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最弱の竜は最強の竜狩りと恋をする  作者: しき
第三章 竜と竜狩り
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3-6.王都アズルダ

 アーデミーロを出入りするには、二つの門のどちらかを通らなければならない。一つはフェーデルに続く道がある南門、もう一つは王都アズルダに向かう北門である。昇格試験に向かう一行は、北門の内側に集まっていた。

 クリフとロロは予定時刻よりも大分早い時間に到着していた。一人で行く予定だったクリフが、当日になって付き人を連れて来たことを伝えるためだ。あらかじめ、二人一組を前提に馬車を用意していたようだったので、特に小言を言われること無かった。


 出発予定時刻が迫るにつれて、受験者が増えてくる。そして予定時刻の五分前、引率責任者のガリックが着いたことで全員が集まった。戦士たちは割り当てられた馬車に次々と乗り込む。クリフも指定された馬車の下へと移動した。


「おうクリフ。なんだ、やっぱり連れて来たんだな」


 馬車に乗る寸前、ガリックに声を掛けられた。クリフは面倒臭く思いながらも対応する。


「俺がツレと一緒なのが不思議か?」

「昔だったらな。以前のお前なら一人で来てただろ」

「……まぁ、そうかもしれないな」

「だろ? けど今なら誰か連れてくるんじゃないかなーって思ってたよ。で、その子が噂の彼女か?」


 ガリックがロロの顔を覗き込む。ロロは「こんにちはー」と明るく挨拶した。


「違う。ただの友人だ。というか、そろそろ出発するんだから、自分の馬車に行けよ」


 追い払おうと邪険にしたが、「聞いてないのか?」とガリックが返す。


「一つの馬車に二組だ。で、その馬車にはお前らと俺らが乗ることになってるぞ」


 ガリックに指摘され、クリフは思い出した。そう言えば昨日、詰所に集まったときに言われた気がする。王都に着いた後の事をロロと打ち合わせしようと考えていたが、それは出来無さそうだ。失念していたことを、クリフは悔やんだ。

 だがクリフは、すぐに気持ちを切り替える。まだ始まったばかりだ。いちいちイラついていたらキリがない。


「じゃあさっさと乗ろうぜ。他の奴らを待たせちまう」


 クリフは馬車に乗って荷物を後部に置く。屋根付きの馬車の中は大分広く、皆の荷物を置いても余裕をもって座れる広さだ。椅子はクッションがついているおかげで柔らかく、座り心地が良かった。

 ロロとガリックも荷物を置いて椅子に座る。クリフの隣にロロが、向かい側にガリックが座った。


 向かい側にいるガリックを見て、ふと違和感を抱いた。何やら視界の端に変なものがある。クリフはそれに視線を向けた。

 ガリックの隣には、以前局長室で見た少女が座っている。気配を感じさせずに給仕を行った、綺麗な黒髪で白い肌の少女。またもやクリフに気配を覚られずに、同じ空間に入り込んでいた。

 驚いたクリフは彼女を凝視する。なぜここに居るのか、いつの間に入っていたのか、疑問が頭に浮かぶ。

 そんなクリフの心境を覚ったのか、ガリックが喋り出した。


「そういえば言ってなかったな。この子はヤナ。今回、俺の手伝いをしてくれる子だ。普段はハーロックの秘書をしてるんだが、引率が大変だからついて来てもらった」

「ヤナです」


 ヤナと呼ばれた少女はペコリとお辞儀をする。ロロが釣られてお辞儀を返し、クリフは「あ、あぁ」と返事をする。


「えっと、ロロって言うの。よろしくね」


 ロロも驚いていたのか、ヤナが言ってから間をおいてから喋った。ヤナは「はい」と短い返事だけを言って終わった。

 ちょうどそのとき、馬車が動き出した。


「さて……長いようで短い旅の始まり、かな」


 ガリックは楽しそうに独白した。





 王都アズルダへの旅路は何事も無く続いた。同乗するガリックやヤナの事が気になっていたがじきに慣れ、窓から見える景色を楽しむくらいの余裕は出来ていた。

 思えば、最初から気にする必要などなかったのだ。ガリックとヤナは竜狩りではない。故に、ロロの正体がばれる心配が無いのに恐れることはないのだから。ロロもそれを知ってか、呑気に景色を眺めている。昨日は終始浮かない顔をしていたが、馬車に乗ってからは楽しそうな顔ばかりを浮かべている。クリフは一安心して身体を椅子に預けた。


 そうして移動し続けて夜になると、寝食のために馬車が停まった。皆が馬車から降りて、配られたテントを各自でたて始める。二人用のテントで、一組ごとに使うようだ。

 テントをたて終わると食事が出来るのを待つことになり、その間、クリフとロロはテントの中で待った。今のうちに、ロロと打ち合わせをしておきたかった。


「王都に着いた後、何をするか分かってるな?」


 ロロは「うん」と首を縦に振る。

 昇格試験を受ける戦士たちは、戦士団が用意した宿泊施設に泊まることが出来る。試験が終わるまでの宿泊料金は戦士団が立て替えてくれるため、戦士は無料で利用できる。それなりに豪華な施設のため、ほぼすべての戦士がその宿に泊まるそうだ。

 しかし使わない者もいる。豪華すぎで落ち着かないとか、人が多くて気になるとか、様々な理由で用意された宿に泊まらず、別の宿を探すそうだ。その場合の宿泊料金は自分たちで払わなければならない。クリフたちも、そうする予定だった。


 戦士団が用意した宿には多くの戦士が泊まる。だがそこには試験を受ける戦士だけではなく、竜狩りが泊まっていることもあるとレイが言っていた。その可能性を考えたら泊まることなんてできない。だからクリフたちはケイトに教えてもらった宿に泊まることを考えていた。人目につかず、かつ安全な宿を取る予定だ。


