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最弱の竜は最強の竜狩りと恋をする  作者: しき
第三章 竜と竜狩り
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3-16.竜狩りと元竜狩り

 今まで極限種を相手にしたことは二度あった。一度は四人がかりで討伐し、二度目は一人で倒し切った。極限種は過去に会ったことのないほどの強敵で、どちらが死んでも可笑しくない死闘だった。


 目の前にいる黒竜も同じだ。過去最強に匹敵するほどの強敵に違いない。しかも空中戦だ。空を飛びながら極限種と戦うのは初めてである。一切の油断もできない。


「頼むぞ。フラー」


 ストレイグはヒポグリフに呼びかける。フラーという名前のヒポグリフは、一瞬だけ視線をよこした。素っ気ないが仕事をちゃんとしてくれるところに期待していた。

 フラーは恐れることなく黒竜に近づく。現れた黒竜は、大きな尻尾を持ち、翼を背に生やして四肢を持つ個体だった。


『ほう。探し物を見つける前に大物が出て来たか』


 黒竜がストレイグに気付いた。見られていないうちに奇襲をしたかったが失敗に終わり、ストレイグは空中で停止した。


「探し物だと?」

『あぁ、そうだ。《原初の竜》だ。知ってるか?』


 原初の竜。どこかで聞いたことのある言葉だ。ただそれだけの記憶しかない。


「そんな奴はいない。分かったら町の外に出るんだ。そこで決着をつけよう」

『それは困る。ここが一番良い戦場なんだよ』


 黒竜は町を見下ろした。


『ここは王都。様々な種のヒトが集まっている町だ。そんなところには様々な歴史がつくられる。多種多様なヒトがコツコツと積み上げてきたものがたくさんある。私はな、それを壊すのが大好きなんだよ』


 黒竜の口元から炎が溢れる。ストレイグは黒竜の動きを察した。

 手綱を操ってフラーを黒竜に接近させる。素早く反応したフラーは高速度で飛行する。飛行先は黒竜の顔だった。

 ストレイグは黒竜の顔面に向けて槍を振るう。すると黒竜は口をストレイグの方に向けた。

 黒竜の口から炎が吐き出される。ストレイグは直前にそれを察して、フラーに避けさせた。


『ふはは。この程度の仕掛けには反応するか。流石だ』

「なかなか性格の悪い竜だと分かっていたからな」

『良い黒竜などどこにいるのだ?』

「それもそうだ」


 ストレイグは手綱を操り、再び黒竜と向かい合う。黒竜は視線をストレイグから離さない。

 これは過去最強の黒竜だな。ストレイグは改めて確信した。





 ***





「極限種が出たか……」


 空を見上げながら、ガリックは呟いた。極限種の黒竜は、ガリックがいる路地裏からでも居場所が確認できた。極限種を相手にしているのはストレイグ。奴なら援軍が来るまで一人で持ちこたえられるだろう。倒せるかはどうかは話は別だが……。


「ガリックさんは、何も、しない?」


 途切れ途切れな言葉遣いでヤナが尋ねてくる。ガリックは短く「あぁ」と答えた。


「身体が鈍ってるロートルだからね。ヒポグリフにも乗れねぇし、下で待機ってこと」

「それでなまってるって言うのかよ」


 地面に膝を着けているグレンが言った。一緒に居たウィルとエノーラも似たような状態で疲労しているようだった。


「俺の最近の仕事は町の治安維持だからね。対人戦闘はお前らより得意なだけって話。竜相手だと碌に戦えんよ」

「……謙遜ですよね。あの身のこなしで言っても説得力無いですよ」

「若いねー、その考え方。年取ると出来ないことが増えるんだよ。俺にとってはそれが竜退治ってこと」

「ガリックさまー」


 使いに出ていたシヅルが戻ってきた。ガリックはシヅルとヤナを偵察に出していた。黒竜の登場によって何が起こったかを知るためだ。シヅルには黒竜が出現した正門付近を、ヤナには王都の周辺の状況を調べてもらった。

 シヅルが戻ってきたことで、ようやく情報が揃う。それにしても、極限種が発生した門付近まで走って行ったはずなのに、息一つ乱れていない。ヤナも同じように平然としている。さすがレイの実家の遣手(つかいて)なだけはあった。


