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最弱の竜は最強の竜狩りと恋をする  作者: しき
第三章 竜と竜狩り
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3-12.最悪の再会

「そろそろ、最後の組も終わりそうだな」


 特別訓練場の天井付近には、訓練場全体を見渡せる展望席があった。特殊な素材を使った窓ガラス越しに、訓練場で戦う戦士たちの姿を見下ろして、竜狩りに相応しい戦士かを見極める。そのために展望室には数名の試験官が集まっていた。展望室に居るのは、一次試験でも試験管を務めた者数名と、元竜狩りの戦士団幹部たちだった。


「あぁ。黒竜の動きが鈍い。じきに力尽きる」

「他の組よりも早く倒せそうですね。戦士たちの動きが良い。まだ平戦士なのに、黒竜に怖気づいていないようです」

「それも当然だ。このチームは全員黒竜と戦ったことがある連中だ。今更ビビらないだろ」

「それだけじゃない気がします。あのエノーラが最初を除いて、ほぼ毎回攻撃を当てれてる。今までの彼女なら近づくことに怖がってあんなに攻撃できなかったでしょう」

「ではなにか? お前は他の理由があるとでも言うのか」

「はい。その理由があの戦士だと思います。クリフという少年です」

「あぁ、彼か……たしかに彼は素晴らしい。前回のレイを彷彿とさせる戦士だ。一次試験の結果を見て仰天したよ」

「異常な成績だな。今回は過去最高の難易度だったはずだ。それでこの点とは恐れ入ったよ。で、どこを見て言ったんだお前は?」

「彼の働きぶりです。気づきましたか? 彼はエノーラやウィルへの攻撃を全て受け止めています」

「全部か?」

「はい。とてつもない耐久力と技量です。普通なら身体と武器が壊れているでしょう。しかも防御だけではありません。黒竜の気がグレンに向かったタイミングで、彼は攻撃をしています。まるで黒竜の気を自分に向けるように」

「グレンへの攻撃が少ないと思ったら、そういうことか。よく気づいたな」

「偶然です」

「現役時代、よくそんな風に旦那様に守って貰ったからなー。目が行くんだろ」

「……」

「訂正しよう。お前はよく人の事を見てる。だから気づいた。オッケー?」

「分かればいいのです。それに他の戦士も良い動きをしています。彼らが十全に動けているからこそ、クリフが仕事に専念できる理由でしょう。自分が無理しなくても大丈夫だから、と」

「たしかにな。あのウィルって奴、今までの試験とは比べ物にならないほど戦えてる。矢の的中率がほぼ十割だ。しかも味方の動きを制限しない場所に当てれてるな」

「グレンも良いな。最初に接近してからほぼずっと、黒竜の懐から離れない。あの粘り強さと至近距離の攻撃を回避する勘は素晴らしい。最後の最後に、良い戦いぶりを見れたよ」

「彼らが十分に動けるようにこのメンバー構成にしたという噂がありますが、どうなんでしょうね。マルコさん」


 元竜狩りの幹部がマルコに尋ねる。マルコは表情を変えずに「滅相も無い」と答えた。


「試験の結果は公平公正です。故に、試験の内容も同様です。最終試験も、メンバーをバランス良く構成していたら、このチームになっただけです」

「そうですか。ならば良いのです。噂でマルコさんがある戦士をえらく気に入っていたと聞きましたので、少し心配になったのです」

「ははは、ご冗談を……」


 「ギルか」とマルコは小声で呟いた。


「終わったようだ」


 一同が特殊訓練場の様子を眺める。黒竜は力なく地に伏せ、動く様子が無い。クリフが黒竜の身体に剣を刺して死亡確認をする。何の反応が無く死亡したことが確定すると、彼らは集まって仲間を労い始めた。


