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最弱の竜は最強の竜狩りと恋をする  作者: しき
第二章 竜の友達
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38/69

2-13.予定は未定

「まずユーレスを探せ」


 アーデミーロから出発してコマロットに着いたクリフたちは、二手に分かれて行動した。クリフとロロは宿を探しに、レイとルイス、ケイトはコマロットの戦士団詰所への連絡に向かった。町を経由して任務に向かう時、途中の詰所で戦士に所在を報告する必要がある。その報告をレイたちに任せている間に、クリフはロロにガタラ村での活動の打ち合わせをするつもりだった。

 クリフはコマロットに到着する前から決めていた宿で部屋を取ると、すぐにロロと打ち合わせを行った。


「ロロが探すの?」


 ロロは首を傾げてクリフに聞き返す。クリフは「あぁ」と肯定する。


「今回の黒竜はユーレスである可能性がある。だがお前の話を聞く限り、ユーレスは人を襲わない善良な竜なんだよな?」

「うん。優しい竜だよ」

「ならば別の竜が来て、そいつが黒竜である可能性がある。だが現段階ではそれが分からない。だからお前が確かめろ」

「どっちが本当かってこと?」

「そうだ。村に着いたら、お前は知人に会いに行くとか言って俺たちから離れろ。俺が詰所で作戦会議でもして時間を稼いでいる間に、お前はユーレスが黒竜かどうかを確かめに行け。分かり次第、俺に報告しろ。いいな?」

「分かった。……ねぇクリフ」

「なんだ? 分からないことでもあったか」


 ロロは頭を左右に振る。そして悲しそうな顔で聞いてくる。


「ユーレスが黒竜だったら、殺しちゃうの?」


 少しの間、クリフは沈黙する。だが意を決して、クリフは己の考えを口にした。


「あぁ、殺す」


 ロロは表情が強張った。


「黒竜は人を喰う。か弱き一般人を守るためなら、たとえ相手がお前の友でも殺す。それが俺の使命だ」


 黒竜に襲われて死んだ者、不幸になった人を何度も見て来た。彼らの悲痛な声を何度も聞いた。彼らの安全を守るためにも、クリフは黒竜を倒す。

 クリフは守りたいものを守る。か弱き一般人は、その対象だ。


「ユーレスがただの元竜なら見逃してもいい。ファルゲオンの例もあるからな。だが黒竜ならば容赦しない。お前だって、黒竜の危険性が分かるよな」


 フェーデルに現れた黒竜は、知恵が回る狡猾な竜だった。竜狩りのエリザベスに化けた上に、黒竜であることを上手く隠して町に侵入し、大勢の人々を殺そうとした。一つ間違えれば、今頃フェーデルは滅んでいただろう。


 もしユーレスが黒竜になっていて、クリフが情けをかけて見逃したら、ガタラ村が襲われる可能性が高い。よく知った村を襲うことは簡単なことだ。


「だからお前も邪魔はするな。黒竜だったら、ちゃんとそれを報告しろ」


 ロロは返事をしない。悲しそうな顔をして、視線をクリフから外している。

 クリフの不安が増幅する。昨日、ユーレスの事を聞いたときから抱いていたものだ。もしユーレスが黒竜だったら、ロロは逃がしてしまうのではないか、と。


 ロロの性格と今の態度から、それが確信に近づいて行く。釘を刺そうと、クリフはロロに忠告する。


「なぁロロ。もし―――」

「分かった」


 ほぼ同時に、ロロが答えを返す。


「ユーレスが黒竜でも、ちゃんと報告する」


 ロロの表情に変化はない。悲壮感のある表情だ。


「良いんだな? 友達を殺しても」

「……フェーデルで起こった事、ちゃんと覚えてるよ。あのとき、もしかしたらみんな死んでたかもしれないって……。だから、クリフに任せる」


 表情は変えずとも、声に力があった。優しいロロからしたら、これは苦渋の決断だろう。


「あぁ、任せろ。ちゃんと倒してやる」

「うん……あ、けど黒竜じゃ無かったら見逃してくれるんでしょ?」

「……まぁな」

「ホントだよね? 信じるよ」


 クリフは呆れながら「あぁ、信じろ」と答える。ロロの表情は少しだけ明るくなった。


「じゃあ、約束だよ」


 そうしてロロとの打ち合わせを終えると、レイたちと合流した。その後は食事をとり、男女で別れて取った部屋に泊まって一夜過ごした。


 翌朝、クリフたちは戦士団で用意した馬車に乗ってガタラ村に向かった。ガタラ村までの道は若干上り坂になっている場所が多い。そのため速度は出ないが、距離はさほど遠くないため約二時間で到着できた。

