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最弱の竜は最強の竜狩りと恋をする  作者: しき
第二章 竜の友達
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2-20.とっておき

「てめぇ!」


 クリフはバッテルに向かって大剣を振り回す。狙いは頭部。他に目もくれず、ただその一点を狙った。

 だがクリフの攻撃は、バッテルに軽々と避けられる。


『そんなのが当たると思ってるのか?』


 小馬鹿にするようにバッテルが笑う。クリフもその事は分かっている。しかし、クリフにそれ以外の選択の余地は無かった。

 バッテルの黒竜砲。それを防ぐために、クリフは不利な戦闘を強いられていた。


 黒竜砲を喰らえば、クリフはもちろん、弱っているレイやロロも動けなくなる。ユーレスに当たれば強化させることになる。どちらも防ぐべき事態だ。だから黒竜砲を撃たせないようにしなければならない。


 そのためには、バッテルの前に出て戦う必要があった。足元に居たら黒竜砲への反応が遅れてしまうからだ。

 バッテルの眼前で戦えばすぐに対応できる。そう考えたうえの選択だった。クリフの優位性を捨てることになるが、仕方のないことだと割り切るしかなかった。

 その結果、バッテルはあれ以降黒竜砲を撃たなくなった。しかし、クリフの攻撃が当たらなくなっていた。


 理由は明白だ。バッテルがクリフの攻撃を見えるようになったからだ。

 足元で戦っているときは、バッテルの視界が限られているため反応が遅れていた。クリフはそれを狙って戦っていたので、遅くなるのも当然である。見えないものに対しては反応や判断が遅くなるのは竜も同じだ。

 だが今は、その攻撃が見えている。クリフがバッテルの前に出ているからだ。そのせいで、クリフの攻撃がバッテルに見切られ、碌に攻撃を当てられなくなった。


『窮屈そうだな』


 頭が痒くなる。戦闘中でなければ掻いていただろう。それくらいムカついていた。

 バッテルの言う通り、クリフの動きは制限されている。攻撃方法を考え、バッテルの攻撃に注意し、味方の位置に気を取られる。考えながら戦うのは、大の苦手だ。今すぐ何も考えずに暴れ回りたい。


 が―――、


「そうでもねぇよ」


 クリフは笑みを見せた。


「守りたい奴を守るために俺は戦士をやってるんだ。これくらいの試練、どうってことねぇよ」


 ロロを、ルイスを、ケイトを、レイを。クリフは全てを守ると決めた。だから不利な状況で戦うことも受け入れていた。


 虚勢を張ったクリフを前に、バッテルは笑う。


『ならば守って見せろ』


 バッテルが後ろに跳び退く。退くと同時に口元から黒い息が漏れているのを、クリフは見た。クリフはすかさず距離を詰める。黒竜砲を撃つのには五秒程時間がかかる。その間に接近して攻撃すれば、黒竜砲を止められる。

 クリフは全速力で距離を詰める。あと三秒。この距離ならぎりぎり間に合う。


 だがクリフが着く前に、バッテルは黒竜砲を放った。


「なっ―――」


 驚きつつも、クリフは大剣を構える。黒竜砲がクリフを目掛けて向かって来る。クリフは大剣を盾にして、黒竜砲を受けた。

 閃光の威力に押され、クリフは後退する。クリフの膂力をもってしても、黒竜砲の勢いを殺し切れない。大剣を支える腕が痺れ、踏ん張ろうとする足が崩れそうで、記憶を呼び起こす脳が危険信号を放っていた。


 このままでは死ぬ。

 直感を得たクリフは、大剣の角度を変えながら左に動かす。


「どりゃあああああああああああああああ!」


 大剣を振ると、閃光が左に逸れていく。逸れた閃光は、そのまま進んで木にぶつかって消失する。たいした被害が出なかったことに、クリフは安堵した。

 だが手に残る感触に気付くと、安心感はすぐに消えた。


 大剣の刃が欠け、いくつものひびが入っている。重量も若干軽くなっている。鍛冶職人じゃなくても、武器が脆くなったことを察した。


『良かったな、壊れてなくて』


 バッテルが薄ら笑いを浮かべている。


『全力で撃ってたら今頃折れてたぜ』

「……なんだと?」


 聞き返しながら、クリフは先ほどの黒竜砲の事を思い返した。溜めの時間が短く、木に当たっても破壊できていない。そういえば閃光の太さが細くなっていた気がする。威力を弱めたから、あんなに早く撃てたという事か。


『散々苦労させやがって……。その報いを受けさせてやる』


 バッテルがまた黒い息を吐く。クリフは阻止しようと動くが、身体が思うように動かない。受けた衝撃で動きが鈍くなっていた。

 ようやく動き出した頃には、バッテルの口が大きく開いている。照準はレイの方に向いていた。


「避けろ!」


 黒竜砲が放たれる。真っ直ぐとレイに向かって伸びる。レイは今やっと振り向いて、黒竜砲を確認した。

 ダメだ。間に合わない。クリフの脳裏に、絶望が浮かぶ。


 ふと、ロロの動きが視界に入った。

 黒竜砲とレイの間に、ロロの手が割り込む。咄嗟に伸ばしたのか、予想していたのかは分からない。だがその動きが、レイへの被弾を避けることになった。一瞬だけ、クリフは安堵する。が、間もなくして第二の不安がこみ上がる。


