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蒼白の光  作者: 朔月葉
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塔の秘密

塔の中はシンプルな作りであった。外同様、華美な飾り付けはなく、ほの蒼い光に包まれていた。その光とは裏腹に中は暖かく、適温に保たれている。青年に暖かなガウンを渡した後、何も話さない女王の後ろについて塔の中へと進んで行く。塔の中にはいくつもの部屋があるが、中に人がいる気配はない。どうやら使用人等はいないようだ。2階へ続く階段を登ったあとしばらくして、やがて大きな扉の前に辿り着いた。中は広々としており、どうやら応接間のようであった。その部屋に着いた青年は、女王から着替えやシャワーを済ませるように言われた。そしてその後に、「見て欲しいものがある。」と告げられたのである。

身支度を済ませた青年は、先程の応接間からすぐの扉の前に案内された。それまであまり話をしなかった女王が青年の顔を見てお願いをするような声音で話す。

「この先にあるモノはあなたが今まで見たことの無いものでしょう。しかし、それに恐れることなく、そのままのあなたでいて欲しいのです。どうか、私の見てきたままのあなたのままで。」


今まで見たことも聞いたことの無い、女王の態度に驚きつつも、青年は王に誓った言葉を思い出し、扉に手をかける。自分は強い意志を持ってここにいるのだと。

扉を開けるとそこは、蒼くもあり、白くもある、きらきらと輝くの不思議な空間だった。部屋の色がその色に染まっているのでは無い。どちらかというと、空気に色がついているかのような感覚なのである。しかしそれはよく見ると、色がついているのではなく、雪の塊のような、光の塊がふわふわと浮いているのだった。青年がその光に見惚れていると、女王が独り言のように「やはり、あの者は大丈夫なのですね。」と呟き、その光に手を伸ばした。光はそれに呼応する様に強く光を放ち、やがて青年の方に飛んでいく。光はそのまま青年の手に止まる様にひっつき離れなくなった。青年が手のひらを広げると、まるで導かれるかのように光がどんどん集まってきた。そして。

「光よ、仮の姿を得て示せ。」

そんな女王の静かな声が聞こえた。

その声に呼応するかのように、光は蒼白い光の渦となり青年の周りを駆け巡る。やがてその光は、青年よりも少し小さい少年の形を作り出した。見た目は普通の少年だが、どこかふわふわとした印象で、蒼白い光を纏っていた。目の前に起こったことが何か分からず、青年は思わず女王の顔を見つめた。すると女王は、少しだけ悲しげに笑い、彼に問い掛けた。

「私の願いを聞き届ける覚悟がございますか。」

…青年の答えは1つであった。

青年は先程の応接間に再び通された。ただし今度は蒼白い光を纏ったままで。先程の少年は、あの後すぐに霧散し、元の蒼白い光へと戻った。その代わりに青年の周りに纏わりつき、共にここまで来ていた。向かい合わせに座った女王は、自分の方に舞ってきた光を見がら静かに話し始める。青年はそんな女王を見つめながらその話を聞いた。

女王の話によると、この光は冬の精霊であるという。この世界の四季には女王だけでなく、精霊達が関わっており、様々な形として支えている。そのため、全ての季節において女王と精霊が存在し、四季を作り出しているという。普段は女王と、精霊自身の力を持って行われているのだが、今季の冬は何故か精霊の力が弱く、力の均衡が崩れていた。そのため、全てを冬の女王が支えなければならず、精霊達も外に出る事すら出来なくなっていたという。春の女王が塔に訪れただけでもその春の力に負け、光を失いかけた。そのため春の女王を迎い入れる事が出来なかったのである。冬の精霊は他の精霊と違い、気温の変化に極端に弱い。それは他の季節よりも温度の差が高いからと言われている。このことにより冬の女王は塔を離れる事が叶わず、季節が廻る時期になっても出る事が出来なくなっていたのである。自分が少しでも出れば、季節は廻ってしまう。しかし他の季節の女王や王が入るだけで冬の精霊が消えてしまう。そんなジレンマに悩まされ、冬の女王は切なく悲しい声になっていたのであった。その話を聞いた青年は、何故自分にこの話をされたのかが分からなかった。確かに自分には特別な力は無く、精霊達が消える事はない。だが、今自分が持ち合わせているもので何とかなるとは思えなかった。そんな青年の様子を察したのか、女王は青年に近づき、その顔に手を寄せた。そして青年の顔を覗き込み、こう告げた。

