表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
刑務島  作者: tanakabuki
2/3

第二章 初日

島に来た初日だった。


浜には、

人が数名倒れていた。


そのうちの一人に、

恐る恐る近づく。


近づいた瞬間、

鼻を突く、耐えがたい臭いがした。


痩せ細り、

すでに動かない。


衣類はなく、

それ以上、近づく気にはなれなかった。


目の前には、大きな森が広がっていた。

だが、入らなかった。


死角ができる。

奪われる。

そう思った。


海沿いを歩いた。


そのとき、

森の奥から悲鳴が響いた。


一つではない。

次々と。


行かなかった。

いや、行けなかった。


逃げたい。


思わず、

口に出た。


「逃げたい」


その瞬間だった。


背後に、気配を感じた。


振り向く間もなく、

首を絞められ、体が倒れた。


殺される。

相手に、躊躇がない。


手を伸ばし、

近くにあった石を掴んだ。


後ろに振りかざす。


一度。

二度。

三度。


ようやく、力が緩んだ。


血まみれの顔。

こいつがいる限り、俺は眠れない。


――殺るしかない。


倒れてもがく相手に、

覆いかぶさった。


腕は止まらなかった。


無我夢中だった。


音が変わり、

感触が変わり、

ようやく、

石を落とした。


目の前にあるのは、

もう人ではなかった。


理由はどうであれ、

人を殺してしまった。


その恐怖から逃げるように、

その場を離れた。


俺のせいじゃない。

あいつが悪い。


必死に、自分に言い聞かせる。


後悔と自己防衛が、

何度も頭を駆け巡り、

時間だけが過ぎていった。


太陽が沈むと同時に、

島は、別の顔を見せ始める。


音が増えた。


波の音。

風が葉を擦る音。

どこかで、何かが折れる音。


すべてが、

「近くにいる」と錯覚させた。


浜から少し離れた岩陰に身を隠し、

俺は石を手放さずにいた。


眠れるはずがない。


目を閉じれば、

背後を取られる気がした。


そのとき、

声がした。


「……生きてるか」


低い声だった。

叫びでも、悲鳴でもない。


会話の声。


体が、一瞬で固まる。


返事をすべきか。

黙るべきか。

判断がつかない。


「生きてるなら、動くな」


命令口調だった。

だが、急いでいる感じはない。


ゆっくりと、

足音が近づいてくる。


逃げる距離はない。

隠れる場所もない。


俺は、石を強く握った。


「武器、持ってるだろ」


なぜ分かる。


「安心しろ。

今は、奪わない」


“今は”

その言葉が、耳に残った。


影の向こうから、

人影が現れる。


男だった。

年齢は分からない。


服はない。

体には、乾いた血の跡。


目だけが、

妙に落ち着いていた。


「初日か」


問いというより、確認だった。


俺は答えなかった。


男は、

沈黙を否定しなかった。


「……そうか」


それだけ言って、

少し距離を取る。


「ここではな、

助けるとか、守るとか、

そういう言葉は使わない」


男は、海の方を見ながら言った。


「生き延びたいなら誰も信じるな」


男は、俺を見た。


その目に、敵意はなかった。

だからこそ、

一番、信用できなかった。


「明日まで生きてたら、

また会うかもしれないな」


そう言って、

男は森とは反対方向へ歩いていった。


足音が消えるまで、

俺は動けなかった。


石を持つ手が、

わずかに震えていた。


この島には、

化け物がいる。


そして、

それは人の形をしている。


俺は、

その仲間入りをしたのだと、

静かに理解した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