蕎麦屋
「うまい!流石名水の町だ!」
引っ越し蕎麦を食べながら
新しい仕事の準備をする…
京介は、まだ二十代後半と
社会人として若い方だが都会に嫌気が差し
名水で有名な、この田舎に仕事を見つけ
今日引っ越して来たばかりである。
荷物を片付けていると腹が減り
住んでいるアパートから道路を挟んで
近くに見える蕎麦屋を見つける
蕎麦屋に入ったが
昼時なのに店は暗い
「スイマセーン」と声をかけると
いかにも職人という感じの主人が出てきた
「お客さん…ウチ始めてかい?、
ごめんね、この店出前だけなんだよ…」
「えっ!こんなに広い店なのに?」
「あぁ…以前は人がいたんだが最近はね…」
そんな会話と主人の年齢から
どうやら年で開けられないのだろう予想していた
主人に住んでる場所を伝え
家で待っていると
バイクの音の後にコンコンとノックされた
玄関を開け主人にお金を払い
家の中で蕎麦を食べる
蕎麦の香りが鼻を通る
モチモチだが適度な歯ごたえ
コシがあり喉越しも絶妙な一品で
付いていた蕎麦つゆも、こだわりが感じる
それからしばらくして
新しい仕事も慣れ始め
職場の皆と食べ物の話になった
前に食べた蕎麦の話をすると
皆、ピタッと動きを止め
「アソコか〜美味しいんだけどね〜」
「あ~…」
京介は皆の顔を伺うが
皆渋い顔をしている
「あの蕎麦屋どーしたんすか?」
「アソコは…」
どうやら昔から住んでる人の話によると
昔は繁盛していた蕎麦屋なのだが
店の主人がなんと霊に憑かれやすい
体質なのだという…
「んなバカな〜」
京介は半笑いで皆を見るが
皆はまだ渋い顔をしていた…
その日の仕事終わり会社から自転車で帰る
外はまだ5時半だが曇っていて暗い街灯も無い
道路脇の背の高い木が揺れて不気味だ
蕎麦屋の近くの街灯が見え
その街灯の下に蕎麦屋の主人がいた
街灯には光を求めて来た蛾が舞っていた
その我をジーーーと見つめる主人
声をかけるも返事が無い
不気味に思い自転車を漕いで
主人の後を通った時
「あ!」と主人が吠える
その瞬間舞っていた蛾は
ボトボトと落ち始めた
京介は急いで家に帰る
落ち着きを取り戻し
風呂に入った
風呂から上がると
ドアがノックされる
驚き声を出す
玄関にゆっくりと近づく
覗き穴から外を見るが誰も居ない
ドアノブに恐る恐る触れる
さっき風呂に入った身体は冷や汗が出始めていた
ギィーと古いアパートのドアが鳴る
外を見るが誰も居なかった…が
死んでいる蛾が玄関前に山になっていた…
月日が立ち…
新入社員が入った
昨日の引っ越してきたのだと言う
美味しい引っ越し蕎麦を食べたらしい
店名を口にすると
京介は渋い顔をした…