「あなたの良さは何ですか。あなたは強き意志を持った者では無かったのですか。」

ハッとする青年。女王はその様子を確認し、少し安堵した様子を見せた。その後姿勢を正し、真っ直ぐ青年の目を見つめて話を続けた。

「あなたにしか、頼めないことです。ここまで精霊に好かれているあなたならばきっと出来るはず。」その言葉に呼応したかのように青年の周りの光も強く輝いていた。

精霊は本来、形無きものである。しかしその年の変化に伴い様々な形に変化し、四季を支える。そして自らの四季が終わると光に戻りまた世界で次の季節まで力を蓄えるのである。だが、現在冬の精霊には力が無く、消える寸前の光となっている。この光を消してしまえば来年冬が廻ってくることはない。女王が青年に頼んでいるのはこの解決方法であった。

「精霊には力を蓄える期間が必要なのです。しかし精霊達は自力で外に出ることは出来ません。一度外に出てしまえば、今のように私の力で護ってやることは出来ないからです。そして私があなたに頼みたいことは。」

女王はそこで一度口を閉ざし、一泊おいてこう告げた。

「あなたには精霊をその身に宿し、精霊の代わりに力を蓄えて頂きたいのです。」

それは青年にとって驚くべきことだった。まず、自身にそんな事が出来るのか。どのようにすればいいのか。…今の生活を変えなければならないのか。覚悟は出来ていた。この世界に出来るのならば何でもしたい。

だが、今の自分に捨てる事が出来ない唯一のことは家族を守れないことだった。青年は女王に問いかけた。

自身に出来る事は何でもしたい。しかしこの生活を、家族を守れないことだけはどうしても出来ない。そう、素直に告げたのである。

女王の対応は落ち着いており、表情を崩すことは無かった。青年がどう答えるかある程度予測していたようだ。そしてその表情のまま、青年に提言した。

「あなたのその条件を完全に飲むことは出来ません。どうしても、生活は変えることになるでしょう。ですが、あなたの家族を守ることだけは保証しましょう。どのような形になるかはある程度お話します。」

女王の表情は最後まで変わらなかった。しかしながら、選択を迫るような事はせず、家族と話し合って決めて欲しい。と告げた。そして1つだけ青年に頼みごとをした。

「この話を王や他の女王に伝えて頂けませんか。私には手紙すら出すことは叶いませんから。」

それだけでもあなたは、この世界を救う手助けをしているのですから。そう最後に付け足して。

日がまだ高く上がっていない頃、青年は塔を後にし帰路についていた。話が終わった時間は遅く朝方帰ることになったのだ。青年は雪の降り積もった道を歩きつつ女王の言葉を思い出していた。女王は自分に頼みこそしたが、強制することはなかった。それどころかこの手紙を届けるだけでも十分だと言ってるようにも聞こえた。王や女王達に告げることで解決するような事なのだろうか。それならば自分が力を貸すようなことも、生活を変える必要もない。家族を危険に晒すこともない。女王は、家族を守ることは保証するといったが、本当のところはどうか分からない。女王を信頼していない訳ではない。だが、曖昧な条件で家族を惑わすことは出来ないと思ったのである。しかし最後まで表情を変えなかった女王と、扉ぎりぎりまでついてきた蒼白い精霊の事が頭から離れる事は無かった。青年は託された手紙を強く抱き、決断をするため歩き続けた。

王の城では春夏秋の女王が集い、青年から渡された冬の女王の手紙を読んでいた。手紙の内容は、彼女達がよく知る冬の女王のままで、彼女達は安堵した。それと同時に彼女の強き想いを尊重しようと決めた。それは満場の一致であり、彼女らの団結力をさらに強めるものであった。


世界にはキラキラと光る何かが満ちていた。それはハッキリと目に写るものではなく、見えるようで見えない、とても曖昧なものであった。しかし世界はとても美しく輝いて見えた。人々の表情は華やぎ、活気に満ち溢れている。そこには花が咲き誇り、潤い、風がそよぐ暖かな世界だった。高き塔には、季節の女王が集い、人々が行き交う。笑う声が聞こえる。そして季節は巡っていく。

女王の周りにはいつも人々が集っていた。しかしただ1人だけ冬の女王にいつも側にいる青年がいた。彼は、蒼白い光を纏う、どこか儚げな青年だった。しかしその瞳はいつも強き光を宿しており、人々の信頼と安心をもたらしていた。

彼の誇りはただ、1つ。

愛する世界を護りたい。この想いただ1つ。

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