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蒼白の光  作者: 朔月葉
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始まりは小さな粉雪から

雪が降り積もった。

最初は気付かないほどちらちらと。ふと見ると粉雪に。次に見上げると空も周りも雪が降り積もっていた。冬の女王が塔に入った証拠だった。

冬の訪れは全ての季節の中で最も厳しい季節の始まりでもある。けれども寒くて辛いだけの季節という訳ではない。冬は周りの景色を一変させる雪が来る。そしてその雪は人々を暖かな空間へと導き、外には静けさをもたらし、心鎮める期間を与えるのだから。そのため、たとえ厳しくとも世界にとって必要な季節なのである。だから冬の女王は嫌われている訳ではない。むしろ好感を持つものも多い。しかし、冬が終わらないのは問題であった。冬の女王が出てこない限り冬は終わらない。春は訪れない。

冬が終わる季節になって春の女王が塔を訪ねた事がある。冬の女王は芯を持った強く正しい女性であった。そのため今まで規律を守り、決して季節を乱す事はなかった。それなのに彼女は春の女王が季節の巡りを告げても扉向こうに返事をするだけだった。何度訪れても扉が開くことも会うことも出来ない。ただ彼女が発する言葉は、「どうしても扉を開くことが出来ないのです。迎い入れることすら叶いません…。」のみ。彼女の声はいつものトーンを失い、悲しく切ない声で発せられるのみだった。

いつもの調子でないことを感じた春の女王は何か冬の女王自身に起こったのだと思った。しかし季節は正常に回り、彼女の力は変わりないことを証明していた。そればかりかいつもより強い力を感じる程であったのである。そのため春の女王は冬の女王自身ではなく他の理由があるのだと察した。何か困ったことがあり、季節を回すことが出来ない。しかし、彼女に聞いても具体的な返事は返ってこない。困った春の女王は王や他の女王に相談をした。女王達は性格は違えど、互いに協力し合う仲間であり、王とも友好的な関係を築いていた。彼女達も冬の女王の異変にうっすら気がついていた。皆彼女の性格を知っていたからだ。しかし力のある女王達や王はやはり入る事は叶わず、扉を開けるのこともはばかられた。そこでその土地に住む者にお触れをだし、協力を仰いだ。強い力を持たない、違う目線から見た者達の考えが必要だと判断したからだった。冬が長引くことに疑問を持ち、不満を持つものも多くいたからかお触れが出た途端、多くの者たちが冬の女王を塔から出し、季節を回すため動きだした。中には王の元に行かず直接塔に乗り込む者もいたが、皆冬の女王の力により弾かれていた。

しばらくすると、お触れが出た直後は盛んだった人々も諦めを見せ始め、殆ど王の元に来るものは少なくなってきていた。また他の女王達も様々な方法を試みたが殆ど効果が無く、日にちばかりが過ぎていた。それよりも、冬が長く続くこの環境をフォローするのに飛び回ることになり、手が回らなくなっていたのである。

そんな時、1人の青年が王の元を訪ねてきた。冬にも関わらず質素な服を着た彼は、お世辞にも綺麗な格好とは言えなかった。しかし顔立ちは整っており、強い意志を持つ青年であった。青年は王に対し、奇妙なことを話し始めた。「自分は特別な物は何も持っていない。特別な力もない。あるのは、守りたい家族と自身の力だけ。」そして彼は最後にこう言ったのである。「この世界が好きという気持ちは誰にも負けない。」

王は最初、彼が何を言っているのかさっぱり分からなかった。しかし、この芯の通った、強い意志を持った青年ならば何とかなるのではないかと感じた。この者なら冬の女王に届くのではないか。そう思ったのである。王はこの者の意志を信じ、話を聞くことにした。彼の話はすごく単純で簡単なものだったが、王や女王が絶対に出来ないことであった。

「自分には力が無いため塔に近づく事が出来ます。そして塔に無理やり乗り込もうとは思いません。僕はただ、女王の話を聞きたいのです。女王が話して下さるまで、入れてくれるまでいくらでも通います。待ちます。冬の寒さには抵抗力があるのです。…冬は1番好きな季節ですから。」と告げたのである。