「被害は戦士三人と竜狩り一人らしいですです。近くにいた無事な戦士は住民たちの避難と連絡にあたってて、まだ参戦は出来無さそうですです」

「ですですうるさい……」

「あんたは静かすぎ。ちゃんと報告したの?」

「した。他に敵はいない。城壁の戦士は無理って」

「短すぎ。もっとちゃんと報告しなさいって言われてたでしょ。そんなんじゃ遣手失格だよ」

「あなたより、優秀。だから、ハーロック様に派遣された」

「わたしの方が優秀ですー。だからレイ様直々にクリフ様の手伝いに指名されたのよー」


 《遣手》は隠密・諜報活動に特化した者たちのことで、歴史ある名家や戦士団に仕えている者が多い。ほとんどの遣手は情報収集力だけを鍛えられるが、レイの実家の遣手は戦闘能力も優れている。モンスターは専門外だが、対人戦闘ならば並の戦士よりも勝っている。


「二人の話を聞くと、その場に居合わせた戦士たちはすぐに戦闘に参加できない。城壁の上にいた戦士も急な出現に対応が遅れている。だが現れた黒竜は一頭だけってことだね」

「うん」「はいはい」

「じゃあそろそろ戦士団にも連絡がいってるだろう。他の竜狩りたちが気付くのも間もなくだ。問題は、そいつらがヒポグリフを使えるかってことだ」

「竜狩りでも使えない人がいるんですです?」

「すぐに扱えるわけじゃ無いからな。得手不得手があるし、武器の都合上で乗れない竜狩りもいる。ま、その辺は神頼みってことかね。……さてと」


 ガリックは黒竜から遠ざかるように歩き出す。


「じゃ、俺はここから離れるとするよ。連れて来た戦士たちも心配だし、避難の手伝いもしなきゃだし。お前らも早くしろよ。巻き添えになるかもしれないぜ」

「あなたは、戦わないの?」


 エノーラが聞く。ガリックはさっきと同じような答えを返した。


「俺にはもう竜と戦う元気なんて無いよ。普通の戦士として働くのが精一杯さ」

「けど、他の竜狩りを除けば、あなたが一番、適任です。そうですよね? 元竜狩りの、ガリックさん」


 ガリックは足を止めた。振り返ってエノーラに尋ねる。


「……知ってたのかい?」

「お姉ちゃんが、一度共闘したことがあると、言ってました」

「もしかしてエリザベスちゃん?」


 エノーラはこくりと頷く。ガリックは昔の事を思い出し、「そう言えば似てるねー」と感想を漏らした。


「相手は、極限種の黒竜です。過去に、極限種によって滅ぼされた町が、いくつもあります。戦力の備えは、あればあるほど、良い」

「それはまぁ、そうなんだけど……」

「戦えるのなら、戦うべきです。それが戦士の、務めです」


 ガリックは耳を掻いた。他の二人もエノーラの言葉に同意するような眼だ。


 エノーラの考えは間違っていない。戦士ならばその身を賭してでも人々を守る。それが役目だ。

 ただガリックは、その守り方が他とは違った。


「確かにそのとおりだ。守れる者が守るのが一番良い。けど、いつまで守れば良いのかな?」

「どういうことですか?」

「一人じゃ限界がある。他の竜狩りも、あのストレイグだって同じだ。一人で出来ることは限られている。だから戦士団は戦士を育てる。そうだろ?」

「……そんなの、当たり前です」

「だが全ての戦士を管理できない。良い戦士もいれば悪い戦士もいる。そして死ぬのはいつも良い戦士ばかりだ」

「……怖気づいてるってことですか?」

「そうだな。俺はいつも失うことを恐れている。戦友、親友、悪友。どいつもこいつも気を許せる良い奴等だ。だからさ、俺はこれ以上そいつらを失わないように働くんだ」


 ガリックは空を見上げる。空では黒竜を相手に戦う親友の姿があった。


 何年も前から、休まずに戦い続ける戦士。その姿に勇気づけられることが幾度もあった。感動することもあった。そして今は、早く戦士を辞めてくれと願っていた。

 奴が戦い続ける理由を、ガリックは知っていた。だからガリックはここに来た。


「今日でお前が引退できることを祈ってるよ」


 辞めさせる切っ掛けを作るために。


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