 ガタラ村の詰所までは馬車で移動し、到着するとクリフたちは馬車から降りる。クリフはロロと目を合わせると、ロロが軽く頷いた。


「じゃあ、ロロは友達に会ってくるねー」


 打ち合わせ通り、ロロはクリフたちにそう言った。昨日の食事中、ロロがガタラ村の出身であることをレイたちに知らせている。故に、ロロの言葉に不自然なところはない。クリフとロロは、安心してお互いを見送ろうとしていた。


「あの」


 だが、レイがロロを呼び止めた。


「へぇ?! な、なにレイちゃん?」


 動揺しているのが丸分かりな程の反応をロロは返す。だがレイはそれを気に止めずに話す。


「ロロちゃんの友達に会ってみたいんだけど……いい?」

「へぇあ?!」


 またもやロロは変な声を出す。ロロは今まで見たことのないほどの困惑顔だ。

 だが、そうなるのも無理はない。なんせ人と積極的に関わろうとしなかった相手が、最悪のタイミングで動き出したのだ。クリフも表情には出さないように努めているものの、レイの行動に対して大いに動揺していた。


 クリフは、ロロが助けを求めるような眼で見ていることに気づく。さすがのロロも、レイの予想外の動きにどうすれば良いのか分からないようだ。クリフは助け舟を出そうとした。

 が、一手遅かった。


「いいねそれ! ボクも会ってみたい!」

「ロロの友人か……黒竜相手の余興になるかもな」


 ルイスとケイトも乗り気である。この流れはまずい。すでにロロの友人と会う雰囲気になっている。


「おいお前ら、今から大事な任務なんだぞ。そんなことするより作戦会議をすることを優先しろ」

「えー。けど気になって仕方ないんだもん。こんなに気が散ってたら任務に集中できないかも」

「大丈夫だって。アタイはちゃーんと仕事してやるから。それに竜狩り様もこっちに興味があるみたいだし、後で良いんじゃねぇの」


 口下手なレイの代わりに、二人がすぐに反論してくる。正論で抑え込むこともできるが、やり過ぎて不機嫌にさせると任務に支障が出る。二人とも感情が表に出やすい戦士だ。その可能性が高い。


 しかし、クリフにはそれ以上に気になっている点がある。レイの事だ。

 レイは真面目な性格だ。一緒に任務に行ったことは無いが、普段の関わり合いでそれは把握している。おそらく、任務に対しても実直に努めるだろうとクリフは推測していた。寄り道などせず、迅速に任務を遂行すると。


 クリフの見立てが外れたのか、それとも別の理由があってのことなのか。レイがどんな考えを持ってそんな事を言ったのか。少しばかり、興味が湧いた。


「仕方ない。さっさと会って、さっさと戻るぞ」

「え?」


 ロロが困惑顔を見せた。クリフは目配せをして合図する。ロロは理解した様で、軽く頷いた。


「しょーがないなー。じゃあロロの友達のとこに会いに行こう」

「おー。楽しみだなー。どんなかわいい子かなー」

「男の子だよ」

「ちっ」

「うわっ。サイテー」


 ケイトとルイスはロロについて行く。レイは一度クリフと目を合わせてから、ロロたちの後を追う。

 やはり、何か思惑があるのか。クリフは歩きながら、レイの考えを推理する。だが全く見当がつかなくて、すぐに止めた。会えば分かるだろう。そう楽観的に考えた。


 村を歩いていると、何人かがロロに話しかけてくる。


「おはようロロちゃん」「あら、久しぶりだね」「よっ、ロロ。元気にしてたか」


 皆好意的に挨拶をしてきて、ロロは元気よく返事をする。彼らと一言二言話してから、ロロはまた歩き出す。気が逸っているのか、急いでいるように思えた。任務の事を考えて早く終わらせようとしているのか。はたまた、これを機にアレンという少年に会えることを喜ぶあまり、知らず知らずのうちに気持ちが高ぶっているのかもしれない。

 どちらにせよ、ロロがクリフの事を考えて動いてくれている。早く終わることに越したことは無い。ロロの行動を前向きに捉えた。


「あそこだよ」


 村の端に着くと、ロロは歩きながらある一軒家を指差した。ガタラ村の他の家と同じ、木造の家。だが周りの家よりも少し小さくて古いそうに見える。クリフアが壁を殴れば、簡単に崩れ落ちそうに思えるような家だった。


「アーレーンー」


 ロロは気軽にその家に入る。弾んだ声でアレンを呼びかけると、家の奥から「はーい」と声が返ってくる。目的のアレンとやらは家に居る様だ。クリフたちもロロに続いた。


 家の中は予想通り狭く、クリフたちが入るとより窮屈さを感じた。壁沿いには台所があり、部屋の中央には小さなテーブルがある。ここで普段食事をしているのだろう。奥には扉が二つあり、そのどちらかが寝室だとクリフは推測した。

