第23話 天道翔ける未来都市【11】
オレとリリアはくたばりながら、リエンと校長の戦い、もとい戯れを眺めていた。相変わらず、というかやはり、時間を止めるようなリエンの動きはオレの眼でも追えない。それをどうして、校長は上回って速いのか……。
「……起こりか」
「ん、何が?」
「いや、対処法の話」
確かに、時間を止めるその直前、魔力の揺らぎがある。だから、そこに介入すれば発動させないことはできるだろう。……それならまだ、それならまだ分かるが。止められた上でリエンを上回っているんだ。無防備な一瞬を、作られているはずなのに……。
「はぁー、疲れたー。遊ばれてたよ、私」
「お疲れ。誰もあんな怪物を相手にしたら遊ばれるよ」
「おい、誰が怪物だ」
脚を引きずりながら、と言うのか。ヘトヘトと崩れるリエンをリリアが支え、その場に座らせる。対して校長はといえば、愉快そうな面持ちのまま、フワリとその場に降り立った。
それはそれとして。数日のうちにリエンに勝たなければならないのか。たとえ校長に敵わないとしても、彼女が化け物じみた実力であることに代わりはない。どうしたものか……いや、本当にどうしたものか。
「でも……びっくりだなぁ。二人が昔の時代の人だって……訳アリだとは思ってたけどさぁ」
「まぁ……そうだろうな、って言いたいとこなんだけど、妙に受け入れてたじゃんか」
「そりゃあ、私は時空魔導師だよ? 過去から来たって、無いことでもないかなって」
スケールが違うだろうと、ツッコミたい気持ちを抑えて空を見やる。空に浮かぶこの都市では、見える雲も薄い。と、そんな思いとは反対に、次の言葉に少し、詰まった。
「アキくんとリリアちゃんとは、お別れになっちゃうんだもんね。……寂しいな」
その横顔は、宙を見つめていた。寂しい、なんて、馴れ合ったせいだろうか。この世界は正史ではなく、あくまで作り物。テーブルの上で絵本を開いているような。仮に同じ門でもう一度やって来ても、それは似て非なる世界でしかない。
「……オレ達だって、寂しいよ」
「ふふ、そう?」
この世界を形作ったのはオレ達だ。そんなことを口にすることさえお門違いのように思えるが。そもそもそんな感情を抱くことさえ、非効率ではあるんだ。それでも馴れ合ってしまったのだから……。
「そういえばアキレスお前、過去、つってもお前らからしたら現代だろうが。戻ったらその時代のアタシに会いに行くつもりだろ?」
「あ、えっ……はい!」
咄嗟にかけられた声に、半分、上擦って。強制的に現実に引きずり下ろされた気分だ。それはそれで、どこか助かるところだが。
「それならほれ、これでも持っていけ。物の持ち帰りくらいできるだろ?」
「は、はい。えっと……これは?」
手渡された、白く輝く物体。手のひらに収まる程度のそれを大事に受け取り、見つめる。不思議な輝きと、透明感。引力、のようなものも感じるような……どこか幻想的な、宝石のようだった。
「それはアタシの爪だよ」
「うわぁああっ! 何やってんすか! 痛いでしょ!」
「別に痛くねぇよ」
一旦呼吸を。……よし。確かに手元は、血を流しているようにも見えない。龍の鉤爪なのだろうか。変態趣味かとも思ったが、流石に違うか。
「アタシに会ったら、それを見せな。そしたら話は聞くはずだよ。後はまぁ……武器にでも何にでも使うといい」
「い、いいんすか……?」
「どこから来てても、ウチの生徒だからな。多少の便宜は図ってやるよ」
竜の鉤爪でさえ、特殊級の武器が作れる。それが原初の存在、龍となればまるで別格だ。古代級、いや、神話級のものになるだろう。問題は、それを作れるほどの者がいるのか……。
「いや、ありがとうございます! 大事に……」
《攻略完了を確認しました》
「……っ!?」
「……? どうしたの、アキくん、リリア?」
突如として、オレ達の脳内に響いた音。最初の攻略のときにも聞いた、あの音。攻略完了? 何を言っている? オレ達はまだ、リエンに勝ってなど……。
《特殊攻略条件・アゴン・ラハードからの教育を確認。達成報酬を確認しました。並行攻略・アゴン・ラハードの贈り物を確認、報酬を追加します》
「ちょっ、おい! 待てって!」
どういうことだ? 何かがおかしい。確かに前と同じ声と処理だが……何かが。……いや、いずれにせよ、だ。まだ心の準備が……。せっかく仲良くなって、『未来』というリリアの空間魔導が学べる良い機会なのに……っ!
「おい! まだやらなきゃいけないことが……」
《報酬を確定しました。魔導書の解読をさらに三パーセント進行。龍の鉤爪、および普通級の回復薬をランダムで三から五つ付与、希少級の回復薬を一つ付与》
声は届かない。音声は全てシステムだからだ。こちらの声を無視して、ただ淡々と、決まったことを出力していく。
《……エラーを検出、既存の普通攻略の未攻略を確認。詳細を確認します。……確認失敗、確認を繰り返します》
「……?」
やはり、何かが。そうだ、オレ達はリエンに勝利するという過程を飛ばしている。ということは、校長と交流するのは彼女に勝てた場合の分岐……ということか?
《……想定外の分岐選択を確認。至急、報酬を確認します。………………決定しました。本攻略者に限定し、同門において永久的に特定、同一の世界に入門することを許可します》
《アキレス・シュリム・ジークレッドおよび、リリア・ミューザの攻略完了を確認しました。同二名には特別に五階までの門を攻略する権限が与えられました。以上で攻略を終了します》
嵐のような情報に、変わらず頭は混乱する。何が何だか……五階だって? 二階を攻略して五階までとは、一体何事か……。いや、今はそんなことより……。
「ね、ねぇ! 二人共! ……帰っちゃうの……?」
魔力がオレ達を包み込み、帰還の準備を始めた。渦の中、相変わらずこの力には逆らえない。けれどどこか……先ほどよりはずっと、気持ちが軽い。
「また、会おうね、リエン」
「またね! リエンちゃん!」
「……っ! うんっ!!」
元はといえば、与えられた黎明魔導のおかげだが。どんな理由にせよ、「特定、同一の世界に入門」と、そう言った。ということは、オレ達はこの世界、一寸も違わないこの世界に帰ってこれる。
リエンの笑顔、振る手に送られながら、オレとリリアはまた、元の世界、時代へと引き戻された。どこか夢見心地ではあるものの、記憶には確かに刻まれているものがあり。手の中には、あの塊が残されていた。




