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「……口か」
「はい?」
サトル、今何て言った? 口って言ったよね? 口って……口って……。する訳ないでしょ!? “次は口にして”って言われる前に、私はヒイラギと通学バッグを抱え立ち上がった。
「絶対に! こんな場所で口付けなんてしないんだからね!? 代金は明日持ってくるから! それじゃあね!!」
何か言いたげな倉山に見向きもせず、そのまま喫茶店から飛び出し、家に帰った。まっすぐと部屋に入り、そのまま何もせずにヒイラギをベッドに座らせ、その横に思い切りダイブした。
「一度もした事ないのに、いきなりでしかも人前でなんて……出来る訳ないでしょ?」
というか、頬にしたのだって凄い勇気だったんだ。だからそれでよしに何でしてくれないの? まだキスで確実に元に戻ると決まった訳ではないけどさ。もう恥ずかしさで泣きそうになっちゃうよ。
「…………」
それを感じ取ったのか、ヒイラギは近付いてきて私の頭を何度も軽くポンポンと叩いた。慰めてくれているのかな? そうじゃなかったら一体何のつもりで……。あー、ベッドに寝転んでいると眠くなってくるな。駄目だ、駄目だ。他の事をしよう。今はキスの事から離れておこう。またその勇気が出た時に挑戦するかな。
*
そう決意して数時間後。もうすっかり辺りも暗く夜になり、眠る時間になっていた。すぐに出る筈だった勇気もこの時点まで全く現れない。今日もまたヒイラギは元に戻らずに一日を終えると言う事になりそうだ。事実か分からない元に戻る方法を知っても、だ。今日は黒いネコの着ぐるみを着せている。クマとどっちかにしようか悩んだけれど。
「ヒイラギごめんね? 折角元に戻る方法分かったのに私がふがいないばかりに……ちゃんとしてあげるから、もう少し待ってね?」
ベッドに入り、頭を軽く撫でながら言ってあげるとヒイラギは眠たそうに大きなあくびをし、またいつものように頬にキスをするとそのまま眠ってしまった。何も考えていないだけかもしれないけれど、ヒイラギは何でこうも抵抗なく出来るのかな? なんかこう言う時だけ羨んでもなあ……。私もそろそろ寝よう。