 左の扉にロロは向かう。扉を開けてすぐに、「久しぶりっ」と明るい声を掛けた。直後に「ロロちゃん、元気だった?」という声が部屋から聞こえる。


「うん。今日はね、お友達と一緒に来たんだ」

「友達ができたの?! おめでとう!」

「えへへ、ありがと」


 ロロは照れている様な笑みを浮かべる。アーデミーロに行った目的を、アレンには話していたようだ。


「へぇ。お前がロロの友達か?」


 ケイトが部屋に入って尋ねる。レイとルイスが続いて入っていき、アレンに挨拶をする。クリフは彼らの挨拶が終わった後に部屋に入った。


 寝室にはベッドが二つあり、奥の方のベッドにアレンという少年がいた。上半身だけを起こしてベッドに入っている小柄の少年は、さながら病人か怪我人なのかと思わせる。肌が白く、髪の色が薄い水色なのもあって、より一層身体が弱そうに見えた。


「あ、えっと、こんにちは」


 アレンがクリフを見ている。どこか怯えているような表情に、クリフは違和感を抱く。何かやましいことでもあるのか。だがその答えをロロがすぐに教えた。


「もう、アレンったら。クリフは見た目に寄らず優しいよ。住む場所の無いロロに寝床を用意してくれたんだから」

「そ、そうなんですか? すみません。ちょっとびっくりしちゃって」


 どうやらクリフの見た目に驚いていたらしい。昔、モンスターから助けた子供に恐がられたことを、クリフは思い出した。クリフの大きな身体と厳つい顔は、子供には不人気であった。少しだけ傷心した。


「いい。慣れてることだ」

「あっはっは。どーんまい」


 ルイスは面白がってクリフを励ます。イラついたクリフはルイスの頭を軽く叩いた。


 皆が簡単な挨拶をアレンと交わした後、ロロはアレンと会話を始める。その際、ケイトも会話に混じって村のことを知ろうとしている。会話に入りやすそうな雰囲気だというのに、レイは全く動かずにアレンを見ていた。

 レイはロロの友人に会おうとしていた。らしからぬ行動は、レイが何らかの意図があってのことだと思っていた。アレンと対面した時にそれが分かると思っていたのだが、当の本人は動く様子が無い。杞憂だったか。


 クリフが脳内で考えを纏めていたが、ロロの行動が気になって思考を中断した。ロロは時折、クリフの方に視線を向けて瞬きをする。その動作で、クリフは当初の目的を思い出した。


「そろそろ行くぞ。今日は任務に来たんだからな。挨拶もしたし十分だろ」

「そうだね。死ぬほど嫌だけど、遅くなって暗くなったらもっと怖いし、早く終わらそ」

「よっし。楽しい楽しい竜退治の時間だ」


 ルイスとケイトが異なった反応を見せながら部屋を出る。クリフも出ようとしたが、レイが動かないことが気になった。


「おいレイ。早く行くぞ。お前が来なきゃ意味無いんだからな」

「……うん」


 名残惜しそうな顔をして、レイも部屋を出る。レイの後にクリフが部屋を出る際、ロロに向かって瞬きをする。ロロはそれに応えて瞬きを返してきた。

 クリフはアレンの家から出ると、一同に声を掛ける。


「じゃあまずは、詰所で作戦会議だ。事前に黒竜の情報も知りたいからな」


 反対する者はおらず、クリフたちはそのまま詰所に向かった。ガタラ村の詰所は、アーデミーロの半分程度の広さだ。詰所の中を見ると、どこの詰所にでもある受付と、テーブルが三卓置かれている待合室しかない。


 クリフは受付に行って、黒竜の情報を求める。受付に居た職員は、それらの情報を纏めた資料をクリフに渡した。資料を受け取ったクリフは、待合室で待つレイたちの下に向かう。

 椅子に座って資料をテーブルの上に置くき、皆を一瞥する。レイはいつもの無表情面になっていて、ルイスは気が滅入っている様子だ。ケイトはニヤニヤと笑みを見せている。概ね、クリフが想定していた表情だった。つまり、いつも通りというわけだ。


 普段と同じ力を出せば黒竜を倒せる。フェーデルで黒竜を倒したクリフは、そう確信した。


「じゃあ、打ち合わせを―――」


 クリフが喋り始めた瞬間、詰所の扉が大音を立てて開く。それとほぼ同時に、男の声が聞こえた。


「こ、黒竜が出たぞ!」


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