。


  ゴールデンウィークの課題に限っては20時間近くかけて二週復習をし、普段の授業の内容や宿題も電車の中の時間を有効に使ってやっていた筈だ。それなのに何故……。俺の目には悲惨な数字が写っていた。最初の一年生のテストという事もあって平均点は高く八割近い。そんな中俺は六割しか点数が取れていなかった。


  志道学園の学習カリキュラムは非常に早く、中学三年生の時には既に高校一年生までの範囲は全て履修済みの状態になる。高校二年生の時には中学、高校のカリキュラム全てが終了する様な授業構成だ。その代わり高校三年生は全ての期間を受験対策に注ぐ事が出来る。各大学毎の講義なども選択式であり高校生は殆ど宿題や課題も無いと言う。


  ただその代わりについて行けない物をサポートしてくれるのは中学生までだ。中学は義務教育の為とことんサポートしてくれるが、高校生からは意欲がないなら別に来なくて良いよの精神である。俺は一年生の予定表を見て、歯軋りした。不味い。このまま次の定期テストが悪かったら間違いなく補習にかかってしまう。そうなるとそれは部活にも響く。


  土曜学習会。土曜日に学校の自習室を貸し出して勉強をする基本姿勢をサポートするシステムだ。これは正直良いシステムだと俺は思う。参加は勿論強制ではなく、自主的に応募する。だが、成績が悪いとこれが強制に変わるのだ。俺は家が遠い。勉強を学校でするのは別に良いのだが、行き帰りだけで三時間を浪費するのは非常に虚しかった。それにその日と部活が運悪く重なっていれば当然俺は部活を休まなければならない。


  学業優先なのは当たり前である。そして、何よりもヤバいのが夏休みにあるセミナー合宿である。セミナー合宿は学年順位下から100位の者が強制的に参加させられる二泊三日の合宿で地獄の合宿である。生徒が逃走しない様に神石高原町のとある山奥の宿泊施設に閉じ込められる。そして、寝る時間と食事の時間以外は教員が見張っている中で常に勉強をしなくてはならない。


  予定表を見るとその合宿はワンゲル部の夏合宿と日付が被っていた。それ以前に例えセミナー合宿の日付が被っていないとしても顧問の伯江先生が『そもそもセミナー合宿に引っかかる様な生徒を夏合宿なんかに連れていけない』と公言している事から、引っかかった時点で夏合宿は行けなくなるのだ。夏合宿は標高三千メートル近い山を登る合宿の為俺にとっては未知の世界である。楽しみじゃない訳がないのだ。絶対に行きたい。


  ただセミナー合宿もあり得ないほど良心的な合宿なのは間違いない。カリキュラムは四月〜夏休みまでの七月末までの授業の内容を主にやる。自習の時間があってテストをし、その後担当教科の先生とマンツーマンで指導を受ける。まるで個別塾の様な制度だ。これが三日も一日中受けられるのに教員の給料はほぼ出ない。本当にブラックなのはセミナー合宿に行く生徒では無い。教員なのだ。


  それは良いとして、俺は今後を考えないと行けないだろう。


『順位270/300』


  俺は自分の順位の数値を見て溜息を吐いた。ああ、親になんて言おう。部活辞めさせられるかも知れない。寧ろ部活辞めた方が良いのかもな。


 朝起きる時間も五時台。家に帰る時間も九時前。慣れない運動。早すぎる授業のスピード。新しい環境に部活の掛け持ち。


 中学一年生になったばかりの俺の体は既に悲鳴をあげていた。


「部活辞めようかな……」


 これは俺の本心だったのかも知れない。何言ってんだ俺!俺は自分を奮い立たせた。そんな事言ってたら本末転倒じゃないか!次の定期テストで良い点取れば良い話だろ!俺は自分の成績が書かれたテスト用紙を丸めてカバンに詰め込んだ。





「近藤。順位何位だった?」

「マジでヤバかった」

「え、そんなに?」

「ああ、160位だ」


  お前、ブチ◯すぞ。


  溜息を吐く近藤に俺は怒りを覚えたが、今回は自分が悪い。自業自得である。160位でも近藤が落胆する気持ちは俺も分かった。小学生時代は俺も成績だけは優秀でトップに君臨していた。全国統一模試でも満点を取った事がある位だ。塾の模試では順位は特に良くは無かったが、下層では無かった。その為、少し落ちただけでも腑に落ちない気持ちになるのは分かる気がした。


  何が『志道学園に合格したからにはトップを目指す』だよ。数ヶ月前の自分を殴ってやりたい。ここの舞台に立っているのはみんな小学生時代トップだった奴らなんだ。それ以上に偏差値72の学校を蹴ってまでここに入った化け物も複数人いた。そんな環境で普通の量の勉強してて勝てる訳無いじゃないか!馬鹿か!俺は自分の甘さと世界の広さを悟った。


「で、お前は何位だったんだ?」


  あ、やめて……。


「あ、ああ、お前以上にヤバかった」

「お前……その顔マジでヤバイ顔してるぞ」


  近藤は俺を追求しなかった。だが、近藤は何となく事情を察したのか、俺から目を背けた。


「セミナー合宿」

「!?」

「そうか。それ以下の順位か。絶対挽回しろよ」

「うん」


  近藤の問いかけに俺は思わず答えた。第一回テストの点数は月例テストと定期テストの合計点で決まる。月例テストの二割と定期テストの八割の点の合計だ。月例テストで平均点である八割を取った場合、それは第一回テストの点数の一割五分に相当する点になる。そして、俺の今回の得点の六割。これは第一回テストで言う一割二分の点数だ。


  イケる。次挽回出来る!俺は拳を強く握った。


最近ワンゲル部の話少なくてすみません……。

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