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第32話 アダマスの鉱山

 ドーラ達が目的の採掘場に到着をすると、坑道の入り口には午前中に採掘をされたと思われる鉱物が置かれていた。

 運び出されている鉱物の大部分は鉄鉱石のようで、そのまま地面の上に乱雑に積み上げられている。

 物珍しそうにドーラが作業を眺めていると、鉄鉱石とは別に見るからに重厚な箱で保管されている物を見つけた。


「あれはミスリル鉱石だな。この坑道の採掘権はダグラス商会が持っているため、貴重な鉱物は全部王都にあるダグラス商会の本店に輸送をされている」


「それじゃあ、アダマスの街ではミスリル鉱石は手に入らないんですか?」


「そんなことはないぞ。ダグラス商会が持っている採掘権はこの坑道だけだ。アダマスの街の業者が採掘権を持っている場所も他にあるからな。ここで取れる鉄鉱石も、半分はアダマスの街に運ばれている。あそこで作業が終わるのを待っている奴らも、アダマスの街へ鉄鉱石を運搬する冒険者達だ」


 坑道から少し離れた場所にある広場では、作業が終わるのを待っている冒険者達の姿が確認できる。


「さてと、俺達もさっさと受付で手続きを済ますとしよう」


 ドーラ達は広場の横にある二階建ての建物へと入っていった。

 建物の一階は受付と食堂になっており、二階に上がると仮眠用の休憩所があるようだ。

 一階にある食堂では、作業員や冒険者の他にも業者の責任者らしい人も食事をとっている。

 バウスは慣れた様子で受付で手続きをはじめる。


「鉄鉱石の運搬に来た。これがギルドからのクエスト状だ」


「おいおい、バウスが仕事をするなんて珍しいな。季節外れの雪でも降らなければいいんだが……」


「余計なお世話だ! ほら、さっさと手続きを進めろ!」


 受付の男がクエスト状の確認をする。


「アダマスの街への運搬だな。午前中の採掘作業はもう終わっている。荷馬車を坑道の入り口につけてくれてば、すぐにでも積み込みが出来るぞ」


 受付からの指示を聞いたバウスは、にやけた顔をしながら返答をする。


「わははは、必要ねえよ。今日はでかいアイテムボックスがあるからな」


「アイテムボックスだと? お前のパーティーが持っているアイテムボックスなんて、精々手荷物くらいしか入らないだろ?」


 バウスがドーラのことを紹介する。


「新しくアダマスの冒険者ギルドに加入をしたドーラだ。普段は薬草採取をメインに活動をしているが、ちょいとアダマスの森が立ち入り禁止になってしまってな。しばらくは薬草採取のクエストが受けられない状態なんだ。アダマスの森の立ち入り禁止が終わるまでの間は、鉱山のクエストで世話になると思うから覚えておいてくれ」


「見たことがない子だと思ったら新人冒険者か。君がアイテムボックスを持ってるのかい?」


「はい、ドーラと言います。よろしくお願いします」


 受付の男はドーラのことを不思議そうな顔で見ている。


「アイテムボックスはとても高価で貴重な代物だ。鉱物の運搬に使えるような大容量なものになると、子供の小遣いで買えるような値段ではない。もしかして、君は貴族の娘さんか何かなのかな?」


 派手なドレスを着たドーラを見た受付の男は、貴族の娘が道楽かなにかで冒険者になったのだと誤解をしているようだ。


「いえ、ちが……」


 受付からの男の質問に、一瞬ドーラは言葉を詰まらせる。

 よくよく考えると、ドーラの父は魔族領での立場は非常に高く、人族の国で言えば貴族に相当する権力があった。

 戦時中には魔王にぐ発言権があったらしい。

 勿論、人族の国でも魔族領の英雄の存在は広く知られている。

 しかし、ドーラは受付の疑問には否定の言葉で答えることにした。

 ドーラはこの国では人族として暮らすつもりでいるので、現状は魔族の血を引いていることは秘密にするつもりである。

 何よりも、ドーラは貴族の金持ちどころか、多額の借金を背負っているその日暮らしの貧乏人なのであった。


「……違いますよ。普通の冒険者です。この子は従魔のダイフクです。普通の犬です」


「ワン」


 ダイフクは嬉しそうに尻尾を振っている。

 しかし、返答に迷ったドーラの表情を受付の男は見逃さなかった。


「……なるほど。よろしくなドーラ。ここで分からない事があれば、何でも私に聞いてくれ。現場にいる作業員にも、ドーラのことは私から話を通しておく」


「はい、ありがとうございます」


(すごく親切な受付さんだね。鉱山で働く人は気性が荒いイメージだったけど、少し誤解をしていたかな?)