「宿に行ってじっとしてるんだよね。分かってるよ」

「あぁ。窮屈な思いをさせるが頼むぞ」

「だいじょうぶだよー。それに、もしかしたらそうじゃなくなるかもしれないでしょ」

「……まぁな」


 話し合いをした後、レイは王都の実家へと手紙を出した。内容は「クリフたちのために使用人を手配してほしい」というものだ。

 レイの実家では何人もの使用人を雇っており、皆働き者だという話だ。彼らのうちの一人をよこしてくれれば、クリフの行動も大分楽になる。外に出れないロロの助けにもなってくれるだろう。


「だが油断はするなよ。王都は人であふれているそうだ。どこに人の目があるか分かったもんじゃない」

「はーい、気をつけまーす」


 すっかり緊張感のなくなったロロを前にして、クリフは肩をすくめた。びくびくと怖気づく姿は見たくないが、こうも油断し切っていると心配になる。試験前や試験後はクリフが一緒に居れるから良いが、試験中は大丈夫なのか。かといって、ビビらせて気を落とさせるのも気が進まない。

 どうしたものかと考えていると、テントの外から食事の時間を知らせる声が聞こえた。とりあえず、腹を満たしてからゆっくり考えよう。クリフはそうすることにした。





「お、見えてきたぞ」


 窓から外を眺めていたガリックが言った。クリフとロロも窓の外を見る。馬車が進む先に目的地と思わしき場所が見えていた。

 まず目に映るのは大きな白い壁。アーデミーロを取り囲む壁よりも倍くらいの高さがある。壁の上には兵器と思わしき設備が見えた。視線を下げると、壁を取り囲む大きな掘りが見える。周りを柵で囲っていて、堀に入るのを防ぐものだと推測した。そして道の先に大きな橋があり、その先には王都の入り口である門があった。門もアーデミーロのものよりも遥かに大きかった。


 門の前には、中に入ろうとしている人や馬車が並んでいる。本来なら入るためにはあの列に並ばなければいけない。だがクリフたちの馬車はその列を横目に進み、門前へと到着した。


「じゃ、ちょっと行ってくる」


 ガリックが馬車から出て、門前の守衛の許へと進む。守衛と五分ほど話をすると戻って来て、少し待つとまた馬車が動き出す。どうやらこのまま中に入れるそうだ。

 窓の外を見ると、門の前にいる人が荷物の検閲を受けている。手荷物や馬車に乗った荷物をくまなく調べられており、その人はうんざりしたような顔で終わるのを待っている。対してクリフたちは何も調べられない。なるほど、レイの言う通りだったようだ。


 アズルダに入ると、ロロは興奮気味に窓の外を見ていた。クリフも外を見ると、アーデミーロとは比べ物にならない程の人がいて、綺麗な建物や珍しい建造物が多く見られた。広場ではパフォーマンスをしている人や、美味しそうな食べ物を売っている屋台もあった。


「あぁ、いいなぁ……いいなぁ……」


 ロロが羨ましそうに外を眺める。馬車から出たそうにしているが、クリフは心を鬼にして釘をさした。


「出るなよ。絶対出るなよ」

「分かってる……分かってるよぉ……。見るだけ、見るだけだから」


 ロロは窓の外から視線を離さない。せっかく王都に来たというのに隠れることしかできないのは酷だろう。また機会があったら連れて来てやろう。

 アズルダに入ってニ十分程経つと、ようやく馬車が停止する。馬車が停まったのはアズルダの戦士団詰所、つまり戦士団総本部だった。ガリックがまた馬車から降りて本部に入る。そして十分ほど待つと出てきて、クリフたちが乗る馬車に戻ってきた。


「こっからは自由行動だ。宿に行くなら乗ってても良いが、お前らは別の宿に行くんだろ?」

「あぁ、そうだ」

「じゃあここで降りな。泊まる場所は見当ついてんのか? 無かったら俺が紹介しても良いぞ」

「大丈夫だ。もう決めてる」

「よし分かった。試験に遅れるなよ」


 ガリックと話を終えると、クリフとロロは馬車から降りた。他の受験者のほとんどが馬車に残り、戦士団が用意した宿へと向かう。クリフたちのようにここで降りたのは一組だけで、彼らはすぐにこの場から離れた。


「さて、俺たちも行くぞ」

「うん。けどレイちゃんの言ってた人とは何処で会うの?」

「さぁな。俺が受験者だって知ってるなら、受験の日には会えるだろ」


 クリフは馬車から下ろした荷物を持とうと手を伸ばす。しかし、その先に荷物が無いことに気づいた。一瞬だけ思考が止まるが、すぐに状況を理解する。置き引きか?

 すぐに周囲を見回して犯人を探す。そして、それはすぐに見つかった。


「どーもです。クリフ様とロロ様ですですねー」


 クリフの荷物を持った少女が目の前にいる。少し長めで黒茶色のウェーブのかかった髪に黒い瞳。幼さが残る童顔でぱっちりと開いた眼。若者が好むような、ショートパンツに肩の出たシャツという露出の多い服装。明らかにクリフよりも年下だった。

 そんな彼女がいつの間にクリフの荷物を取り、しかも気配を出さずに現れた。動揺を隠せなかったクリフに、少女がまた話し出す。


「あ、まだ自己紹介してなかったですですね。わたくし、レイ様から手配された使用人でシヅルと申しますます」


 シヅルはニコニコと笑みを浮かべていた。


「この一週間お手伝いさせてもらいますので、よろしくお願いしますます」


 少女の態度に、クリフは不安を抱かざるを得なかった。


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