「ロロ!」


 弱った元竜が黒竜砲を受ければ、黒竜になることがある。そしてロロは、先ほどユーレスに気を失うまでのダメージを受けていた。黒竜になってしまっても可笑しくない。


 クリフの呼びかけに、ロロがなかなか反応しない。嫌な予感がしたが、クリフは身動きが出来ない。待て、ふざけんな。黒竜になったのか?

 嫌な想像ばかりが頭をよぎる。最悪の事態が来るものと思っていた。


『……あれっ?』


 突如、ロロの声が聞こえた。ロロは黒竜砲を受けた手を見たり、軽く動かしたりしてる。じきに、ロロは能天気な声を上げた。


『なんか大丈夫みたい』

『ばかなっ!』


 一転し、バッテルが動揺を見せた。


『何故黒竜にならない! ユーレスもそれで黒竜になったんだぞ! いや、仮にならなくても何でそう平然と……』


 気が動転をしている様をバッテルが見せている。クリフも心底驚いていた。ロロの様子だと、大してダメージを受けたようには見えない。本当に平気なようだ。そういえばファルゲオンが、ロロは普通の竜とは違うということを言っていた。これも、その理由の一つなのだろう。


 なんにせよ、だ。


「ロロ。またこいつがさっきのをレイたちに撃ったら止めてくれ」

『分かった』

「守れるのはお前だけだ。頼んだぞ」

『うんっ』


 弾んだ声の返事を聞くと、クリフはバッテルの方を向く。

 クリフは満面の笑みを浮かべた。


「さて―――」


 バッテルの身体がビクンと震える。


「覚悟は良いな、黒竜」


 クリフは一歩前に踏み出す。同時に、バッテルが一歩引く。


『ふ、ふん。なに調子に乗ってるんだ。お前の武器はボロボロじゃないか。そんなので俺を倒せると思うな。じきに壊れて、そしたらまた形勢逆転だ』

「いや、そうはならない」

『なに?』

「一回もてば十分だ」


 クリフは胸ポケットから掌サイズの薬袋を取り出す。そこから赤い丸薬を一つつまみ、口の中に入れて噛み砕く。丸薬を呑みこむと、すぐに身体が熱くなった。

 丸薬の効果を体感してから、クリフは閃光のように駆けだした。迷いなく真っ直ぐと、バッテルの足元に向かう。バッテルが反応して噛みつこうとしたが、難なく避けて胴の下に潜り込む。すかさず、大剣を振り上げた。


 一閃。たった一回の斬撃。後先考えず、渾身の力を込めた一撃。たったそれだけの攻撃を、バッテルの腹に喰らわせた。

 だが、この一撃で勝負はついた。


『な、なん、だ、それ……』


 腹の大部分を斬り裂かれたバッテルが、身体を横に傾かせる。どしんと大きな音を立てて地面に倒れ、恨みがましそうな眼でクリフを睨む。

 クリフは折れた大剣を肩に担いだ。


「全力で振ったから折れちまったんだよ」


 ぶっきらぼうに、クリフは答えた。


 《怪力薬》。それがクリフが呑んだ丸薬の名前だった。戦士団が開発した薬で、飲むと膂力が増幅する。その効果は個人差があり、数秒間しか効果が続かない者がいれば、十分以上持つ者もいる。クリフの場合は効果時間が十秒間と短いが、力の増幅率は並の戦士を遥かに超える。あまりの威力に武器がもたずに壊れるほどだ。そういった理由から、クリフは《怪力薬》を使わずに戦うことを心掛けていた。

 しかし武器が壊れかけの今、普段通り戦ってもすぐに壊れることが予想出来た。だからクリフは《怪力薬》を使い、全力で大剣を振るった。


 予想通り、振り上げると同時に大剣は折れた。このあとも戦闘が続くようなら支障の出る事態だが、その心配は無用となった。

 バッテルは倒れており、この傷だと間もなく死ぬ。悪足掻きする力も無さそうだ。


「とっておきの武器は最後までとっておくものなんだよ。俺の場合は、いろいろとデメリットが多いからやらなかっただけなんだが……」


 クリフは折れた大剣を捨て、黒刃のナイフを握る。


「大事な友人を傷つける奴には容赦しない。そのためなら武器の一本や二本、くれてやるよ」

『……そうかよ』


 バッテルの頭部に近づき、クリフはニ三度ナイフを握り直す。


『俺は、とんでもない奴の縄張りに入り込んだってことか』


 躊躇うことなく、ナイフを振り下ろした。


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