(ワン)


 ダイフクは受付の男の勘違いに気が付いているようだが、特に害はなさそうなので敢えてスルーをした。

 ドーラは受付での手続きを終えると、坑道の入口に移動をして現場の作業員に声をかける。


「アダマスの街への鉄鉱石の運搬に来ました」


「ああ、ご苦労さま。あそこに積んである鉄鉱石がそうだ。運搬に使う荷馬車が見えないが、これから来るのか?」


「アイテムボックスがあるので大丈夫です」


 ドーラは腰から巾着袋を取り出した。

 巾着袋の口を開けると同時に、ディメンションワームで鉄鉱石の下に黒いもやを広げる。


 ズズズズズ


 黒い靄の中に鉄鉱石が沈んでいく。


「は?」


 作業員は呆気にとられている。


「よし、積み込み完了っと」


 その様子を後方から見ていたバウスと受付の男も、口を開けた状態で固まっている。


「あれ? どうしたんですか皆さん?」


「い、いや…… 俺の知っているアイテムボックスとは、少し収納方法が違ったから驚いてな。普通はアイテムボックスの入り口から魔法陣が現れて、手作業で荷物を入れると思うんだが」


 バウスはドーラの持っているアイテムボックスの口を興味深そうに覗きこむ。


(んー、やっちゃった。いつもの癖で、普通にディメンションワームに収納しちゃった)


「さ…… 最新式の全自動収納アイテムボックスです……」


「へー、そんなのがあるのか。最近のアイテムボックスは凄いんだな」


 バウスは簡単に誤魔化せたようだが、受付の男は眉間にしわを寄せながら何かを考えているようだ。


(んー、なんか怪しまれている。これは早めにここを離れた方が良さそう)


「えっと、後はこれをアダマスの街に運べば良いんですよね? それじゃあ、アダマスの街に戻りましょう」


 ドーラは、急かすようにしてバウスの手を引く。


「そうだな、少し早いがこの時間なら昼飯時にはギルドまで戻れそうだしな。ドーラはすぐに出発をしても大丈夫か? もし疲れているのなら、休憩所で少し休んでいってもいいが?」


「大丈夫です!」


 ドーラは逃げるように採掘場を後にした。

 鉱山をアダマスの街へと下山している途中で、岩山の奥から誰かが戦っているような叫び声が聞こえてきた。


「向こうの方から人の声が聞こえますね?」


「おそらく、冒険者パーティーが討伐クエストでもしているのだろう。興味があるのなら少し見に行ってみるか? 魔物の特性を知るのには、良い参考になると思うぞ?」


「はい、見てみたいです」


 ドーラ達は声のする方に近付いて、少し離れた岩山の影から戦闘の様子をうかがった。

 どうやら、三人の冒険者パーティーが二匹のレッサーサラマンダーと戦っているようだ。

 レッサーサラマンダーは子供の背丈ほどの大きさをしており、岩肌に張り付いているところを冒険者パーティーに囲まれている。


「ウォーターボール」


 冒険者パーティーの魔術師が、片方のレッサーサラマンダーに向けて水魔法を放った。


 バシャ


 レッサーサラマンダーは岩肌から飛び退いて攻撃をかわすと、冒険者パーティーの側面へと移動して身構えている。

 二匹のレッサーサラマンダーの距離が空いたところに、大楯を持った冒険者が体を入れるように立ちはだかり、もう一方の岩肌のレッサーサラマンダーと対峙をする。

 すかさず攻撃役の冒険者が、地面に飛び降りたレッサーサラマンダーへと斬りかかった。


 ブシュ


 レッサーサラマンダーは首を切断されて絶命をする。


 ゴウ


 岩肌に残ったレッサーサラマンダーが、攻撃役の冒険者に向けて炎ブレスを吐く。

 しかし、間に入っていた冒険者が大楯で炎ブレスを受け止める。

 炎ブレスの威力が弱まるのに合わせて、再び魔術師がレッサーサラマンダーへと魔法を放つ。


「ウォーターボール」


「ギェ」


 放たれた水魔法は岩肌のレッサーサラマンダーに命中し、鳴き声をあげながら地面へと落ちていく。

 間髪入れずに、盾役の冒険者が持っている大楯でレッサーサラマンダーを押し潰した。


 グシャ


「ふむ、問題はないな。冒険者のマナーとして、基本的に討伐クエスト中の冒険者パーティーには手出し無用だ。明らかな劣勢と判断をした時だけ、支援が必要かを冒険者パーティーに尋ねろ。まあレッサーサラマンダーの討伐クエストは、山道から離れた場所で行われるから、運搬クエスト中に出会うことはあまりないがな」


「もしも、山道で戦っていたらどうするんですか?」


「その場合は、距離をとって戦闘が終わるのを待つしかないな。下手に手を出すと、報酬の分け前で後々うるさい奴らもいるからな。まあ、山道にレッサーサラマンダーが現れて、周囲に他の冒険者がいなかったのなら、その時は遠慮なくレッサーサラマンダーを討伐してもいいぞ。炎ブレスにさえ注意をすれば、多分ドーラでも倒せるんじゃないか? フライングスネークへの対応は見事だったからな。わははは」


(そっか。魔石がいい金額で売れるみたいだし、いっぱい山道に出てくるといいな)


(ワン)


 ドーラは冒険者の仕事をはじめてから、お金のことが好きになり始めていた。

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