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刑務島  作者: tanakabuki
1/3

第一章 人権は静かに削除された。

俺は今、島にいる。


かつて無人島だった島だ。


もうどのくらいここにいるのかは分からない。

時間を測るものがないからだ。


食べ物を探し、

雨を避け、

夜を越える。


それを繰り返すうちに、

この場所が

どんな仕組みで成り立っているのかだけは、

少しずつ分かってきた。


島には規則がない。


ここで起きたことは、

起きたまま放置される。


確かめる者も、

記録する者もいない。


だから、

ここで何が起きても、

それは問題にならない。


死も、

事件にはならない。


そう、

俺たちは人権を失った。

たった、あれだけのことで。


⸻


国家予算に占める司法・矯正分野の割合は、

年々増加していた。


生活の困窮や依存、衝動による犯罪は減らず、

出所しても再び逮捕される者が増え、

社会は悪循環に陥っていた。


収容すれば、金がかかる。

監視にも、金がかかる。

それでも、更生の成果は数字に表れない。


世論は単純だった。


「犯罪者に税金を使う必要はない」

「被害者支援を優先すべきだ」

「真面目に働く人間が報われるべきだ」


そうした声は、

政治にとって扱いやすかった。


守らなければならないものが、

あまりにも多すぎたからだ。


少子高齢化。

労働人口の減少。

社会保障費の膨張。


医療と年金は、

維持が前提とされ、

削減の矛先は、

別の場所へ向けられた。


その中で、

最も合理的な対象とされたのが、刑務所だった。


維持費。

老朽化。

人員不足。

再犯率。


結論は、

「非効率」。


国家は、

隔離の方法を変えた。


囲うのではなく、切り離す。


『刑務所及び類似施設を撤廃する』


それは、感情も比喩もない、

事務的な政府文書として公表された。


犯罪者は島へ送られる。

衣食住は供給されない。

常駐人員は置かれず、

施設も建設されない。


維持費は、ほぼ発生しない。


島は特別管理区域に指定され、

一般人の立ち入りや撮影は全面的に禁止された。

監視は、海域と航路に限られた。


同時に司法も整理された。


年齢による区分は撤廃され、

死刑制度は廃止され、無期刑へと変更された。


犯罪は行為で判断され、

年齢は考慮されない。


命を奪う行為を、

国家が直接担う必要はない。

代わりに、社会から切り離し、

生き延びる余地を残す。


それが、

より現代的で、

より合理的な選択だと整理された。


有期刑については、

刑期終了後に回収する。


ただし、

回収は効率を最優先とし、

必要な人数が揃った時にのみ、船は出る。


この制度は、

例外でも、暫定でもなかった。


検討の末に、

正式な選択として導入された。


――その結果、

俺はここにいる。


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