お願いだから、もう死なないで
ディルーピ32年
「あぁ、ごめんねぇ、フュール」
フュールは目の前が真っ白になる。
対照的に、彼女は真っ赤に染まっていく。
(あぁ、また……まただ)
「駄目、駄目だよっ。死なないでよ、ルツィア」
フュールは叫ぶが、目の前の彼女は――ルツィア・ノートンはへらりと笑うだけだった。
そうして、ルツィアは目を閉じる。もう、この回で、息をすることはない。
(……これで、四千九百十三回目)
「もう、やだよ。ルツィア……」
そう言いながらも、フュールは魔法を行使する。彼にしか使えない魔法だ。
そうして、四千九百十四回目の過去に戻った。
「カハッ……」
魔力がほぼ空になる感覚と、鉄のような味が口に広がる。
目の前の土には小さく血が飛び散っていた。
「フュール! 大丈夫?」
フュールの目の前には、死んだはずのルツィアが心配そうにこちらを見ていた。
(……あぁ、良かった。成功してる)
フュールは自身の魔法が無事発動していることを認識し、安堵の息をつく。
「うん……大丈夫だよ。いつもの発作だから」
「そう……? 無理したら駄目だからね?」
そういって、ルツィアは優しくフュールの背中を撫でた。
この世界には運がいい者、運が悪い者、それと、どちらでもない者がいる。
運がいいヤツは大体、良い神に好かれていることが多い。
逆に、運が悪いヤツは大抵、良い神に好かれていないか、悪い神に気に入られている。
ルツィア・ノートンは後者だった。
いつも、運が悪い。間も悪い。性格が悪い訳でもないし、前世で罪を犯した訳でもない。
――そう、全ては、〈混乱の女神〉ルティスレーディアに気に入られてしまったのが、運の尽きだった。
建世界頃、〈混乱の女神〉ルティスレーディアが、魔獣と魔族の原点を作った。その女神に気にいられてしまったルツィアは魔獣と魔族から狙われる立場にある。
(……だから、僕が守ってあげたいって、思ったんだ)
否、そうではない。
フュールは精霊だ。そして、ルツィアは人間。フュールは精霊の中のトップ、八大精霊だ。八大精霊だから、彼はルツィアを助けられる。過去を改竄できる。
フュールは初めてあった時のことを思い出す。
精霊として生まれてまもない頃、ルツィアは怪我をしたフュールを助けてくれた。
だから、フュールは一緒にいたい、と願った。
ルツィアは運がない子だ。思えば、黒い靄がいつもルツィアの肩についていて不気味だった。
「私、ドジだからさ」
そう言って、軽く微笑んでいた。いつも運がなかったと、悲観することはなく、強い人だと思った。
これは、そんな精霊と人間の物語だ。