青年の言っている事は一見何の意味も無いことのように思えた。しかしそれは全て正しいことだった。王や女王など力のあるものは中には入れない。そして無理やり乗り込もうとする者は冬の女王の力で弾かれてしまうのである。つまり、悪意のない者しか塔に入る事が資格がないということである。そして冬の女王からの許しが無い限り入る事は叶わず、寒さに耐える忍耐が必要なのである。王はこの言葉を受け、青年に塔に通うことを許可し、冬の女王の話を聞き解決するよう、頼んだのである。王はこの青年を信じ、全てのお触れを取りやめた。そしてその青年以外の塔の立ち入りを禁じたのである。

次の日、青年はさっそく朝早くに起き、冬の女王がいる塔に出掛けた。青年の家から塔は遠く、暫く歩かなければならなかった。そして塔は土地が広く見渡せるよう高台に建てられていたため、雪の中歩くのは大変な苦労があった。しかし彼は苦しい様子は見せず、むしろ心底楽しそうに進んでいた。進めば進むほど積もっていく雪道を進んでいくと、急に開けた場所に着いた。塔のある場所に続く大通りに着いたのである。青年は大通りの入り口にある、大きな黒い鉄柵で出来た扉を同じ色の鍵で開けはなった。無理やり乗り込ませないよう閉じられているようだった。しん、と静まり帰った広場は降り積もった雪により幻想的に輝いて見える。歩を進め、塔に近づくにつれ、その神秘さに圧倒された。高さはさほど高く無く、大きさもそこまで大きく無い。そして華美なつくりでもない。しかし、ほんのり蒼く輝くその塔は、不思議と引き寄せられるような強い力を感じるものだった。そんな力に引き寄せられるように塔に辿り着いた青年は、塔の上を見上げ、深呼吸した。そして一呼吸した後、そっと扉を叩き、自分の名を名乗った後に問いかけた。「冬の女王様、いらっしゃいますか」と。

しばらくそのまま返事を待ったが、反応を得られる様子は無かった。何の力も持たない青年であっても強い力を感じるのに、冬の女王がいる事は分かるのに、いる気配を感じる事は出来ない。やはり無理か、と呟き、青年はその場に座り込んだ。少しだけある屋根がチラつく雪を僅かに防いでくれていた。しかしその日扉が開く様子は無く、青年は家に帰らざるを得なかった。

行っては帰り、行っては帰りをいく日か繰り返した後。青年はいつもの様に塔に向かっていた。ただいつもと違うことは、荷物が少しだけ多いことだった。通常なら日が暮れる前に帰路に着かなければならない。しかし、家に戻らず、夜まで塔で過ごすならば話は別である。塔に長居をし過ぎれば、冬の女王に嫌われる恐れはある。その為出来るだけ泊まる事はしたく無かった。しかしその様なことにならない自信が青年にはあった。つい最近のことだ。いつもは感じない誰かの気配を感じた。その時はすぐに去ってしまった様だがその日以降、毎日その気配が感じられる様になった。そしてつい先日いつもは聞こえない、ため息の様な微かな声が聞こえた「あなたになら」という声が。今まで聞こえてさえ来なかった声が聞こえ、そして青年に対して発せられたセリフである。泊まらずともいつか冬の女王が扉を開けてくれる。そう考えていたのである。

扉の前に着く。いつもの様にノックする。やはり返事が帰ってくる様子はない。いつもの様にそのまま待ったが、何も変化はない。座り込んだまま日が暮れるまで待ち続け、諦めかけた時。こちらに近づいてくる気配を感じた。コツコツという足音がする。青年はそれに気がつき立ち上がろうとするが、上手く立つことが出来ず、そのまま座り込んだ。いっときの間の後、声が聞こえてきた。

「今日もそのまま過ごすおつもりなのですか。」

それは初めて聞いた、はっきりとした冬の女王の声だった。青年はすっかり冷え切った声をを懸命に出し答えた。

「あなたに応えて頂けるまでは。」

その返事を聞いた冬の女王は少しの間を開けたあと、

「あなたは悪しき心をお持ちではありませんね。」

と尋ね、青年の心の内を問うた。青年の答えは決まりきっていたが、あまりの寒さに応える事が出来なかった。しかし寒空の下いく日も待ち続ける青年の答えは明らかであった。そして、


「あなたの行動をみれば聞くまでもありませんね。」


と言いながら…

ついに扉を開けたのである。



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