「さて、では早速審査を行おうか。あと彼のためにも、受験者を早く外に出して上げなさい」


 幹部の視線は、特別訓練場の端にいる竜狩りに向けられていた。危険な状況になったとき、すぐに救出に向かえるように待機していた。


「長居させるのは彼に悪い。まだ追加した竜狩りが来ていないのなら、早く任務に戻らせてあげないと」

「そうですね。では早速―――」


 展望室の扉が開いた。そこには試験管を務めていたギルの姿があった。


「ただいま竜狩りが到着しました。早速街の警邏にあたっているようです」

「ふむ、そうか。ならば」


 幹部は四番チームの戦士たちに視線を向ける。


「もう少しだけ、勝利の余韻に浸らせてあげようか」





 ***





「お帰りクリフー!」


 宿に戻って部屋の扉を開くと、ロロが跳びついて来た。クリフは反射的にそれを両手で止める。ギリギリで、抱きつかれることを阻止した。


「いきなり来るな。まだ慣れてないんだから」

「けど前よりマシでしょ? じゃあ挑戦してみようよー」

「断る」

「ケチー」


 ロロがクリフから離れる。するとロロは「で、どうだった?」と訊ねてきた。

 クリフは自信を持って答える。


「手応えあり、だな」

「おー! おめでとう!」


 惜しみない拍手を送るロロに、クリフは柄にもなく照れた。


「よせよせ。結果発表は明日だ。拍手はそれまでとっとけ」

「はーい。じゃあそんときは全力で拍手するね」

「おう。好きなだけやれ」

「全力で抱きつくね」

「それはダメだ」

「あらら、残念残念」


 ご機嫌な顔をするロロを見て、クリフも嬉しくなった。こうも喜んでくれる相手がいるのは良いものだ。何か答えてあげたい。クリフはそう思った。


 そういえば……


「ちょっと待ってろ」


 クリフはバッグから紙を取り出す。ルイスたちに教えてもらった情報を書き留めているものだ。そのなかから、クリフは一つの文字列を指差した。


「ここだ。ロロ、今からここに行くぞ」

「え? けど外に出たら……」


 ロロは不安げにクリフを見る。ロロを部屋に匿っていたのは、竜狩りたちの目から逃れるためだ。外に出たら見つかってしまう恐れがある。


「大丈夫だ。この店までの道はここから近いうえに人通りも少ない。店自体も知る人が知るという秘境みたいな店だ。そのうえ個室だ。見つかる可能性は無い」

「そ、そう?」

「あぁ。慰安会を兼ねて行こう。美味しいって評判だぞ」

「そ、そっかー、慰安会かー、美味しいのかー……じゃあ仕方ないね」


 美味しい料理の魅力に負けたロロは、店に向かうために支度をした。クリフは装備から着替えずに、ロロの準備を待った。


「クリフは着替えないの?」

「あぁ。戦士も利用するらしいからな。この格好でも大丈夫らしい」

「じゃあ安心だね」


 ロロはすぐに支度を終えた。クリフたちは「食事に行ってくる」というシヅルへの書置きを残して部屋を出た。

 宿を出ると、ロロはスキップしながら道を進んだ。


「どんなご飯が待ってるかなー。お肉? お魚?」

「肉料理が上手いって聞いたなー。色んな動物の肉がるって話だ。ルイスのお勧めだから期待していいぞ」

「そっかそっか。楽しみー」


 嬉しそうな笑みを見せるロロに、クリフも釣られて笑みがこぼれる。


 試験の手応えは十分あった。おそらく合格しているであろう出来だ。その結果の一因は、ロロがクリフの言うことを聞いて待ってくれたお蔭だ。

 普段のロロなら我儘を言っていただろう。外に出て遊びたい衝動に駆られていただろう。だがロロは我慢してくれた。クリフが試験中であることを考えて、己の欲求を抑えていた。自分の身を守るためでもあっただろうが、クリフはロロの頑張りに感心していた。その褒美として、外で美味しい食事をするくらい良いだろう。


 そういう気の緩みがあったせいだろう。


「クリフ君」


 前から人が来ていることに、気づくのが遅れてしまった。

 声を掛けた人物を見て、クリフは目を大きく見開いた。


「ストレイグ、さん……」


 アーデミーロに居るはずのストレイグ。なぜ彼がここに居る? 彼から逃げるためにロロを連れて来たのに。

 疑問を口にする前に、ストレイグが口を開く。


「試験、ご苦労だったな」


 ストレイグは微笑んでクリフを労う。だがその笑顔が、とてつもなく怖かった。


「さて、試験が終わってお疲れのところ悪いが、聞きたいことがある」


 彼はロロに視線を向けた。


「なぜ黒竜と一緒に居る?」


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